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MIT MBA留学で学んだこと(2)~入学前オリエンテーション~


合格から入学までのスケジュール

前回はMBAプログラムの全体像を紹介しましたので、今回は入学前のオリエンテーションについてお話し出来ればと思います。Admission(入学選考)はRound 1とRound 2の2回に分かれており、私はRound 2で入学が決まりました。3月14日に合格通知を受けて、そこからビザを取って、5月下旬にはボストンに到着していなければならないというかなり急なスケジュールでした。この約2ヶ月間で入学前のオリエンテーション・事前学習などが行われるのですが、そこでの学びはとても意義深いものでした。

合格通知からすぐに入学予定者に向けたZoomでのオリエンテーションが行われ、情報共有用のSlackが立ち上がり、出願用のポータルサイトは入学に必要な手続きをするページに早変わりします。また同時に、入学までに終わらせないといけないオンライン講座が5つ課され、それなりにタイトな期限がセットされます。とはいえ、勉強っぽいものは1つだけで、あとは米国ビザの取得方法や取得後の出入国の取り扱いが1つ、また入学後の学校生活のための規律に関するものが3つという構成です。

事前のオンライン学習1:数学

勉強っぽいもの、と表現しているのは数学のモジュールで、PRIMERと呼ばれるオンライン講義です。基本的には高校数学の範囲で、一部線形代数や統計の確率分布などが入ってくるくらい。内容はとても簡単ですが、5分野20単元ほどに分かれており、全ての分野で小テストがあります。クリアには80%以上の正答率が求められます。かつ、これを一定の期限(私の時は4月末まで)にクリアしないと入学取り消しになるという警告もありました。

1単元について60〜90分ほどのビデオ講義もついているため、全てまともにこなすと20時間以上はかかります。難しい演習問題をやらせるというより、単元がどう繋がっていて、それぞれの公式の意味や数学の世界の中での役割のようなことを理解するのが趣旨とされているように見受けられました。たまにExcelを使ってデータを分析、図解することを求められる単元もあり、まさに数学の理論と実務の繋がりをイメージ出来るような問題もありました。個人的にこれは良い数学の復習になったのと、数学の全体像の中で各単元がどう繋がり、どういう意味・役割を持つのかを改めて学び直す良い機会になりました。また、積分や離散確率分布、確率密度などはそのまま統計の授業で必要な知識にもなるため、復習しておいて良かったと思います。

数学のオンラインモジュールPRIMER
PRIMERの中身。単元ごとに細かく範囲が分かれており、これは確率の分野の例


オンライン講義の例:積分

事前のオンライン学習2:多様性・平等・共生の理解

米国ビザのInstructionは一般的なものなので割愛するとして、次に3つのモジュールをご紹介します。1つ目は、Diversity, Equity and Inclusion (多様性、平等、共生)と呼ばれるモジュールです。アメリカは移民の国なのでそもそも全員外国人、みんな違ってみんな良い、というのが教育だけでなく社会全体の環境です。そのため、学校でもバックグラウンドの違う人を受け入れ、どう接していくべきか、どういう言動に気を付けないといけないか、を具体的なケースと共に教えられます。ビデオ講義やミニテストもあり、しっかり理解が深まる構成になっています。メッセージとしては、「多様性のあるチームの方が強い、なので多様性を受け入れよう。自分の価値観を押し付ける事なく、誰かにとっての当たり前は、他人にとっては当たり前でない事を認識しよう」というものと理解しました。理論でわかっていても実践しないと意味がないので、個人的には、休み時間などにクラスで孤立しがちな人がいたら、輪の中に入れてあげることを意識して積極的に話しかけるようにしていました。これは社会に出た後も積極的に実践していきたいです。多様性のあるチームを作れる力、なかなかspeak-up出来ない人にも寄り添い、共感出来る力は重要なリーダーシップの能力の1つだと思います。

事前のオンライン学習3:アカデミック活動における行動規範

2つ目は、Academic Integrityというもので、学校でのアカデミックな活動においてのDos & Don’ts(やっていいこと、いけないこと)を教えるモジュールになります。カンニングはいけない、レポートの盗作もダメ、Chat GPTの利用はInstructionで明確に許されていない限りNG、という趣旨の事です。印象的だったのは、なぜカンニングや盗作がいけないかという話で、「ちゃんと頑張った人へのreward(称賛・栄誉)の機会を奪う事になる」と語られていたとこです。例えばカンニングをしたら、ちゃんと頑張って勉強してきた人の努力を皆が認識出来なくなる、盗作についてreferenceで出典が触れられないと頑張ってその情報をまとめた人へのrewardがなくなる、というようになぜそれがいけないか説得力をもって語っている点が印象深かったです。また、白黒の判断を明確に下しにくい曖昧なケースを取り上げて、この場合どう判断する?と聞かれる問題があり、多くの場合は「迷った場合は、自分で判断せず、TAやAcademic Advisor(事務局)に相談する」と帰結されていました。

事前のオンライン学習4:セクシャルハラスメントへの対応

最後に3つ目はSexual Harassmentに関する講義です。これは一般的なセクハラの定義や、やったらだめですよという内容は当然ながら、どちらかというと「そういう場面に遭遇した時にあなたはどうアクションしますか。どう当事者を助けますか」という点に重点が置かれていて興味深かったです。例えばセクハラの場面を見かけた時に、直接やめるよう注意するのか、しかけている側の人に話しかけて行動や会話を中断させ、2人を引き離してから注意するのか、など非常に細かいシーンや判断が曖昧になるケースを設定して聞いてきます。ここでも、「判断に迷ったら、専門家に相談しましょう。」というメッセージが繰り返され、校内のどこが窓口でどう連絡すれば良いか、の具体的なアクションまで覚えさせられます。日々の生活の中で学生が即座にアクションに移せるように徹底されているのは素晴らしい事だと思いました。

アメリカの大学における入学前モジュールの意味

様々な人がいる中で、それぞれの人に「当たり前」があります。それを個人の価値観や判断基準にゆだねていてはやはり一定の確率でトラブルが起きてしまうのです。だからこそ、白黒のラインを明確に示し、グレーゾーンをどう判断するかのトレーニングも行い、さらに判断に迷った時には誰に、どう相談するのかまで具体的なアクションを入学前に受講必須のモジュール(ミニテストもあり、90%以上の点数を取らないとクリアにならない)にして教えているのはさすがアメリカのトップスクールだなと思いました。クラスメートに聞いたら、他の大学にも同じようなモジュールがあると言っていたので、おそらくアメリカの大学では一般的な事なのだと思います。

以上が入学前に受けたオリエンテーションに関する内容でした。次回は入学後のオリエンテーションについて紹介したいと思います。

ボストン到着直後、ホテルの部屋から見た深夜2時のキャンパス


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