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新規事業に好循環をもたらす“UX”とは?

今や新規事業立ち上げで成功を収めるには、ユーザー中心のアプローチを取り入れた事業検証が不可欠になっています。

そんな新規事業立ち上げにおける体験設計・UXデザインは、単なる顧客視点の理想を実現する方法論的なアプローチではなく、事業検証をしていく上で直面するあらゆる課題を解決し、ビジネスとしての成功と顧客の成功の両立を叶える鍵になり得るものだと私は考えます。

本記事では、顧客の行動や要望の裏にある背景に着目することでよくある事業検証の落とし穴を避ける方法や、UX的な観点を取り入れることで事業検証の確度を高める方法を提案したいと思います。

ニーズがある≠利用してくれる

新規事業を立ち上げる際、多くの事業責任者の方や担当者はビジネスモデルや顧客からの“要望”を叶えるための機能に気を取られてしまいやすく、顧客の深い課題が隠れている「ユーザー自身が工夫している行動」「まだできていない理由」などの重要な要素を見落としてしまうことが多々あります。(※私自身それで失敗した経験が多々あります…)

そもそも市場があり顧客の要望を満たす機能が豊富にあっても顧客の本質的な深い課題を解決できなければ大きな成功には辿り着けないですし、顧客の強いニーズがあったとしても利用のハードルが高くそもそも使ってもらうことすらできないサービス・プロダクトでは事業の成功確度は大きく低下してしまいます。

それでは、顧客のニーズが十分にあると確信した事業領域でも、ユーザーが利用してくれないサービスやプロダクトが生まれてしまうのはなぜなのでしょうか?

ニーズから作るMVPの落とし穴

顧客へのリサーチで確かめられたニーズをもとに、MVP(Minimum Viable Product)を作り出そうとした時に陥りやすい落とし穴が「ユーザーの行動が起こる前提でMVPを作ってしまう」ことです。

これはリサーチで得た顧客の要望や要求をMVPとして盛り込もうとする過程で起こる一種のバイアスで、何らかの課題を抱えるユーザーが行っている現在の行動を「非効率なもの」「ユーザーも変えたいと思っているもの」だと無意識的に思い込み、現在ユーザーが行なっていない新たな行動を軸に体験設計をしてしまうことで起こります。

この落とし穴を避けるためには、ユーザー自身が課題解決のために工夫している行動から学習するプロセスが欠かせません。
例えば、「エクセルで専用のシートを作って解決している」「派遣社員の方を雇って特定業務をお願いしている」「メモ帳に書いたものをスクショして添付している」のように、既存サービスや既存のプロセスでは満たせていない部分をユーザー自身が工夫して回避している行動には本来提供すべき価値に辿り着く体験設計のヒントが多く眠っています。

「Why not yet」に隠れた落とし穴

また、強いニーズがあるにも関わらずまだ解決されていない課題の裏に潜む、ユーザーの行動変容を阻害している「まだできていない理由(Why not yet)」を正しく把握することも事業づくりにおいては重要です。

例えば、合理的に考えると変えた方がいいけれど変化を避けてしまう「現状維持バイアス」のようなユーザー心理や、「上司に話を通すのに多くの時間がかかる」「慣習的に変えるのが難しい」のようなユーザーを取り巻く環境・状況など、まだできていない理由に隠れた阻害要因こそが事業の成否を左右することもあります。

このようにユーザーの強いニーズだけではなく、その背景にあるユーザー心理や環境・状況から正しく把握することで、そもそも行動が起こらない理由を潰すアプローチや価値に辿り着きやすい体験を備えた事業を作ることができます。

では、これらの落とし穴を回避して顧客と事業を成功へ導くために重要なものとは何なのでしょうか?

“一次情報” is King.

