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Venture Creation Model #3

前回のこのコンテンツの投稿から半年以上経ってしまっていますが、当時の原稿を元にから第3弾お送りします。

Venture Creationには人を巻き込む強いミッションを持て!

ここまでボストンを中心としたVenture Creation Modelについて見てきた。最後は日本での実施可能性について論じるが、その前にもう一度Flagship PioneeringがなぜPioneeringという言葉を使っているかを確認する。

Our unique model combines scientific creativity, technological ingenuity, systematic entrepreneurship, executive leadership, professional capital management, and a vast network of expertise into a single institution that produces first-in-category companies though an emergent, evolutionary methodology. We call this process pioneering.(私たちのユニークなモデルは、科学的創造性、技術的創意工夫、組織的起業家精神、経営者のリーダーシップ、専門的な資本管理、および膨大な専門知識ネットワークを一つの機関に統合し、創発的、進化的手法によってカテゴリー初の企業を生み出すというものです。私たちはこのプロセスを『パイオニアリング』と呼んでいます。)

Flagship Pioneering ホームページより、カッコ内はDeepLによる翻訳

コンセプトとしては”First-In-Category Companies”を作るためにVenture Creationを行なっている。常に「新しいものを求める」という点で、はたして日本のスタートアップ業界は社会をリードするというミッションを抱いているだろうか?ベンチャーキャピタルも、スタートアップエコシステムも、80年代に日本に負け続けていた米国の様々な挑戦の中で生まれてきた仕組みの一つに過ぎない。目的はあくまでも"First-In-Category"であり、評価が難しく他社が手を出せない領域に、適切なリスクをとって攻めていくことが重要だ。

Flagship Pioneeringは高度な科学的な知見を持って革新的な製品を設計したわけだが、これを実現したのはアイデアだけではない。そこで、我々が日本で吸収すべき要因について以下の4つの要素を示す。

日本でのVenture Creationに向けた4つの活動
1. アカデミアから技術を引っ張り出す
2.情報を集め、製品と開発計画を立案する
3.実証実験
4. これまでと異なる資金調達方法の確立

筆者の考える日本でのVenture CreationのKey Activity

1. アカデミアから技術を引っ張り出す

まずはハイレベルかつ多くの事業化のネタとなる新規技術が必要となる。高レベルであればありがたいが、この技術を使いこなすには既存技術からあまりにもかけ離れているとその後の開発が不可能となってしまう。例えばカーボンファイバーの開発には40年かかったと言われるが、この手の技術はスタートアップエコシステムで育成するには向かない。また、日本ではスタートアップのネタにする目的で新しいサイエンスを発掘するVCの数が圧倒的に足りていない。なので、事業化にいたっていないが、そこそこの技術もまだまだ眠っていると予想している。単純にプレゼンのうまいサイエンティストが育っていないのだと考えると、まずはこの技術発掘システムを見直す必要がある。例えば最近はピッチイベントが目白押しだが、それらのイベントは毎回似たような研究者がピッチしており、さらに成功事例がそれほど多くでてきているとは言えない。やはり技術の見せ方と次に述べる製品設計が全くできていないし、そこのノウハウが必要であることが認知されていない。


開発のネタになる研究成果をビジネス側がProactiveに探索できる体制が基盤として必要。

2. 情報を集め、製品と開発計画を立案する

次に重要なのが2.製品の企画だ。数年後にライセンス・マーケットで必要される製品をある程度予測し、開発のための技術へのアプローチを持つことが必要とされる。国内に留まり国内企業を相手にしていただけではグローバル市場でのこの動きは実現できない。世界の製薬メーカー売上トップ20には国内メーカーが武田薬品工業しか入っていないことを鑑みても、この企画の背景となる情報収集には欧米、特にボストンでの活動は外せない。また、多くの場合特にアカデミアの論文を元に考えられている製品像は殆どの場合実際の臨床ニーズからは概念的にズレている。薬であれば、論文を書く際に作業仮説として提案された適応症をそのままビジネスでの開発戦略に持ち込まれていることが多い。更に革新的な生物学的現象(免疫関係などは特に)は科学的には魅力的だが、これを事業化するには創薬ビジネス自体の構造から考え直す必要があることが多い。Target Product Profile(TPP)の議論に高い能力が必要とされる。
 さらに技術探索と開発戦略立案には研究開発、生産技術という技術的なハードルの正しい知識、経験、そして組織も必要となる。一個人で担えるわけではないので、チームでのこの手の評価を行う必要がある。特に製造技術に関しては日本では多くの製造業が社内で抱えているものの、その知見をベンチャー企業やVCに共有しているケースは少ない。幸い筆者はアカデミアで技術探索を長年行っておりかつ、原材料メーカー担当者としてそれらのネットワークへのアクセスがある。当初は属人的なネットワークに頼らざるを得ないが、知識の流通のプラットフォームを構築することで「探索→開発戦略」までをサポートする。

