季節の移ろいに思いを馳せる
季節の変わり目は、月をまたぐようにはっきりと分かれてはいないけれど、毎年ふと「空気が変わったな」と思う瞬間がある。
その感覚が、なぜだかたまらなく好きだ。
特に、夏が終わり、ほんのひとときの秋を通り抜けて、冬を迎えるまでの間は、季節の移ろいを強く感じる。
ここ数週間で、めっきり空気が冷たくなった。
少し前までは半袖のTシャツを着てタオルケットだけで寝ていたのに、いまはもう裏起毛のスウェット、そろそろ羽毛布団も引っ張り出してこようかというところだ。
「秋」といえばなんとなく、1年を4つの期間に分けて9月から11月あたりをイメージしてしまうけれど、実際に秋と感じる期間はそんなに長くない。
いつも10月のどこかで「過ごしやすい気候だなあ」と、夏が過ぎ去ったことを感じるのだけど、秋を楽しもうとしている間にすっかり外は冷え込み、いつの間にか冬を迎えたことに気付く。
もし、季節というものがこの世からなくなってしまったらどうしよう、と想像したことがある。
わたしは過去の記憶をそのときの空気の温度や鋭さ、日光の強さと紐づけて覚えていることが多い。
365日ずっと同じ気候だったら、記憶の輪郭がぼやけてしまうかもしれないなあと思う。
かじかむ手に息を吹きかけながら登校した小学生時代の冬とか、熱のこもった音楽室でコンクールの練習をした中学生時代の夏とか。
そういった断片的なシーンの記憶を鮮明に覚えていられるのは、きっとそこに温度や日差しの感覚があったからだ。
そう考えると、毎冬「いやだなあ」と思っていた指先が冷える感覚も、少しだけ愛おしく思える…かもしれない。
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