図書分類からながめる本の世界/近江哲史

社会人になってから、地域の図書館を利用することが多くなった。学生の頃は、勉強したいときや何らかの作業をしたいときは当たり前のように学校の図書館を使っていたけれど、卒業してからその有難みを痛感している。そんなわけで学校図書館を気軽に利用できなくなった今、さまざまな公共図書館に出かけては、その特色を観察することも日常の楽しみの一つとなった。
そのうち図書館そのものを研究する学問分野に興味がわいてきて、まずは一般利用者の目にふれやすい「図書分類」について概要を知りたいと思い、手に取った本である。

読後の感想を一言で表すと、本の世界において自分の視界がとらえられる範囲を手探りで突き進んでいたところに、地図を手に入れたような感覚だった。勿論それも誰かが作ったものであり、100%正確である保証はないけれど、それでも世界の大まかなつくりを把握して探検することはできるようになったと思う。同時に、今まで自分がいかに同じ場所をぐるぐるしていたのかを知った。

おそらく私が24年間で読んできた本のうち8割くらいは、日本十進分類法でいうと913(日本の小説、物語)に属すると思われる。著者は本書内で「9類の本のみは、読んですぐに自分の人生に役立つというものは少ない。しかし、人は読んでおもしろい、楽しいという気持ちを味わうために小説を読む。」「「読書」という言葉は、本当は9類の本を読むときだけ当てはまる、と私は思う。」と述べている。
人生に役立つかどうかはさておき、自分が小説を読むときはおもしろい、楽しい、あるいはかなしいという感情の揺れ動きを求めていたことは確かで、そこには「本を通して学びを得よう」という高尚な目的は特になかった。言ってしまえば、私が小中学生の頃に没頭していたのは”娯楽”としての読書だ。

地域の公立図書館の蔵書は圧倒的に9類、特に近代日本の小説作品が多いという。それは利用者のニーズに応えた結果であり、10年以上前の自分がふらっと図書館に入ったときにそれらばかりに気を取られてしまったのも、その割合からして無理はない。
けれど、大人になった今、学ぶために再び図書館を利用しようとしている自分にとって、これまで大学の授業等、必要に迫られたとき以外には積極的に触れてこなかった0~8類に属する本にも目を向けることが非常に大切であることを感じた。勿論素人ではとても読みこなせない専門書も数多あるだろうけど、パラパラとページをめくったり、背表紙をながめるだけでもワクワクできそうな気がする。

本書は日本十進分類法について全く知らない状態で、分類の大まかな概要が知りたいという方におすすめしたい。市民公開講座の内容を書籍にしたということで、少々まとめ方が大雑把に感じる部分はあるけれど、図書分類について興味をもつきっかけとなる本だと思う。

014.4
図書館実践シリーズ16
図書分類からながめる本の世界 / 近江哲史(日本図書館協会)
2019/1/4読了

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