輪廻の風 3-24




「うおーーー!!」
エンディは溢れんばかり戦闘意欲を抑えきれず、大声を張り上げながらヴェルヴァルト大王に向かって空を駆け昇った。

しかし、ヴェルヴァルト大王に近づいていくにつれ、重圧に押し潰されては心が折れそうになっている自分にも気がついていた。

それを必死に誤魔化そうとしていた意味合いでも、声を荒げていたのだ。

エンディはヴェルヴァルト大王の顎を渾身の力で殴った。

そして両手の拳にありったけの風の力を込め、ヴェルヴァルト大王の胸部や腹部を何度も何度も殴打した。

1発殴るたびに、まるで大気中を激震しているような強い波動が流れた。

それ程までに殺傷能力のある攻撃を何度も受けているにもかかわらず、ヴェルヴァルト大王は血を一滴も流さず、うめき声すら上げず、一貫して無抵抗だった。

不気味に思ったエンディは、今度は右脚に強烈な風を纏い、ヴェルヴァルト大王の頭頂部に踵落としをした。

それでもエンディは追撃をやめず、ヴェルヴァルト大王のツノを片手で掴み、ヴェルヴァルト大王を勢いよく地上まで引きずりおろした。

ヴェルヴァルト大王は勢いよく大地に叩きつけられた。

激しい衝撃音が鳴り響き、大地にはまるで隕石が衝突したかのような大きな亀裂が生じた。

ヴェルヴァルト大王は地面深くへとめり込んだ状態で、仰向けになっていた。

エンディはすかさず、再び風力を利用して空中へと浮き、仰向け状態になっているヴェルヴァルト大王目掛け、上空から巨大なカマイタチの攻撃を「うおぉぉぉ!!」と雄叫びを上げながら、これでもかというほどに浴びせた。


