見出し画像

才能は片道切符【BTSナムとグクとハチクロの2人の天才】

私だって、時々”才能”というものを羨んでしまう。

グクみたいに、完璧に生まれたかったな。
ナムみたく、自在に言葉を操れたらよかった。
テヒョンのように自由でも愛される愛嬌があれば。
ジミンのように華麗に舞えたら、毎日楽しいだろうな。
ホソクのようにステージを引っ張るパワーが欲しかった。
ユンギのような耳で音楽を聴けたら感情をメロディーで紡げたし、
ジンのようなシルバーボイスだったら、心に言葉を届けられたのに。と。

でも才能ってそんな素晴らしいものじゃないのかもしれない、そう思わせてくれたのが大好きなハチミツとクローバーという漫画。

神様、やりたいことができなくて泣くのと、やりたいことがなくて泣くのは、どっちが苦しいですか?(ハチミツとクローバー/羽海野チカ)

中高時代はほろ苦い恋愛に憧れ、大学時代は将来への不安に共感して、大人になった今沁みるのは、人生と才能とのたたかい方。

才能があることを簡単に羨んでしまう私に優しくピリッと教えてくれる気がして、それは防弾少年団も同じだ。

才能と向き合うメンバー達

BTSというグループは不思議で、全員才能に溢れているけれど、その種類は全く人それぞれだし、向き合い方も異なる気がする。

ジンペンとしてジンくんで例えることを許してほしい。例えばJINは才能がないと思い込むタイプだ。努力を人より要するし、それだけやればここまではできるだろうと本人が思っている。

私自身が不器用で、だからこそ苦労して手に入れた技術に愛着があるので思う。その点彼は、苦労して手に入れたものを大切にできる人だと。創作は時に会話より本心が出るというけれど、タリョラで絵本を作ったときも「自分に足りないものを探しにいくが、旅をして自分の持っているものに気づく」という構成だった。(努力できること以外に、そこまで伸ばせることこそ才能なんだけど、これはまた別の機会にする)

そしてその過程を胸に秘めつつ、そんな自分を愛そうとする人だ。

JUNGKOOKと森田忍は才能に頓着がない

対照的ながら、同じところに立っていると私が思うのは、最年少でありながらリードボーカル、メインダンサーでありながらビジュアルメンバーでもあるJUNGKOOK。黄金マンネという肩書きに恥じない歌とダンスの実力だけでなく、絵を描かせれば上手く、運動神経も抜群だ。(ただし球技は除くけれど笑)そんな才能に溢れるグクだけれど、彼を見ていると時々不安に駆られる。

「僕は何も得意ではないです」とまっすぐに、水の張った瞳で言うから。

ハチミツとクローバーの作者の羽海野さんが、才能について話していたことが印象的だった。

才能を、どこにでも行ける切符のように扱う人がいる。 (中略) 持ってしまったら、他のことが何もできなくなる人生になってしまうよ。というのが才能という感じですね。(本題/西尾維新対談集)

ハチクロには2人の天才が登場する。そのうちの1人、森田忍という人物は、あらゆる美術の才に恵まれている。打ち込めばひとかどの人になれる。と教授に言わしめるけれど、日常生活は破天荒で飽きっぽく、最後までやり遂げることができない。

やりたいことはたくさんあるのに、どこかすぐ飽きてしまうグクと、重なる部分があると思った。

一見どこにでも行ける彼は時々、どこにも行けなくなってしまっているようにも見えたから。彼もまた、自分の才能に頓着がない。どれもできるけれど、取って代われる才能だと思い込んでいる時がある。彼自身が身を削り、時間を費やして手に入れた、彼だけのものなのに。

RMと花本はぐみは才能に執着する

そしてがっしりした体つきと鋭い瞳を持つRMと、小柄で華奢な女の子、花本はぐみを、私は重ね合わせてしまう。(画像中央がはぐみ)

画像1

ハチクロに出てくるもう一人の天才、花本はぐみは、絵の才能に恵まれている。絵以外の芸術も、料理も、生活も、人付き合いも苦手だけれど、彼女の瞳と手は、他の人とは違うものを映しとる。そして彼女を知らない人たちをも感動させる作品を生み出すことができる。
そんな彼女はできないことがあるとき、作品作りに没頭して昇華することがある。絵を描くことができる、ではなく、これしかできないのに。と。

そんな姿が、ナムと重なる気がした。IntheSOOPで覚えているのは、料理も片付けも手伝えることがない彼が、休みもそこそこに歌詞作りに励むシーンだ。

自分には曲作りしかないのに…

と産みの苦しみを味わう彼は、韓国の作詞者クレジットランキングでも上位に入る、一流のアーティストだ。一方で彼は時々、自分にできないことを数える。料理、運転、物を大切に扱うこと、なくさないこと…。

彼が作る美しい詞は、莫大な時間と、努力と、文字通り血と汗と涙を染み込ませてできた作品だ。自分の身をやすりで削って育てた才能に比べれば彼のできないことなんて、ずっと些細なことなのに。詞ができないと存在意義が失われるかのように伝わるときもあって、胸が苦しくなる。

