輪廻の風 3-4



エンディ達は宴を中止し、ロゼに玉座の間へと招かれた。

急遽、緊急会議が執り行われたのだ。

玉座の間にはバレラルク王国の軍事機関の中核を担う者達が集められた。

しかしその場には、軍人ではないエンディ、カイン、エラルドも招集をかけていた。

「おいおい、なんで俺まで呼び出されてるんだよ?」仕事中に突然呼び出されたエラルドは気怠そうに言った。

「君は軍人じゃないけど、一応天生士(オンジュソルダ)だからね。」アベルが言った。

そして玉座の間には4人の将帥が同時に入って来た。

マルジェラ、モスキーノ、バレンティノ、ポナパルト。

この4人が揃うのは久しぶりだったため、皆その迫力に圧倒されていた。

「よし、役者は揃ったな。まずはお前ら、急な呼び出しに応じてくれてありがとよ。」
ロゼは玉座に腰をかけながら皆に向けて言った。

「誰か〜、まずは今回の侵入者についての顛末報告をおねが〜い!」
モスキーノはヘラヘラしながら言った。

「俺たちはその場にいなかったからな。エンディ、カイン、侵入者と対峙したのはお前達だろ?まずはお前達の口から、簡潔に説明をしてくれ。」マルジェラが冷静な口調で言った。

「えーっと…。」
エンディは皆の前で話す事に緊張してしまい、どこから説明すれば良いのか適切な判断が出来ずこんがらがっていた。

「おい!さっさと説明しろや!!」
痺れを切らせたポナパルトが苛立った口調でそう言うと、エンディの背筋がピーンと伸びた。

「連中は魔族だ。」
カインが口火を切った。

すると、その場の空気はシーンと凍りついた。

「初めに俺たちに絡んできた男は、ユドラ人らしい。闇の力を"与えられた"と言っていた。この意味が分かるか?」
カインが皆に問いかけるように言った。

「"与えられた"って事は…つまり、"与えた奴"がいるって事か。」ロゼが深刻な表情で言った。

「なるほど…闇の力は譲渡が可能で、その力を与えられれば普通の人間も魔族になれるって事か…厄介だね。」
ラベスタが無表情で言った。

「今回の侵入者共は1人残らず、自爆して消滅した。奴らに力を与え、王宮を襲撃するよう仕向けた連中がいるって事だ。そいつらこそが"生粋の魔族"って事になるな。」
カインは理にかなった分析をした。

「フフフ…使い捨てのトカゲの尻尾切り要員達に王宮を襲撃させて、最後は自爆ねえ。これって明らかに俺たちに対する"宣戦布告"だよねえ。」バレンティノが言った。

「あのマルクスって男…"死んでもらうぞ天生士(オンジュソルダ)共"って言ってた…。まさか狙いは俺たちなのか…?」
ここまで黙りこくっていたエンディが、ようやく喋り出した。

「そりゃそうでしょ〜。だって彼らは天生士との戦いの最中に封印されて、500年も封印されてたんだから。その転生者である俺たち"現天生士"は恨まれて当然。つまり彼らにとって俺たちは、早々に消すべき標的って事だよね!」モスキーノはニコリと笑いながら言った。

「封印されているイヴァンカを含めて、天生士は全員ディルゼンにいる。いや…アズバールに限っては2年前の戦い以降行方不明だったな…。だが確かな事は1つ…魔族は近日中に、必ず再び襲撃にくる筈だ。」
マルジェラのこの発言で、その場の空気はピリピリと張り詰めた。

それもそのはず、魔族について分かっている事は"空中浮遊能力"と"死雨"と呼ばれる黒い破壊光線を放つ事のみ。

勢力も力も未知数で所在地も不明。

得体の知れない軍勢からの敵襲に備える事はあまりにも難しい上に、こちら側は圧倒的に不利だった。

玉座の間は異様な緊迫感に包まれた。

すると、ロゼがスッと玉座から立ち上がり、ツカツカと歩き出し、皆の前で立ち止まった。

「バレラルク王国全軍に通達する!これより戦の準備に取り掛かれ!いつ何時魔族の奴らが襲撃して来ても迎え撃てるよう、万全の体勢を整えろ!侵入者はアリ1匹残さず、徹底的に殲滅するぞ!」