3. 実証実験

 前項で述べた製品規格と、目の前にある研究成果には大きなギャップがあり、これを解消する必要がある。投資委員会での評価基準としてレポートや「第三者による評価」が使われているが、いわゆる「専門家」の意見は業界の流れに沿った有名な研究が高い評価を得、革新的な技術には低い評価になりがちだ。そして「破壊的イノベーション」を起こしうる技術が採用できる可能性は極めて難しいだろう。さらに、日本の研究論文のデータについては海外からも再現性の低さが指摘されている状況なので、同じデータがでるというだけでも実はかなり価値が高い。これらを踏まえ、その後の開発の上でのリスクを「実験的に」検証する。ResearchからDevelopmentへのKey Activityは会議室ではなく、実験室で行われる。

4. これまでと異なる資金調達方法の確立

 そして国内で多くのスタートアップが苦しんできたファイナンスの課題を大きく変革する必要がある。これまでほぼすべてのスタートアップが東証グロースでのIPOをゴールとしてきたが、一般的に”Exit"と言われるIPOを達成しても、「概念検証(Proof of concept)」のための費用(一般的に創薬で>50億円)すら調達できない(最大規模では不可能ではないが、中央値で26億円程度。米国のシリーズAより小さい!)。一方で日本国内では大型買収というM&AでのExitの事例は極めて少ない。大きなExitが見込めないので、VCの非公開市場でも50億円を超える調達はまだ厳しい。いわゆる国内では「実績がない」「前例がない」のでこれ以上の投資に踏み切れないという堂々巡りとなっている。
 しかし、投資は融資ではないので「ここのこの分野でこういう資金投入は初めて」という中でリスクを明確に提示し、開発プロセスを可視化し、リスクの分散をしていることで成功確率を上げているという企業活動を評価する必要がある。国内のベンチャー投資では「前例がない」でシャッターが下ろされるため、未上場とは言え外部投資家に依存している新事業を行う上でチャレンジするインセンティブが働いていない。
 ただ、愚痴ばかり言っても始まらない。世界最大規模のVCであるビジョンファンドは日本のソフトバンクが取り仕切っているわけだし、コンビニという業態が商社からの投資で成長したように、末端の事業への投資が物流業からの投資で成立するような社会的な成功事例は日本にも存在している。多くのシリコンバレー関係者が「いきなりここのコピーなんて無理」と言うコメントをするように、日本独自の資金調達の仕組みを徐々に組み上げていくという努力が必要だ。ちなみに、経産省の「創薬イノベーションエコシステム強化事業」はこのギャップを埋めるツールとして期待される。これについては別投稿をご一読いただきたい。

薬商人が金勘定をしている様子…をImage Creatorで頼んだら何故かこうなったw

現実的なシナリオ

 この4段階の中で最も大きな課題はなんだろうか?ハコモノや人材は海外から調達できる可能性がゼロではないとしても、3で示した技術リスクの検証と、4のそれに対応する資金調達のためのファイナンスのロジックを国内だけで構築することは困難と思われる。日本国内のファイナンスシステムがこの手のリスク評価にあわせて変革するには、あまりにも硬直化した社会システムとの連続性を考えると理想的なシステムとは乖離しているとしか思えない。
 日本国内でもこれまでの活動により、より大胆な製品企画と、それを実現する開発計画の立案は見られるようになってきた。ただ、その計画を実現するために例えば治験薬製造とPhase II までで50億円の資金が必要となる場合、この計画を小刻みに分けてマイルストン設計を再度実施し、資金調達の理由を作り上げないといけない。実際には「ヒトでの有効性を示す」ことが製品化の最大のミッションであるべきだが日本国内のVCからの資金調達ではいきなり50億円規模の資金は集まらないので、工夫が必要となる。ちなみに米国のVenture Creationの場合はこの段階で既に非常に革新的な技術を使って大きな市場を狙っているので、200億円を超える資金調達を実現している。資金量の差がある以上、国内だけで完結しようとすると開発の段階を分けて、小刻みにファイナンスをするか、開発コストが劇的に下がる基盤技術に絞るなど工夫が必要となる。しかしこれらの縛りをVCに課してしまうとそもそも魅力的なポートフォリオの構築は簡単ではないので、結果としてLPからの資金調達の段階で頓挫してしまう。
 現実としては米国で資金調達を前提として開発計画を立案し、米国の投資家向けにリスク管理のロジックを組み上げる。実は日本の大企業も米国のVenture Crationについては知識を有しており、開発パートナーとしてすでに資金と技術の提供を行っているという事実もある(例:Century Therapeutics/富士フイルム)。そこに、政府の資金支援も含めて日本のVCが参画して経験を積み、その成功事例を持って日本国内の機関投資家を徐々に巻き込んでいくという流れはどうだろうか?筆者はCEO経験もなくファイナンスの専門家でもないが、国内の様々な事業への批判的な意見は多いものの、実際にどうやって使うか?という議論は表に出ることなく仲間内の愚痴で終わっている。しかし、いつの間にかそれらの資金も明確なポリシーのないまま使われていき、その成果があとから検証されることもないだろう。過去のいくつかの大型予算の末路を考えても、少なくともこのNoteのようなものでの提案がきっかけに議論が盛り上がって欲しい、そして、米国のVenture Creationシステムにいつのまにか日本の「エコシステム」が接続していると、面白いと思う。