ここまでに記載した落とし穴を回避する方法は驚くほど簡単です。
それは“一次情報”となる顧客の声をひたすら聞きに行き、顧客の置かれている環境や状況を深く理解すること。

もちろん市場リサーチをすることも重要ですが、昨今UXリサーチャーを専門職として募集する企業が増えていることからもわかるように、本質的な問いを立て実際にバーニングニーズを抱えた顧客を特定するために一次情報を徹底して取りに行くことこそが、事業の方向性や持続性を決める意思決定の鍵になり得ます。

ここで実例として、私がUXデザイナーとして立ち上げ時からかれこれ4年程携わってきた「Onn」というサービスのチームでどのような取り組みをしているのかいくつかご紹介します。

1. 一次情報を常に取りにいく

「Onn」ではこれまで幾度もピボットを繰り返しながら顧客への本質的な価値提供を追い続けてきました。その中で変わらずに立ち上げ初期からやり続けていることが、(顕在的/潜在的な)顧客に会いに行き、一次情報を常にチームとしてインプットし続けることです。

その結果として、小さなニーズではなくより大きな課題やバーニングニーズにアクセスすることができてきましたし、サンクコストを超えてその時々にあった適切な意思決定ができていると感じています。

一次情報を取りにいくのは誰でも(事業責任者でもBizでもPdMでもデザイナーでもCSでもエンジニアでも)いいですし、むしろ継続的に誰かが取ってきた一次情報に全員が気軽に触れる仕組みを組織として整えることこそが重要です。

2. 顧客とチームの距離を限りなく0にする

「Onn」のチームでは、顧客の声をNotionにストックしながら、Slackのオープンチャンネルでサマリーや担当者の所感を添えてタイムリーに共有することで、職種関係なくチーム全員が気軽に一次情報に触れる機会を仕組み化しています。

SaaS Design Conference 2022に登壇した際のスライド

この仕組みにより、前述の通り顧客の声や課題が発生している環境や状況がチームの共通言語として機能していますし、「どのような価値を誰に対して提供すべきか」「何を作るべきか(作らないべきか)」などの重要な意思決定を一次情報が裏付けとなり支えています。

3. 顧客に素早く当ててニーズを確かめ続ける

また、一次情報群から微かに感じられる裏付けが確かではない潜在的なニーズ(Seeds)の扱いに困っている組織も多いのではないでしょうか。

成功した事業の要因を振り返った時、そういった裏付けが確かでないニーズを捉えたことが事業成功の重要な要因になったというエピソードも数多く存在します。とはいえ、裏付けが確かでない状態でいきなり「作る」という意思決定はしづらく、更なるリサーチを重ねるにしても潜在的なニーズを確かめていく方法が必要です。

そこでOnnでは、開発を必要としない資料ベースのプロトタイプやデザインベースのプロトタイプを作って、顧客に素早く当てながらニーズを確かめていくような顧客巻き込み型の試行も行っています。

まとめ: “顧客”を事業の中心に据える

このように、事業立ち上げの過程に常に付きまとう“わからなさ”を放置せず、わからないからこそ一次情報に触れにいくマインドや行動量を大切にすることで、顧客の置かれる環境や状況、更には実際のワークフローやユースケースに融けた本当に顧客から求められる事業を作り続けることができると私は信じています。

昨今、生成AIを中心とした技術的なパラダイムシフトが起こりました。数年前では考えられないような価値提供の仕方が実現できるようになり、生成AIを活用したサービスが世界中で日々数多く生み出されています。
一方で、様々な要因はありますが日本企業では生成AIの導入は18.0%にとどまるなど、技術単体だとなかなか取り入れづらい状況が続くことも予想されます。

そんな変化の時代にあるからこそ、事業の本質である顧客理解に再度立ち戻り、価値提供をする相手である“顧客”を事業の中心に据えた組織とそうでない組織には雲泥の差が生まれていくのではないでしょうか。

※本記事は社内向けに公開していた思考メモのテキストを生成AIを活用しながらリライトしました。

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今回お話しした新規事業における体験設計のコツに関連して「ビジネスとユーザー体験の接続をどのようにするのか?」について以下の記事にまとめていますので、ご興味のある方はぜひご覧ください🙌

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國光俊樹
記事を最後まで読んでくださってありがとうございます。とても嬉しいです!