パースが苦手な人のための背景講座|吉田誠治
KUAイラストアドベントカレンダー、12月16日はイラストレーターの吉田誠治先生から『パースが苦手な人のための背景講座』です!
こんにちは、背景グラフィッカーの吉田誠治です。京都芸術大学通信教育部イラストレーションコースでは、主に背景についての授業を受け持っています。
イラストにおいて背景はとても大事な要素で、背景が描けると表現できるものが格段に増え、仕事の幅も広がります。一方で、人物のイラストに比べると背景を描くのが苦手という人はかなり多い印象です。今回は、背景に対する苦手意識を少しでも無くせるように、パースを使わない背景についてお話したいと思います。
背景にパースは必須ではない
背景が苦手という人はかなり多く、特に学生では背景が得意という人はほとんど見たことがありません。そして背景が苦手な理由を聞くと、ほとんどの人が「パースが分からない」と答えます。
パースは確かに難しいです。複雑な図を描けないといけませんし、「消失点」や「アイレベル」などと言った用語は説明されてもすぐには理解できません。そこで諦めてしまう人が多いのは当然だと思います。
ところで、パースは背景を描くために本当に必須なスキルでしょうか? 私はそうは考えません。パースがわからなくてもとりあえずそれっぽい背景を描くことはできます。
極端な話ですが、立体感を出したいのであればいちいちパースなんか考えず、モチーフを重ねるだけでも十分ではないでしょうか。これは重畳遠近法といって立派な技法の一つです。
「いや、それじゃあ描きたい世界は描けない」と思うかもしれません。ですが、クオリティの高い背景をいきなり描こうとして挫折するぐらいなら、まずはパースを使わない簡単な背景を描くところから慣れていって、次第にレベルを高くしていく方が練習方法としては堅実ではないでしょうか。
楽に描く
学生に「学校の廊下に立っている人を描いてください」とだけ言うと、ほとんどが左の図のような絵を描いてきます。この絵はパースの技術的にはそれほど難しいものではないですが、それでも人物と背景のサイズの違いが起こりやすかったり、そもそも密度が高くて慣れていないと簡単には描けません。
そこで右のような構図にするとどうでしょうか。これならパースがよく分からない人でも窓枠の大きさや高ささえ気にすれば描けますし、線も少ないので作画に必要な時間がかなり短縮できます。何より廊下に立っているという状況だけを伝えたいのであれば、右側の構図でも十分伝わります。
例えば左のような密度感の高い背景は、ここぞというときの漫画の決めゴマでは効果的ではあるものの、日常のなんでも無いシーンに使うには密度が高すぎて逆効果になることもあります。
「背景に注目させたくない」「ただ状況を説明したい」というときの背景であれば、右のような真横から見た構図のほうが人物に集中できるので効果的です。
真横から見た構図の場合、地面からの高さだけ気にしておけば要素の多い背景でも比較的楽に描くことができます。最初はいちいち大きさを測るのは大変ですが、ある程度日常にあるモチーフのサイズが理解できれば自然と適切なサイズで描けるようになっていきます。まずは普段からいろいろなもののサイズを意識することが大事です。
「パースを使わない背景」の例
他にも、パースを極力使わないで背景を描くための方法をいくつかご紹介しましょう。
例えば先程の人物の絵の場合、天井と壁の境目を描いて額縁などを描いてあげるだけでも「室内」の状況説明にはなります。カレンダーやエアコン、棚などを描けば、より説得力のあるイラストになります。真横から見た角度で、奥行きをできるだけ狭めて描くというのがコツです。実際の風景(上の絵の場合であれば自分の部屋など)を見ながら、例えば本棚の本をちょっと傾けるなど細かい部分にこだわりを入れられれば、手抜きとは思えない仕上がりになります。
そもそも全身を描かずバストアップにしてしまえば多少のサイズの違いはごまかせますが、どうしても全身を描かなければならない場合、左の絵のように地面を描いてしまうと難易度が高くなります。
これは、接地面を見せるとサイズ感などパースの整合性をつける必要があるからです。思い切って接地面を草などで隠してしまえば楽に描けます。複雑な背景にはあまり向かない解決法ですが、開けた風景や自然物が多い風景などではこれが有効です。
