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ピープル・アナリティクスでデータ可視化が活躍する4つの場面

人事データを分析するときデータをグラフで可視化して考えるというのは基本的なアクションになります。一方、可視化は分析作業の中だけでなく、ピープル・アナリティクスの様々な場面で活躍します。この記事では、ピープル・アナリティクスにおいてデータ可視化が活躍する4つの場面を取り上げます。


場面1: 探索的データ分析(EDA)

分析の目的に沿った人事データが分析者の手元にやってきたとき、まず初めに行うのが探索的データ分析です。探索的データ分析とは、データのサンプルや統計量を確認しながらデータの特徴を把握し、分析アプローチや課題を抽出する作業を指します。以下、探索的データ分析のことをEDA(Exploratory Data Analysis)と呼ぶようにします。

このフェーズの一歩目として、まずデータを理解することが重要になります。しかし、単にデータを眺めてもなかなか理解が進みません。そこで、グラフを用いてデータを可視化し、統計的な観点でデータに対する理解を深めることが重要なアクションとなります。

EDAでは分析の切り口が重要になるのですが、データ分析を始めたころはアイデアがなかなか出てこないことが多く苦労していました。データ特性から考えると、量的変数は代表値やばらつきを確認すること、カテゴリ変数(質的変数)はカテゴリと度数を確認すること、そしてこれらの組み合わせを確認することが基本戦術になります。ただし、こうしたセオリーと分析の目的を紐づけるには慣れと経験が必要になります。

EDAを意義のあるものにするには、少なからずドメイン知識が重要になります。つまり、ピープル・アナリティクスにおいては、人事プロセスや制度に関する背景知識が重要になります。その上で、データを生成するメカニズムに着目し、例えば人・組織といった観点で切り口を考えることが効果的です。これについては、以下の記事で取り上げています。

また、先日投稿したエンゲージメント分析の例はEDAにおけるデータ可視化の活用例と言えますので、興味のある方はご覧くださいませ。

EDAではとにかく大量のグラフを作り見て考えるという作業が発生します。そしてその大半が分析上無意味であることが多く、分析者にインスピレーションを与えるグラフは数枚程度ということも珍しくありません。しかしながら、大半のグラフが無意味であったとしても、データ探索の過程は極めて重要です。EDAでは手と頭を動かしながらあれこれ思案していくプロセスこにそ価値があるのではないかと考えています。

場面2: ダッシュボードによる情報伝達

ピープル・アナリティクスでは、人事情報の関するダッシュボードを作って全従業員や管理職に情報を伝えることも重要な出口の一つになります。例えば、次のような目的でダッシュボードを構築し社内に向けて公開していくことが考えられます。

  • ラインマネジャー向けにメンバーの時間外や年休消化率について注意すべき点をアラートとして伝達する。

  • 部門長向けに人員構成および配置状況、エンゲージメント、勤怠状況を整理して伝える。

  • 全社の人事重点施策の進捗状況を人事部門と経営層で共有する。

  • 人的資本経営に必要な情報を整理・俯瞰し人事部門と経営層で共有する。

ダッシュボードの例として、BIツールのTableauを利用して先日の記事で取り上げた例題データを可視化してみました。Tableau publicを利用していますので、こちらからアクセスすることも可能です。

Tableauを使ったダッシュボード例(エンゲージメント)

ダッシュボードを構築する際には、「何の目的のために、誰に、何を、どのような頻度で伝えるか」という問いに答える必要があります。上にあげたTableauの例は記事のために作った簡易的なものですが、経営層または人事向けのダッシュボードを想定しています。一般的に、このような俯瞰的な情報は参照権限を注意深く設定する必要があり、今回の例のような情報が全社のラインマネジャーに展開されることはあまりないのではないかと思います。

今回はTableauを使ってみましたが、目的・用途に応じてBIツールの選定がなされるべきでしょう。とはいえ、現実的には走りながら徐々にダッシュボードをそろえていくこともあるかと思います。また、既存の人事管理システムとのすみ分けも検討する必要もあるかもしれません。このため、ピープル・アナリティクスの導入期においては、アジャイルに少しずつ拡張していくことになるのではないかと考えています。

場面3: 意思決定を促すストーリー作り

人事領域に限らず、企業の中のさまざまな意思決定の場面で定量的な情報が求められることは多々あります。例えば、投資判断、事業構想のGO/NoGO判断、製品企画の承認、業務プロセスの改善施策のレビューなど、様々な場面が頭に浮かんできます。

こうした場面では必ず意思決定者と説明担当者が登場し、意思決定者が説明内容を把握して何らかの意思決定を行います。このとき、定量的な情報を明瞭かつ迅速に伝える手段として、しばしばグラフによるデータの可視化が効果的に働きます