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おまけ:日本でのVenture Creationに必要な地理的3要素

 Flagshipに限らず、Venture Creationが目指しているのは「必要とされるものを最初から設計して最速で事業化し、開発途中の期待値が高い段階で最終販売者に手渡す」ことである。VCの仕組み云々以前に、多くのTech系ベンチャー企業は既にこの役割を果たすべき存在のはずだ。そして「最終販売者」として一番大きく想定されているのはグローバルの大手製薬企業、いわゆるメガファーマだが、売上上位20社のうち日本企業は武田薬品1社のみ。しかも武田の開発拠点は今やボストンだ。となると、市場調査をすべき場所はボストンを中心とした欧米市場になる。さらに欲を言えば、初期の開発をボストン(あるいはシリコンバレー)の拠点で行うことにより、よりフレキシブルに市場の情報を事業に反映させることが望ましい。薬価が抑制され魅力に乏しい日本市場の中での開発より、活気を持ってスピード感のある事業計画と運営が期待できる(①ボストンでの市場調査と、インキュベーション)。
 続いて開発場所だが、創業研究者のいる大学ということを想定することは多いだろうが、実際にはボストンかベイエリアに集中しており、それ以外でもシアトル、フィラデルフィア、サンディエゴなどごく限られたところとなる。これはCROやCDMOの集積などにも関係しているが、実際には資金調達を考えるとボストンかベイエリアが圧倒的に強い。米国VCが国境をまたいで投資することは稀だが、欧州VCは国外への投資も行っていることを考えると、VC集積の近くに主要拠点を持ち、サテライトオフィスを通じてCRO、CDMO、治験病院などと密接に提携すると言うモデルが見えてくる。日本だとVCの集積は東京であり、ある程度の規模のインキュベーターが存在している場所は東大、殿町、湘南、京都、大阪、神戸、福岡等ということになる(②東京と地方都市の連携)。開発支援人材もこのインキュベータの所在地からはアクセスが可能だ。
 最後に今や開発の中心と言っても過言ではない非臨床、臨床CROだが、国内ではその成長が大幅に遅れている。どういうわけか、日本では研究支援事業者の立場が低く見られがちだが、海外では最新の技術を提供するイコールパートナーだ。国内でも実は彼らは横断的な顧客情報を保有しており、大手メーカーは実はうまく利用している。筆者がかつて所属したライフテクノロジーズ(現サーモフィッシャーサイエンティフィック)は現在ではBiotech企業としては時価総額で全米10位前後を維持しており、実は超巨大企業としてプレゼンスがある。Wuxi Apptechなどは今やグローバル市場で押しも押されぬ巨大企業だし、国内では富士フイルムがCDI (当時:Cellular Dynamics International)社や和光純薬工業を買収してサプライチェーンを抑え始めた。国内VCにはこの手の技術、原材料、製造技術などの様々なサプライチェーン、バリューチェーンに関わった経験のあるキャピタリストが少ないが、実際に事業として譲渡する際にはデュー・デリジェンスの項目として重要でもある。高い志を持つ研究支援事業者との連携(場合によっては業界団体の設立)が望まれる(③国境をまたいだCRO連携)。
というわけで、

①ボストンでの市場調査とインキュベーション
②東京と地方都市の連携
③国境をまたいだCRO連携

Venture Creationに関わる地理的要素3点

を最後に提案して半年以上ギャップをかけたVenture Creaiton3連投を締めくくる。2つとして同じケースはありえない、でも、何らかの議論の土台となることができれば幸いだ。


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