見出し画像

ナチュラルとニュートラル

ここ最近いろんな方と楽しくワインを飲ませていただいてきたが
その中で何度か「嗜好の変化」について尋ねられたのでそれについて。

以前から書いてきてるし公にも何度かお話してることなのだけれど
かつて僕は「自然派」と呼ばれるワインたちに懐疑的な立場をとっていた。
当時の自然派ワインからはネガティヴな要素を感じることが多く、
自分が扱うことを考えるとリスクが大きいというのが最大の要因だった。

当時そのネガティヴな要素を受け入れることができなかった自分が
最近はよく「ナチュラルワイン」と呼ばれるワインを楽しんでいることが
一部の人には「嗜好の変化」と捉えられているようなのである。

誤解のないように。
僕自身はこれを「嗜好の変化」ではなく「思考の変化」だと考えている。

第一の理由として、自分自身の嗜好=味わいの好みにブレが見当たらない。
第二の理由として、醸造的に好ましい変化がどの生産者にも存在している。

現在では自然派ワインから感じるネガティヴな要素も随分と改善され、
純粋に美味しいものが多くなったことにより個人的にも飲む機会が増えた。

生産者の思考の変化と消費者かつ末端の発信者である僕自身の思考の変化。
このふたつが同時に起きたことによって現在の僕の嗜好が形成されている。

もちろん思考の変化にきっかけはつきもので、僕にもそれは存在する。

個人的に思い当たるのはインポーター、ワインダイヤモンズとの出会い。
当時はオーストラリアに特化したインポーターという情報しかなく
関西での試飲会もなかったのでその素性を知ることはなかったのだが
「ルーシー・マルゴー」という名前だけは早い段階で耳に入っていた。

後に縁あって多くのサンプルを試させていただき心の底から驚いた。
オーストラリアにこんなにも素晴らしいワインたちが存在したのか、と。

それまでもグロセットやヘンチキ、バス・フィリップにピカーディと
綺羅星のような生産者のワインは大好きで飲む機会が多かったが
そのどれとも方向性の違う、いわば新しいスタイルのワインたち。
それなのにどこか懐かしい味わいの物が非常に多いように思えた。

テイスティングを進めるうち、唐突に思い当たることがあった。
ああ、この感じあのフランスの生産者たちのそれに近いな・・・。

自然派に懐疑的だった時代から好んで飲み続けてたいくつかの生産者。
ラングロールやシュレール、ランジュヴァンにシャソルネ、オヴェルノワ。
どこか彼らに通じるテイストをオーストラリア産のワインから感じた時、
ふいに目の前が開けていくような感覚が僕を襲った。

実際のところ、なんであれ単純に美味しいワインが大好きだった僕は
現在に至るまで何も変わらず、ただひたすらに美味しいワインを求めてた。
もともと国や産地に拘らず、良いものは良いとハッキリ言い続けてきた。

彼の国、オーストラリアから吹いてきた爽やかなれど荒々しい風は
そんな自身の考えを改めて自己肯定するのに格好の材料となった。

ニュートラルな思考で風任せに美味しいワインを求めていると
いつの間にかナチュラルなワインが美味しく感じる時代になっていた。

もちろんそうなるまでに生産者が絶え間なく努力し続けたであろうことは
容易に想像できるし、そんな彼らが真摯に造ったワインをいただけるのは
自分にとってとてもとても幸せなことだ。

これからも僕はすべてにおいてニュートラルな思考でモノを考えるだろうし
ナチュラルワインの生産者もきっとそうなんだろう。

人生とオムレツはタイミングが大事。
どのタイミングで誰と出会うのかもとても大事。

僕のワイン人生はとある交差点で自然派ワインとの大事故を起こしたが
その先の交差点では手を振りあえるようになった。
先日通った交差点では歩み寄ってハグまでしてしまった。
ワイン人生、どうせ生きるなら幸せに歩いていきたい。

気に入っていただけたらサポートいう名の投げ銭をお願いします。テンション上がって更新頻度が上がると思われます。