見出し画像

さよなら、モラトリアム

大学3年になったころ、サークルの友人が「同期みんなで沖縄に行こう」と言い出した。
何日も予定を合わせて、気兼ねなくはしゃげる旅行は、この先もうできないかもしれないから、と。

留学、就活、院試。
この夏が終わったら、みんな違う道を歩き出すことが分かっていた。


旅行のために作られたプレイリストを聴くと、きらきら光る記憶の断片が頭の中をぐるぐる漂う。

古宇利大橋を車で渡るときにかけるBGMを真剣に考えたこと。
地元の居酒屋で度数の高い泡盛をたくさん飲み、いい気分になったこと。
最盛期を過ぎた静けさを感じるテーマパークで、けらけら笑いあったこと。


帰り、搭乗予定だった飛行機が欠航になり、夕暮れ時まで那覇空港にとどまることになった。
みんなの間に疲労が漂う中で見た、遠くの空に沈む橙色の光が、なぜだかいまでも脳裏に焼き付いている。

あの旅は、モラトリアムの終わりの始まりであり、「おとな」としての人生の萌芽だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?