遠景を描くときは、サイズの整合性を気にせず自由に描いてしまっても矛盾は起きにくいです。地平線の高さも好きなところに置いて構いません。変にアオリや俯瞰にせず、真横から見た状態で描いて背景に慣れましょう。
廃墟はパースを誤魔化しやすいのでオススメです。破片の大きさに変化をつけてあげたり、草などでシルエットに変化をつけてあげるとより自然に見えます。あとは前景を黒く塗りつぶしてみたり、空中に葉っぱとか塵とかを適当に飛ばしたりするだけでもなんとなくいい感じにすることができます。
こういった背景の手の抜き方は、特に漫画などで多用されています。普段から漫画を読む際には、背景をどう処理しているのかちょっと気にかけてみると発見があるかもしれません。
できることから練習する
「そもそもモチベーションが保てない」「背景を描く気になれない」という方は、まず自分の好きなモチーフで練習するのが良いでしょう。好きな世界観、好きな観光地、好きな建物などでも良いですし、思いつかなければ好きな漫画やアニメ等を参考にしても構いません。身近な風景、例えば自宅や通っている学校などよく知っているところも描きやすいモチーフになります。
苦手なものを練習して弱点を無くそうとする人も居ますが、初心者のうちは背景そのものに慣れるほうが重要です。人工物が得意な人は人工物を、自然物が得意な人は自然物を練習しましょう。極端な話、プロになるまで苦手なジャンルは放置しても問題ありません。苦手なものを嫌々描いてもモチベーションには繋がりにくく、結果として技術もつきにくいからです。逆に、得意なものであれば時間をかけて描いてもストレスになりにくく、その魅力についてもよく知っているため、上達も早くなります。
もっと言うならば、初心者のうちは何をやっても経験値になるので、とにかく練習方法に悩まず、数をこなすことを最優先して描き続けるようにしましょう。飽きたらすぐ別のモチーフや練習方法に変えてしまって構いません。いろいろ試して自分に合ったモチーフや練習方法を見つけてください。
まとめ
最後に今回のポイントをまとめておきます。
背景を描くのにパースは必須ではない
誤魔化しかたはいくらでもある
好きな題材でいいので数をこなす
とにかく背景については、苦手という方がほとんどだと思います。そんな状態から練習するのであれば、無理に頑張って挫折してしまっては元も子もありません。何があっても描き続けられるような方法を見つけることが、上達への1番の近道です。
もちろんいつかはパースについても理解しなければならないのですが、それは背景にある程度慣れてからでも遅くありません。むしろある程度慣れてからの方が、初心者のときよりも理解は圧倒的に早いと思います。パースの他にも建築の知識や自然物の描き方、世界観の作り方、ライティングや質感など、背景には学ぶべきことが無数にあり、一朝一夕ではとても学びきれるものではありません。
これらを身につけるためには、いきなり高い目標を設定するのではなく、簡単な課題をいくつも用意して、それを気持ちよくこなしているうちにいつの間にか様々なことが身についている、ぐらいの気長さの方が良いのではないかと思います。下手でも良いので、何か描いていれば少なくとも何も描いていないときよりは上達しているはずです。そうやって積み上げていけば思いもよらないような絵がいつかは描けると信じて、描き続けていただけたらと思います。
プロフィール
吉田誠治
京都芸術大学通信教育課程イラストレーションコース講師https://twitter.com/yoshida_seiji
背景グラフィッカー、イラストレーター。PCゲームメーカーのグラフィッカーを経て、現在はフリーランスとして活動中。
背景グラフィッカーとして『素晴らしき日々~不連続存在~』『神学校 -Noli me tangere-』など多数のゲームに参加するほか、近年は『美しい情景イラストレーション』などでイラストレーターとしても注目される。近著として『ものがたりの家 -吉田誠治美術設定集-』がある。
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