異なる才能とたたかうふたり、ほめあうふたり

漫画ではそんな2人の天才は惹かれあい、でも彼らは幸せのために、お互いを励みとしながら作品作りを、自分と戦い続けること、を選ぶ。

私はハチクロの二人のよさと、ナムとグクの関係性の素敵さは、“お互いの存在がお互いの励み”となっているところじゃないのかなと思っていて。

ナムとグクはお互いが見ているお互い…グクが見つめるラプモニヒョンのことをナムは、ナムがみているジョングギをグクは、追いかけている気がしたから。

画像2

適切な言葉を時にロマンチックに的確に、責任をもって紬ぎ、ピシっと締めるまさにリーダーなナム。彼はジョングクのことを、君がいたからこのグループは成り立っているんだと、常に手放しで褒める。言葉選びに長ける彼の言葉は、ずっしりと重たく響くこともあれば、キラキラ空気を彩ることもある。大樹のような包み込む優しさにグクは、支えられてきたんだと思う。

一方、グクが自信に溢れた目で語る唯一のことこそ、「ラプモニヒョンをみて、自分は入る事務所を決めた」ということだ。伝えられるたびにえくぼをつくって少し俯くナムはそれだけで愛しい。

ヒョン!と溌剌に声をかけ、シーグリ2021でも、子供の頃のヒーローに挙げていたのは、ナムの昔の活動名だった。いつでも憧れる、彼のヒーローは、RMなのだ。彼が名付けた“黄金マンネ”から、あれだけまっすぐに尊敬されてきたら、それは支えになるだろうな。

もしかしたら、貴方が思うようなすごい人なんかじゃないって、お互いが思っているのかもしれない。自分たちをいつも客観視しているのに、本当に自分の良いところを見つけるのだけは下手だなと思うけれど、彼らでもそうなのだ。実は誰もがそうなのかもしれないと思うと安心する。

ハチクロのラストでは、恋愛でも才能でもはぐみを支えられなかったと諦め旅立つ主人公の竹本に、はぐみは餞別として一斤丸々使ったサンドイッチを手渡す。日常生活に不器用なはぐみの目一杯の愛情は土手で時間をかけて集めた四葉のクローバーをサンドイッチに挟んで贈ることだった。才能の有無や、人それぞれ抱える違う苦しみに関わらず、人と人とが関わり合うことに意味はあるんだよ、お互いの人生に強く影響するんだよ、と言われた気がして、私はお気に入りのシーンだ。

You never walk alone

私だって、時々羨んでしまう。

グクみたいに、完璧に生まれたかったな。
ナムみたく、自在に言葉を操れたらよかった。
テヒョンのように自由でも愛される愛嬌があれば。
ジミンのように華麗に舞えたら、毎日楽しいだろうな。
ホソクのようにステージを引っ張るパワーが欲しかった。
ユンギのような耳で音楽を聴けたら感情をメロディーで紡げたし、
ジンのようなシルバーボイスだったら、心に言葉を届けられたのに。と。

だから忘れずにいたいなと思う。

持つ者の苦労と持たざる者の苦労は全く別のもので、どんな人にもその人だけの、他のだれにも理解できない地獄があること。
才能があることを羨むことはとても簡単だけれど、才能はどこにでも行ける切符なんかじゃ絶対にない。誰よりも、どこよりも遠くに、ひとりきりでいく権利がほんのわずかにあるだけだということ。

でも彼らに許されているのは、7人でそこに向かうことなのではないか。ぶつかり合い、削りあったから、認め合い、高めあい、補い合うことができる7人は、これからも7人で、だれも行ったことのない遠くへ向かうんだろう。

本の中で羽海野さんは、高みを目指して戦い続ける人は、同じだけ負け続けた人だ、とも言っていた。何度も傷ついて立ち上がるところは美談として語られることが多いけれど、高いところから落ちるために登り続けられる人はごくわずかだ。墜落が怖いと言っていたユンギの言葉とも重なる。

だからこそ「メンバーで話し合い、いけるところまで行ってみようとなった」と2018MAMAで伝えてくれたジンを、墜落ではなく着陸すればいいのだと気付いたとweverse magazineで語るユンギを思い出す。そして高く登った先にある誰も見たことのない宝物を、わたしたちに垣間見せてくれるのだろう。

ではわたしにとっての幸せって、わたしがもつ才能って、何なんだろう。自分のこととなると昏い気持ちになることもある。けれど、夢なんか描けなくてもいいと寄り添ってくれるユンギがいて、あなたに支えられてるんです、と言ってくれるジミンがいて、少しだけ救われた気持ちになる。

彼らが7人で走るのと同じように、私たちARMYという名を与えられたファンダムも、1人きりではない。寄り添ってくれるのもまた、それぞれが異なる美しさと信念をもつ7人なんだなと思って。

YOU NEVER WALK ALONE

ジミンさんの最近のグッズにも刻まれていたこの言葉を噛みしめて、彼らにまたひとつ勇気をもらった今日だった。

【参考】
羽海野チカ『ハチミツとクローバー』~才能を持ってしまった者たちの苦悩~
西尾維新対談集 本題
ハチミツとクローバー 羽海野チカ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?