輪廻の風 3-17



「なんだこりゃ!?」
「奴等が来やがったな…!」
「魔族共!来るなら来い!!」

王宮周辺を警備していた兵隊達は、突如黒く染まった地面に困惑していた。

しかし、王都に残った戦士達は、命懸けで国を護ると心に固く誓った屈強な者達。

そのため、一瞬焦りはしたが、すぐさま臨戦態勢へと入った。

「ギャハハハハッ!!」

地面の黒渦の中から、魔族の軍勢が下品な高笑いをしながら、続々と王都へと侵攻してきた。

500体を超える魔族やヴァンパイア達が、一斉になだれ込んできた。

「怯むな!かかれー!!」
掌から縦横無尽に闇の破壊光線銃を放つ魔族達に対し、戦士達は銃器類や火炎放射器、ロケットランチャーなどを放ち応戦した。

王都は瞬く間に戦火に包まれた。


「野郎ども…!またこの前みたいに上空から侵入してくると思ったが…今度は地底から来やがったか…舐めやがって!」

王宮の執務室の窓から外の様子を見ていたロゼは憤慨していた。

「今度こそ、誰がなんと言おうが俺も前線へ立つぞ!」
ロゼはそう言い終えると、槍を手に持ち、窓から身を乗り出そうとした。

エスタも剣を抜き、ロゼの後を追おうと試みた。

すると、執務室の扉がゆっくりと開いた。

窓から地上へ飛び降りて戦地へ向かおうとしていたロゼは、ピタリと動きを止めて扉を凝視していた。

またバレンティノが邪魔をしに来たのか?
ロゼはそう思った。

扉の向こうから執務室へ入室してきたのは、ルキフェル閣下だった。

「初めまして、お忙しいところ申し訳ありません。バレラルク王国第84代国王、ウィルアート・ロゼさんですね?」
ルキフェル閣下はツカツカとゆっくり歩き、執務室の中央あたりでピタリと止まった。


「おいおい…ノックぐらいしたらどうだ?」
ロゼは苦笑いをしながら言った。


「誰だてめえ?」
エスタはルキフェル閣下に剣を向け、威嚇する様に言った。

「冥花軍(ノワールアルメ)最高司令官、ベルッティ・ルキフェルです。」

「へえ、そりゃまた随分と大層な肩書きじゃねえかよ。で?最高司令官様が俺に何の用だ?」ロゼが尋ねた。


「はい、実は我ら魔族の生みの親…大王様がこの地を大変お気に召した様でしてね。よって、バレラルク王国を我々に明け渡して頂きたい。ですから国王である貴方に、私が直々にご挨拶に伺いに来た次第です。」
ルキフェル閣下は淡々と言った。

「てめえ…太々しい野郎だな?」
ロゼはコメカミの血管をピキピキとさせながら、怒りに打ち震えていた。

「ロゼさん、貴方が降伏の白旗を掲げた暁には、天生士(オンジュソルダ)を除いたバレラルクの民は誰一人殺さないと約束致します。」

「ふざけたこと抜かしてんじゃねえぞ!」
エスタは怒鳴り声をあげ、ルキフェル閣下に斬りかかろうとした。

しかし、ルキフェル閣下にひと睨みされたエスタは、まるで蛇に睨まれた蛙の如く体がすくんでしまった。

「私達の目的は10人の天生士の殺害です。貴方を含め、人間を殺害するつもりはもとよりありません。そんな事をしても、私達に利することは何一つありませんから。」

「はあ?てめえら前回の侵攻の時に、あれだけ無抵抗の民間人を大量虐殺しておいて、よくそんな事が言えるな!?」
ロゼは目を丸くしていた。

「その点に関しましては深くお詫び申し上げます。何せ我が冥花軍は、最高司令官の私でも御しきれない程に血の気の多い方ばかりなのです。」ルキフェル閣下は皮肉混じりに言った。

すると、ルキフェル閣下の背後にバレンティノが現れた。

バレンティノは完全に気配を消して執務室に入室し、一目散にルキフェル閣下の首の後ろに斬りかかった。

しかしルキフェル閣下は執務室の右端付近へと高速移動し、バレンティノの斬撃を悠々と躱した。

「フフフ…速いねえ。」
バレンティノはルキフェル閣下のスピードに感心していた。

「素晴らしい斬撃ですね。やはりこの国は層が暑い。」
ルキフェル閣下が言った。


「フフフ…王宮の執務室に単身乗り込むとは、ふざけた人だねえ。」
バレンティノはルキフェル閣下の無作法な行動に、憤りを感じていた。

「バレンティノさん、ロゼさん、そしてエスタさん。貴方達はとてもお強い。ただの人間とは思えないほどに素晴らしい御力を有しております。宜しければ、私達の家族になりませんか?」ルキフェル閣下は想像の斜め上をいく提案をした。