その際に激しい砂埃が上がり、ヴェルヴァルト大王の姿は完全に見えなくなっていた。

「おいおい…ちょ〜っとやりすぎじゃねえか?まあ…やりすぎくらいが丁度いいか。」

「流石に魔族の王といえど、これじゃ影も形も残らねえな…。」

ロゼとノヴァは、若干引き気味に言った。

「どうだかな…そんな甘い相手じゃねえと思うけどな。」
カインは神妙な面持ちで言った。

魔族の王であるヴェルヴァルト大王がこんなにもあっさりと敗北し、絶命したとは到底思えなかったのだ。

そしてその考えは、バレンティノとイヴァンカも同じだった。

エンディは攻撃を止め、ゆっくり地上へと着地した。

そしてヴェルヴァルト大王の生死を確認しようと試みて、砂埃が解消されるのを緊張した面持ちで静かに待っていた。

ゆっくりと薄れゆく砂埃の中に、巨大な影を確認した。

エンディは目を疑った。

ヴェルヴァルト大王は無傷の状態で、涼しい顔をして立っていたのだ。

強力な攻撃を何度も打ち込まれたにも関わらず、まるで自身の身には一切の大難が降りかかってなどいないかの様な、なに食わぬ表情で立ち尽くしていたのだ。

エンディは絶句した。

「嘘だろ…なんで…?おまえ…おまえ一体何者なんだよ!!??」

エンディがそう問いかけても、ヴェルヴァルト大王はうんともすんとも言わなかった。

その態度が癪に障ったのか、エンディは目の前に威風堂々と立ち尽くすヴェルヴァルト大王に真正面から殴りかかった。

「これで終わりだぁ!!」

エンディの右腕には、まるで竜巻の様な力の放流が纏わりついていた。

ヴェルヴァルト大王は、自身に立ち向かってくるエンディに向けて、スッと右手の人差し指を向けた。

その瞬間、カインは背筋がゾッと凍りついた。
生物の本能で、得体の知れない危険を察知したのだ。

「エンディ!よけろ!!」
感情的になって我を忘れ、ヴェルヴァルト大王に一直線に突っ込もうとするエンディに対し、カインは強い口調で注意を促した。

勿論、その声はエンディの耳には届いていなかった。

ヴェルヴァルト大王の爪の先から、何やら衝撃波の様なものが放たれた。

衝撃波は、ビュンッと音を立て、エンディのみぞおちに直撃した。

ヴェルヴァルト大王まであと一歩というところで攻撃を受けたエンディは、あまりの激痛に耐えきれず瞬時に足を止め、膝からガクンと崩れ落ちた。

恐る恐る自身の腹部を見ると、風穴があいていた。

その風穴は、おおよそ平均的な成人男性の手と同等の大きさで、綺麗な円を描いていた。

エンディは吐血し、地面にうつ伏せになって倒れ込んでしまった。

そして患部からは、ドクドクと絶え間なく血が溢れていた。

「エンディーー!!」
ラーミアは涙ぐんだ声で叫んだ。

しかしエンディはかろうじて意識を保っており、うつ伏せの状態から顔を上げ、眼前のヴェルヴァルト大王を睨みつけていた。

恐るべき不屈の精神だった。

すると、今度はヴェルヴァルト大王の全身が突如発火した。

カインが炎を放ったのだ。

しかし、ヴェルヴァルト大王には全く効いていなかった。

本来ならば一瞬にして骨の髄まで焼き尽くされてしまうであろう激しい豪火にその身を包まれているにも関わらず、ヴェルヴァルト大王はまるで何事も無かったかの様に悠々と立ち尽くしていた。

「なんなんだよ…こいつ…!!」
カインは慄いていた。

「脆いな…お前たち天生士(オンジュソルダ)は。昔も今も。」
ヴェルヴァルト大王はエンディとカインを哀れむように言った。

そしてカッと鋭い眼光を放つと、カインの放った豪火は瞬く間に消滅してしまった。

エンディは右手で患部をおさえながら、ゆっくりと立ち上がった。

今にも意識を失いそうになるのをグッと堪え、肩で息をしながらも、再びヴェルヴァルト大王に立ち向かう姿勢を見せた。

するとヴェルヴァルト大王は、右手の人差し指と親指で、まるで豆を掴むかのようにエンディの頭を掴んで持ち上げた。

「なにすんだ…離せよっ!」
エンディは精一杯の抵抗をしようと、頭を掴まれた状態で足をバタバタとさせていた。

「飛べ…地の果てまで。」

ヴェルヴァルト大王は冷酷な声色でそう言い放つと、エンディを遠方へと放り投げた。

「わああぁぁぁぁぁ!!」

エンディは絶叫しながら、空高く飛ばされてしまった。

身を投げられてからものの数秒で、エンディの姿はもう視界では確認出来なくなるほど遥か彼方へと消えていった。

「エンディー!!」
「おい…うそだろ…?」
ロゼとノヴァは、自身の目を疑っていた。

アベルとアズバールは、衝撃のあまり言葉を失っていた。

「てめえー!この化け物がぁ!!」
カインはヴェルヴァルト大王の顔面を力一杯蹴り飛ばしたが、ヴェルヴァルト大王はビクともしていなかった。

「頭が高いぞ、魔族の王よ。」
次に攻撃を仕掛けたのはイヴァンカだった。
イヴァンカは背後からヴェルヴァルト大王の首を斬りつけた。

しかし、やはりヴェルヴァルト大王の体にはアザの一つもできなかった。

何故傷の一つも負わせる事ができないのか、カインもイヴァンカも全く見当がつかなかった。


皮膚がとてつもなく硬いのか、或いは全ての攻撃を無力化するような、何か特別な力が働きかけているのか、各々思案していた。

するとヴェルヴァルト大王はカインとイヴァンカに右手の掌を向け、「お前達も飛ぶか?」と言い放った。

すかさず何かしらの防御をしようと試みるも、カインとイヴァンカもエンディと同様に、遥か彼方へと飛ばされてしまった。

それはほんの一瞬の出来事だった。

2人の姿は、すぐに視界では到底捉えることのできない所まで飛ばされてしまった。

飛ばされた際、カインとイヴァンカは何かしらの外傷を受けたのか、誰も目で追う事ができなかった。
よって生死の有無すらも不明だった。

しかし、この3人が大敗を喫したのは紛れもない事実だった。


ラーミアは言葉が出ないほどに怯えていた。

そんなラーミアのもとに、ヴェルヴァルト大王はゆっくりと歩み寄っていった。

「扨…ラーミア、お前はもう"用済み"だ。肉片一つ残らない、残酷な死を与えてやる。」

ヴェルヴァルト大王は500年前、ラーミアと同じ能力を持つ天生士により封印術を行使され、以来5世紀にも長きに渡る間封印されていた。

そのためか、同じ力を持つラーミアに対し、狂信的ともいえる憎悪の念を抱いていた。

ロゼはラーミアの身を案じると同時に、ヴェルヴァルト大王が何気なく言い放った"用済み"という言葉が妙に引っかかり、深刻な表情で何かを考え込んでいた。











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