好きなものを素直に好きということが苦手だった

好きなことや趣味というのは、人間関係において、他者とのつながりをつくる触媒のような役割を果たすことがある。
けれど、いつからかわたしには、自分の好きなことを周りに言わない癖がついていた。


わたしはそんなに好奇心旺盛ではなく、幅広いジャンルの本を読んだり、音楽を聴いたりはしなかったけれど、ひとたび特定のコンテンツにハマると、隅々まで知ろうとするタイプだった。
あまり流行に敏感なほうでもなかったので、学校で多くのクラスメイトが好む話題についていけないことも少なくなかった。

わたしが趣味嗜好を隠そうとしていたのは、いま思えば、自分の「好き」と相手の「好き」のずれによって、うまくコミュニケーションがとれないことを恐れていたのだと思う。
もし周りに同じコンテンツを好きな人がいても、「それいいよね、わたしもけっこう好き」くらいしか言わず、詳しい話は極力しないようにしていた。
「あまりに細かい話をしすぎて引かれたらいやだな」とか、逆に「有名どころしか知らないのに好きって言うなんて恐れ多い」とか、些細なことを気にしてしまい、それ以上踏み込めなかったのだ。

大人になるにつれて、物事に対する「好き」の度合が全く同じ人なんて、そうそういないことに気づいた。そもそもそれは、人と比べるものでもない。
「好きなものを好きという」それだけのことを、ひどく難しくとらえてしまっていた。


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