輪廻の風 3-5




エンディとアベルは急いでジェット機に乗り込んだ。

もちろんこのジェット機は、毎度おなじみのロゼが所有する王室御用達のプライベートジェット機だ。

「よーし!さっさとペルムズ王国に行こうぜ!」

「エンディ、そんなはしゃがないでよ。旅行じゃないんだから。」

気持ちが昂っているエンディとは対照的に、アベルは少し冷めていた。

「おいちょっと待てえ!どうしてオレ様がオメェらと同行しなきゃならねえんだ!」
コックピットに座っているダルマインが怒鳴り声を上げた。

どうやら、エンディとアベルに無理やり連行されてしまったようだ。

「だって俺たち操縦出来ねえもん。頼めるのお前しかいないし。」エンディは、ダルマインが目的地までジェット機を操縦してくれる事に対してまるっきり感謝の意を示さず、さも当たり前の様な態度で言った。

「文句言ってないでさっさと離陸してよ。君はこういう時にしか役に立たないんだからさ。」
アベルが高圧的な口調でそう言うと、ダルマインは渋々承諾した。

「はぁ〜〜…分かったよ、やりゃあいいんだろ!?めんどくせえなぁ。その代わりオメエら、何を引き換えにしてでもオレ様の命だけは死んでも守れよ!?」

ダルマインは捨て鉢になりながら操縦を始め、いよいよジェット機が離陸した。

「うほー!やっぱ楽しいなあ!」
エンディは相変わらず、ジェット機が動き出すと、まるで遊園地で遊んでいる子供の様にはしゃいでいた。

魔族と旧ユドラ軍が交戦しているペルムズ王国の砂漠地帯までの所要時間は約2時間。

空の旅が始まった。


すると、ジェット機が高度一万メートルに達し安定飛行に入ったタイミングで、エンディの背後から何者かが「わあっ!」と大きな声を出して、エンディの背中を軽く叩いた。

「うわあぁっ!」
エンディはビックリして声を荒げてしまった。

エンディの叫び声を聞いたアベルとダルマインも、思わずビクッとしてしまった。

エンディが勢いよく後ろを向くと、そこにはラーミアがいた。

なんとラーミアは、エンディ達が乗り込むより前にジェット機にこっそり忍び込み、離陸するまで機内の食品庫に隠れていたのだ。

「えぇ!?ラーミア!?何で居るんだよ!?」

「えへっ、来ちゃった。」
ラーミアはお茶目に笑いながら言った。

「来ちゃったって…。」
アベルが呆れた口調で言った。

すると、エンディは血相を変えてコックピットまで走って行った。

「おいダルマイン!一旦戻れ!」

「はぁ!?なんでだよ!?」

「ラーミアを連れて行くわけには行かない!」

エンディは、これから向かう紛争地帯にラーミアを連れて行くことは、あまりにも危険だと判断したのだ。

「一旦戻ってラーミアを降ろす!ペルムズ王国にはその後に向かおう!」

「ふざけんなよめんどくせぇ!ここまで来て何でまた戻らねえといけねえんだ!オレ様をコキ使うんじゃねえよクソガキ!」

エンディとダルマインの口喧嘩が勃発した。

それを側から見ていたアベルは、苛立ちを募らせていた。

すると、ラーミアがゆっくりとエンディの隣に歩み寄った。

「エンディ、私も一緒に連れてって?」
ラーミアは屈託のない笑顔を浮かべながら言った。


「だめだ!今から行く場所は紛争地帯なんだぞ?そんな危険な場所にお前を連れていくわけにはいかない!」
エンディが強い口調で言った。
それでもラーミアはめげなかった。

「そんなこと言ったら、ディルゼンに居たって同じでしょ?いつ魔族の人達が襲撃に来るか分からないんだから。どちらに居ても危険な事に変わりはない。だったら私は、エンディのそばに居たいの。」
ラーミアが落ち着いた口調でそう言ってのけると、エンディは返す言葉が無くなってしまった。

「ラーミア…。」

「大丈夫、エンディが怪我をしたら私が絶対に治すから。ね?」
ラーミアは優しく微笑みながら言った。

エンディはその気持ちを嬉しく思う反面、複雑な心境に陥っていた。

それは、ラーミアの持つ特有の"自己犠牲の精神"を危惧していたからだ。

ラーミアは2年前から、エンディ達に危険が及ぶと、率先して自らを犠牲にして周囲を護ろうとしていた。

エンディが旧ドアル軍から集団暴行を受けた時も、旧ドアル軍が科学兵器を用いてディルゼンを焼き払うと脅しかけてきた時も。

何より決定的だったのは、2年前に闇の力を取り込んだイヴァンカを、何の躊躇いもなく封印した事だった。

ラーミアの持つ退魔の力は、術者自身の生命を脅かす禁忌の術。

ラーミアと同じ力を持った天生士は500年前、複数名の魔族の筆頭格を封印して命を落としたのだ。

イヴァンカが吸収した闇の力が微量だった事が幸いして、ラーミアがあの時命を落とさずに事なきを得たと言えど、エンディはあの時心の底から震撼していた。

エンディには、これから魔族と対峙する際に、ラーミアが自らの命を投げ打つ様な真似をするのではないかという大きな懸念があったのだ。

「分かったよ、好きにしろ。その代わり、絶対に俺の側を離れるなよ!」
ラーミアの強気な姿勢に、エンディはついに折れた。
ラーミアが危険な真似をしない様、自分が近くで見張っていた方が合理的であるとも判断したのだ。

「はーい!聞き入れてくれてありがとう!」
ラーミアは笑顔を絶やさなかった。

アベルは、なんだか先が思いやれる様な気持ちに駆られていた。











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