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戦略的セルフ・リスキリングのすすめ。

昨日は今の仕事について考えて記事を投稿しましたが、今日は自分の過去を振り返ってみました。

考え事をするときには紙のノートを使うことが多いのですが、書いているうちにふと「セルフ・リスキリング」というキーワードが出てきました。何となくしっくりくるものがあったのでこの記事で考えを整理してみます。

自分のキャリアを改めて振り返る。

私はアプリケーションSEとしてキャリアをスタートし、プロダクト・マネジャー、プリセールス、データサイエンティストなどを経験し、今は技術チームのマネジメントをやっています。

複数の職種を経験しているとなると何社か経験していそうなものですが、私の場合は新卒で入社した企業1社の中でこれらを経験してきました。転職が当たり前になっている現代においては珍しいことかもしれません。

さて、このような道はどのように形成されてきたのでしょうか。過去に投稿した記事には次のように書いていました。

自分の中の興味・関心を考えてキャリアを選択していったことが、結果的に自律的なキャリア形成につながったのだと考えています。

自律的キャリアの個人的な話(キャリア観)

詳しくは引用元の記事を読んでいただければと思いますが、端的に言うと興味や関心を頼りにキャリアを選択していったという感じです。自ら選んだこともあれば、偶発性に身を任せたこともありました。

その結果、典型的なキャリアのレールを外れているにもかかわらず、同じ会社の中で様々な経験を積むというやや奇妙な「キャリアの自律化」を達成したというわけです。

新しい仕事をやるためにはスキルの習得が必要になってきます。以下、スキルの習得というテーマで掘り下げてみたいと思います。

リスキリングとリカレント教育。

ここ数年ほど「リスキリング」という言葉をよく目にするようになりました。経済産業省によるとリスキリングは以下のように定義されています。

新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること

出典:リスキリングとは(経済産業省 デジタル時代の人材政策に関する検討会)

企業の競争環境が激しく変化する中で、従業員に求められるスキルも大きく変わっています。そこで、従業員に新しいスキルを習得させる必要が出てきたというわけです。人事施策の一環と捉えると古くて新しいテーマともいえるかもしれません。

一方、リスキリングに似ているものの異なる言葉として「リカレント教育」というものがあります。次に定義されるとおり、こちらは働くひとが主体的に行動を起こして学び直すものであり、必ずしも会社が主導するわけではなさそうです。

リカレント教育は、社会人になった後も、必要なタイミングで教育機関や社会人向け講座に戻り、学び直すことを指します。

出典:GLOBIS リカレント教育とは?注目される背景と社会人の学び直し例、支援制度
 

いずれにしても、企業や産業の寿命よりも人間の寿命が長くなりつつあることを考えれば、ビジネスに関わる人は避けて通れない話題だと思います。

結果的にはリスキリングの連続だった。

さて、私のキャリアを再び振り返ってみると、数年単位でリスキリングを繰り返していることに気づきました。主業務として新しい仕事を経験しながら独学を織り交ぜて新しいスキルを学ぶというスタイルです。

実をいうと、MBAやMOTなどの取得を考えたこともありましたし、資格を取ってキャリアアップしようと考えたこともありました。しかし、いつも思い悩みながら選択する道はいつもきまっていて、「興味のある仕事に飛び込んでみて、実践と独学で学びつつ武器を拾いながら進む。」というものでした。ある意味、自らリスキリングを行ってきた(セルフ・リスキリング)と言えます。そして、幸運なことにその機会がたまたま会社の中にあったということになります。

一般的なリスキリングは企業が主導して行うもので、従業員自身のキャリア戦略が加味されるとは限りません。一方、リカレント教育は働くひとが主体的に学ぶ場を求めるものですが、仕事から離れて学ぶスタイルとなります。

これらと比較して、私が取ってきた方法を改めてまとめると、

  • 興味のある仕事や自分のアイデアを試すために必要な仕事・職種を自分で選択する。(自ら再配置を望む or 変化を機会として受け入れる)