特に膨大なデータのサマリや結論に至る洞察を示す場合、数字の羅列だけでは読み取りにくく、聞き手の負荷をあげてしまいます。そこで、データをグラフで表現し、誰が見てもその主張が分かるような形で表現することが必要になります。

ピールル・アナリティクスにおいては、新しい人事施策のGO/NoGO判断をする場面や既存施策の効果を評価して結論付ける場面などがこれに該当します。またミクロ的に考えると、人事マネジャーがプロジェクトや業務を遂行するときに直面する大小さまざまな判断も意思決定と言えます。KKD(勘・経験・度胸)でなく定量的な意思決定を行うことは、人事領域にも求められ始めています

意思決定に利用されるグラフは厳選されたものになることが多く、はじめに取り上げた探索的データ分析での可視化とは対照的です。分析作業に携わった人はその分析の過程を全部伝えたくなるものですが、こうした場面では細かな曲がりくねった道筋を伝える時間はありません。考えてみると、調査や分析にかかった時間の1/10~1/1000程度の時間で説明しているわけですから、ストーリー上重要なところだけを厳選して他をそぎ落とす必要があるのです

一方、分析実務に携わる方は、意図的または偶発的にミスリードを招くようなグラフで説明しないように気を付ける必要があります。

場面4: 対話のきっかけ(データドリブン組織開発)

最後に取り上げる場面は「対話」です。これまでの話とは少し趣きが違うので、過去の経験から入ってみたいと思います。

私が初めて人事データ分析プロジェクトに深く携わったとき、過去にやっていたデータ分析プロジェクトとはずいぶん雰囲気が違うなと感じました。端的に言うと、関係者間で会話する場面が圧倒的に多いということでした。

その特徴として、対象業務や論点に向かってストレートに議論が進むのでなく、隣接領域や過去の話に話題が飛ぶことが多い印象を持っています。これはどんな分野でもあることですが、その分散が大きく感じました。会議中に出た話題から連想的に話題が縦横に広がっていくような感じです。

私ははじめの方は戸惑っていたのですが、そうした話を傾聴し議論を深めることで重要な課題にたどり着く場面に何度も遭遇し、目から鱗がボロボロ落ちることになりました。

ピープル・アナリティクスにドップリ浸かって感じたのは、人事部門の方はプロセスとして対話を重視しているということでした。ここでいう対話は業務上の課題解決のためのミーティングとは趣きが少し異なるもので、結論でなくプロセスに意味を持つようなものだと感じました。対話のプロセスは定量的な議論を軸にするデータ分析とは対照的なプロセスとも言えるのですが、ピープル・アナリティクスを進める上では重要な点だと感じています。

さて、人事施策を検討するための対話を行うとき、データはファクトの一つとして議論のきっかけや論点を与える役割を担います。例えば、エンゲージメントの議論をするときに、データを用いて特徴的な傾向をメンバー間で共有し、その上で改善策や問題の深掘りを議論していくようなプロセスとなります。

また、データは会話の中で出てきた着想を確かめたり広げたりすることにも役立ちます。例えば、先のエンゲージメントの例の続きとして議論をしているときに、ふと「採用とエンゲージメントの関係はどうなっているのだろうか?」「A職は時間外が多いからエンゲージメントが低いのでは?」という発言があったとしましょう。このようなとき、データを俯瞰的に見ることができれば空中戦にならずに議論を進めることができます。また、同じ情報を皆で眺めながら話すことで、会話と気持ちのベクトルが合っていく効果もあります。更に、時間外のデータを見ながら上司のマネジメントへ話が発展する、といったこともよく起こります。

対話においては、確定的な診断のためにデータを使うのでなく、議論を促し発展させるために活用することが重要ではないかと考えています。その際、無味乾燥な数字を並べて議論するよりも、データを可視化して見せる方が分かりやすくなります。傾向や特徴をイメージで理解できるからです。

このように、対話のきっかけづくりや、論点を与える上でデータの可視化が重要になる場面もあります。これは人事内の議論でもそうですし、人事と他部門との会話でも同様です。まさに、組織開発におけるデータの活用、すなわちデータドリブン組織開発ですね。人事分野では対話と分析の掛け合わせが重要だと考えています。この点は、私が様々なピープル・アナリティクスのプロジェクトに携わる中で発見したことの一つでした。

まとめと参考情報

この記事ではピープル・アナリティクスにおけるデータ可視化の利用場面を取り上げました。最後に、データ可視化の参考になる書籍をいくつか紹介します。


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