ロゼが大声でそう叫ぶと、その場の緊張感は更に高まった。

しかしそれ以上に、一人一人の意識も変化し、戦いの士気も高まった。

国王の座を襲名してから2年経ったが、ロゼのカリスマ性は健在だった。

むしろより一層、王者の風格を醸し出す様になっていた。

未知の敵勢力に対し、それぞれ心構えを整え始めた。

「失礼します!」

ロゼの激励が終わったタイミングで、玉座の間に一人の男が入室し、扉の前で片膝をついて畏まっていた。

男はバレラルク兵団のメンバーだ。

「なんの用だ?」ノヴァが尋ねた。

「ご報告が御座います。先程ペルムズ王国から入電がありました。同国某所に潜伏している旧ユドラ帝国の残党達が、今しがた"謎の軍勢"と小競り合いを起こし、現在交戦中との事です!」

ペルムズ王国とは、バレラルク王国と軍事同盟を締結している軍事国家だ。

そして、2年前の終戦以降、ユドラ人の元憲兵隊員達が最も多く潜伏している国でもあった。

「だから何だよ!下らねえ事いちいち報告してくんな!」
ポナパルトが怒鳴ると、報告に来た男はビクッとして萎縮してしまった。

「待てよ、人の話は最後まで聞こうぜ?その"謎の軍勢"ってのは何だ?」
ノヴァがそう尋ねると、男は再び喋り始めた。

「これは私の見解ですが…報告を受けた際に聞かされた、連中の身体的特徴や攻撃形態が、先程王宮を襲撃しに来た連中と酷似している事から…恐らく魔族ではないかと推測しています…!」

男がそういうと、エンディ達の目の色が変わった。

「なるほどお〜!ユドラ人の残党共を手駒にして戦力を増強しようって魂胆だね!」

モスキーノは笑顔で言った。
その謎の軍勢の正体が魔族であると確信した上での発言だった。

「…よし!早速で悪いが、エンディとカイン!お前らペルムズ王国へ敵情視察に行ってこい!」
ロゼがおもむろに言った。


「えぇ!?俺がですかぁ!?」
エンディは突然の指名に目を丸くして困惑していた。

カインは無表情でシーンとしている。

「ああ。他の奴らは国を離れるわけにはいかねえからな…そこでだ!どこにも属していないお前ら2人にこそ、今回の任務は適任だと判断した。どうだ?これは王命だぜ?異論があれば遠慮なく言ってくれ。俺は慈悲深い国王だからよ、場合によっちゃ聞き入れてやってもいいぜ?」

「俺、行きます!行かせてください!」
エンディはとても気合が入った返事をした。

しかし、カインはロゼの王命を拒否した。

「悪いが俺は行かねえ。」

「どうしてだ?理由を聞かせてくれ。」
ロゼがそう尋ねると、カインは難しそうな顔をした。

「そう言うだろうと思ったぜ、カイン。お前は行くべきじゃない。お前は、家族を守るべきだ。」
カインの気持ちを察したエンディが優しく言った。

カインは図星を突かれ、どこか心苦しそうな顔をしていた。
ロゼの頼みを断ったことに対して、若干の後ろめたさを感じている様だった。

いつ魔族が侵攻してくるのか分からない状況下で、カインは絶対に国を離れたくなかったのだ。

それは、有事の際には何としても自身の手で妻と子を守り抜くという強い意志の表れだった。

「じゃあ、兄さんの代わりに僕がエンディに同行するよ。ロゼ国王、それでいいでしょ?」
アベルが気を利かせて言った。

そんなアベルの気持ちを、カインはとても嬉しく思っていた。

「アベル…お前…。」

「心配しないで。この2年間で、僕も結構強くなったからさ。」アベルが得意げに言った。


「よし、決まりだ!じゃあエンディとアベル、早速ペルムズ王国へ向かってくれ!」
ロゼがそう言うと、エンディとアベルは元気よく返事をして、急いで出国の準備に取り掛かった。




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