  • 新しい仕事で成果を上げるために必要な視点や知識を独学で学びつつ、現場で実践しながら身につける。(仕事を通して学ぶ)

ということになります。主体的なリスキリング、すなわちセルフ・リスキリングですね。

セルフ・リスキリングの効用。

ここで、セルフ・リスキリングによってどのような効用があったのか、N1ですが少し考えてみます。

第一の効用は、キャリアが広がったということです。
データ分析の世界や、プリセールス・技術コンサルティングといった業務に飛び込むことで、視野が広がるだけでなく選択肢が増えたように感じています。もし、初めての職種転換を避けていたら、今もアプリケーションSEの延長線上にキャリアを積み上げていたでしょう。

第二の効用は、主体的なキャリア選択の実現です。
これまで様々な仕事を経験していますが、必ずしも想定通りの仕事ではありませんでした。むしろ、やる前に思っていたイメージ通りだった仕事は一つもなく、「経験してみて初めて分かること」が大いにあったことは間違いありません。結局のところ、やってみないことには向き不向き、好き嫌いもわからないのです。しかし、自分の興味や関心に基づいて試すこと自体が重要であったと思います。

ただし、こうした無計画的なキャリア選択によって失ったものがなかったわけではありません。途中で手痛い失敗もたくさんしましたし、会社人生の上で不利な面も少なからずあったことでしょう。周囲や家族に心配をかけたことも多々あります。

実際のところは何をもって「良い」かというのは難しい話です。
結果論ではありますが、終身雇用が誰の目にも見て崩壊してきた今日においてはプラスに働いていると感じています。何より、自分自身の興味に従って動いたことは自分に合っていたと思います。

ということで、セルフ・リスキリングは仕事の中で新しい武器を身につけるための戦略の一つではないかと考えはじめています。

セルフ・リスキリングのポイント。

セルフ・リスキリングは必ずしも生産性や業務上の成績が上がるものではありませんでしたが、数年も経てば人並みにはなれることを実感しています。

そのポイントは以下の3点でした。

  1. 本をたくさん読む。

  2. 実践と知識を織り交ぜて学ぶ。

  3. 興味・関心を持つ。

これを一つずつ考えてみます。

1. 本をたくさん読む。

新しいスキルを身につけるためには現場での経験だけでなく、一般的な知識やノウハウを学ぶことが重要になります。私の学びの第一選択は読書でした。もともと本好きということもありましたが、働き始めてから本屋に行く回数が飛躍的に増えていきました。

本はWebなどに比べると情報の更新速度が遅いという弱点があります。逆に、時間と周囲の評判の洗礼を受けて良書が残っていくという強味があります。このため、基本や定石を学ぶには大変適していると言えるでしょう。高々数千円程度でその道のプロが身につけている基礎的な知識やノウハウを得ることができると考えれば、大変リーズナブルではないでしょうか。

こうしたことを考えると、量よりも質が重要であることは間違いありません。しかしながら、新しい仕事に就いたばかりのころは、自分自身が知識や経験を有していないがために良書を選ぶことができないというジレンマがあります。このため、以下のような経過をたどることになり、結果として多くの本に触れることになるわけです

  • 仕事に関係のありそうな総論的な本を数冊買って読む。(大抵は外れるが気にしない)

  • 仕事で直面した具体的な課題に関係のありそうな本を買って読む。

  • 本で読んだことを現場で試してみる。(概ね上手くいかない)

  • 本を読み直したりより専門的な本を探して読んだりしながら、再び試していく。

  • 上記を繰り返し、いつの間にか自分の経験則が出来上がる。

読書には時間がかかるという欠点もありますが、自分なりに工夫を重ねることで幾分改善してきました。以下の記事に個人的な方法を整理していますので参考にしてみてください。