「家族になる…だと?」
「はっ、ようは俺たちも魔族になってくれって事だろ?ふざけたこと抜かしやがって。」
ロゼとエスタは呆れ返っていた。

「魔族になれば今以上の力を手にすることが出来ます。大王様から血肉を分け与えて頂ければ、天生士などに引けを取らない素晴らしい能力と不老の肉体を手に入れる事ができます。このまま我らに抗って死ぬのはとても勿体無いです。悪い話ではないと思うんですけどね、どうでしょうか?」
ルキフェル閣下はロゼ達3人を冥花軍へと勧誘した。


「フフフ…却下だね。甘く見ないでもらえるかな?そんな誘いに乗るわけないよねえ。」
「右に同じく。」
バレンティノとエスタは即答で拒否をした。


「俺は死んでも悪に魂は売らねえよ。そして俺たちはお前らなんかに絶対に負けねえ。大好きなこの国を…民衆を…仲間を…何がなんでも護ってみせる。正義が滅びてねえって事を、てめえらに証明してやるぜ?」
ロゼは真っ直ぐな強い眼差しで言った。

ルキフェル閣下はロゼの発言を小馬鹿にする様に、あからさまにため息をついた。

そしてゆっくりと剣を抜いた。

「降伏するおつもりも、我らと迎合するおつもりもないと捉えても良いですか?」

「好きな様に解釈しろよ。」

「交渉決裂ですか…非常に残念ですが、致し方ありませんね。死んで頂きますよ。」

ルキフェル閣下が軽く剣を一振りすると、執務室のある王宮の5階フロアが半壊した。

バレンティノ、ロゼ、エスタの3名は、ルキフェル閣下が剣を振り下ろそうとした瞬間、本能的に危険を察知し、執務室から脱出して王宮内の庭園へと舞い降りた。

「なんだよあいつ…バケモンか!?」

ルキフェル閣下は、自身の力の底などまだ微塵も出していなかったが、それでもロゼはその強さに圧倒されて驚きを隠せなかった。

「フフフ…油断しないでください、国王様。モスキーノを再起不能にした魔族はブロンド色の長髪の男だって目撃証言があります…恐らく、あの男のことですよねえ。」
バレンティノは珍しく動揺していた。

「ブロンド色の長髪って…まんまあいつじゃねえか!あいつがモスキーノをやったのかよ…イカついぜ…!」

半壊した王宮5階フロアから庭園を見下ろすルキフェル閣下を、ロゼはジーッと凝視しながら言った。

「なんだぁ?天生士(オンジュソルダ)は1人もいねえじゃねえかよ!」

上空から声が聞こえてきた。

ロゼ達はビックリして上空を見上げると、そこには宙に浮くジェイドの姿があった。

「てめえらみてえな不届き者共はよぉ!閣下が自ら手を下すまでもねえ!俺の黒炎で消し去ってやるぜ!」
ジェイドは庭園から約30メートルほどの高さの場所から、ロゼ達をニヤケ顔で見下ろしていた。

「黒炎だと?あいつがノヴァ達と交戦したジェイドって男か!?」

「フフフ…どうやらそのようですねえ。あの首に刻まれた花は確か…ジャーマンアイリスだったかなあ。」

ロゼとバレンティノは空を見上げ、宙に浮くジェイドを注視していた。

「てめえら閣下の誘いを断るなんて不届きが過ぎるぜ!?死ね!火祭りワッショイ!」
ジェイドはそう言い終えると、両眼をピカッと黒光りさせた。

ジェイドの視界には、王宮ががっしりと定められていた。

王宮を消滅させるほどの凄まじい黒炎が、ジェイドによって放たれた。

「おい!これはやべえぞ!」
「フフフ…万事休すですかね?」

ロゼは激しく取り乱していた。
バレンティノは平静を装っていたが、額に冷や汗を滲ませ、内心動揺していた。

しかし、その黒炎は王宮に届かなかった。

王宮を焼き尽くす前に、どこからともなく現れた業火によって相殺されてしまったのだ。

黒炎と業火、激しい爆炎の衝突により、王宮周辺は一時騒然となった。

ジェイドは何が起きたのか理解できず、上空から地上を注意深く観察していた。

すると、王宮の庭園から自身に対し嘲笑の眼差しを向ける1人の男の姿を確認した。

その男は、カインだった。

「小煩え野郎だな。お前がどういう真意で不届きなんて陳腐な台詞を連呼してるのかは知らねえが…とりあえずお前の炎は届かなかったぜ?」
カインはほくそ笑みながら言った。

「おいカイン!一人で良いとこ取りすんなよ!この黒い炎は俺の風でかき消してやろうと思ったのに!」

カインに続き、エンディも王宮へ到着した。

エンディは、カインに手柄を横取りされた気分になり、若干拗ねていた。

ジェイドは2人の言葉が癪に障ったようで、鋭い眼光でエンディとカインを睨みつけていた。









この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?