2. 実践と知識を織り交ぜて学ぶ。

上にも書きましたが、実践と本による知識習得を両輪で回していくことが重要と考えています。実践だけでもかなりのことが学べるのですが、その経験が偏っている可能性も否定できません。一方、ビジネスにおいては、本で学ぶ知識というのは利用してこそ身につくものだと考えています。

リスキリングの最中に仕事で直面した課題に取り組むときには、以下のようなアプローチをとるようにしてきました。

  • 本を読む前に自分で解決策の仮説を立てておく。

  • 目の前の課題に関連する話題が載っている本と、その上位概念に位置する本を読む。

  • 本を読んでいてわからないことがあれば、関連する本を辿って読む。(疑問を疑問のままにしない)

  • 実際に試してみる。

この中で最も重要な点な「実際に試してみる」ということだと思います。試してみないことには、その知識を自分のものにできないからです。また、その他の点については学びを加速させるうえで大変役立ちました。

一方、本の中に答えを求めすぎないことを心掛けるべきでしょう。現場で直面する場面と完全に一致する場面が本に登場することはまずないからです。また、本の中の知識が必ずしも万能ではないことも心に留めておくべきです。その意味で、本を読むときには筆者のおかれた状況を踏まえつつ、本から何か1行でもヒントとなるような箇所があれば十分価値があると考えています。

なお、その本の専門性が深まるほどに、あるいは古典に近づけば近づくほどに記載内容が抽象的になる傾向があります。したがって、本から得たヒントをひと口に試すといっても、レベル感は様々なであることを意識していおく必要があります。

3. 興味・関心を持つ。

過去の経験をリセットして新しいスキルを身につけるためには、それ相応の時間が必要になります。少なくとも、私がこれまで経験した仕事については、その仕事をやり始めた当初はカチッとしたノウハウがないものが多く、七転八倒しながら学んでいきました。悩みながら学んでいるといつの間にかできることが増えていくのですが、それぞれ数年かかった記憶があります。

数年単位で根気よく学ぶには自分の好奇心が欠かせません。自分の興味・関心に素直に沿ったものでないと、長く続けることも深く経験することも難しいはずです。先人たちも次のようにおっしゃっていますね。

これを知る者はこれを好む者に如かず。
これを好む者はこれを楽しむ者に如かず。

出典: 論語,孔子(岩波書店)

農作業でも、コンピューターの操作でも、強制された労働としてやれば苦役だが、自由な「遊び」として創造的に取り組む限り、それはよろこびだ。
言い換えれば、人生、即、芸術。

出典:自分の中に毒を持て,岡本太郎

「興味があるからやるのか、やるから興味がでるのか」というのは悩ましい問いです。やることで興味が出てくるのは一面の真実ではないかと思います。しかし、自分が本能的にやりたくないと思っていることは、手を出したとしても長く続かないでしょう。

したがって、自分のアイデアや何らかの好機にダイブするときには、ポジティブな興味・関心を持ってはじめつつ、常に自分自身の正直な声に耳を傾ける必要があるのだろうと考えています。もし毎日の学びが灰色に感じられるのであれば、それはボタンをかけ間違っているのかもしれません。

私は毎朝、鏡に映る自分に問いかけるようにしているのです。「もし今日が最後の日だとしても、今からやろうとしていたことをするだろうか」と。「違う」という答えが何日も続くようなら、ちょっと生き方を見直せということです。

出典:「ハングリーであれ。愚か者であれ」ジョブズ氏スピーチ全訳,日経新聞社Web

自らの関心をもって新しい仕事にチャレンジしつつ、経験の中で相性を見極めていく――セルフ・リスキリングの意義はこの点にこそあるのではないかと思います。


長くなりましたが、自分の経験を踏まえてセルフ・リスキリングについて考えてみました。

必ずしも正解とは限りませんが、キャリアで新しい武器を身につける戦略のひとつとして紹介してみました。

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