輪廻の風 ダルマイン外伝


おう、俺の名前はダルマイン。
ムルア大陸一の嫌われ者だ。

ドアル王国では領海警備を任されているインダス艦隊の提督をしていた。

これでもまずまずの軍人だったんだぜ?

だがそれは所詮は過去の栄光。

ドアル王国は大陸戦争で敗北してバレラルクに吸収されちまった。

旧ドアル軍残党の筆頭戦力としてバレラルクに復讐しようとしたんだけどよ、リベンジは果たせなかった。

総帥のギルドが死に、アズバールが敗けちまったからだ。

今は色々あって、俺はバレラルクの王都ディルゼンでひっそりと暮らしている。

どうやって生活費を稼いでるかって?
そんなもん恐喝に決まってんだろ。


「ダ、ダルマインさん…勘弁してくださいよ〜…。」

「うるせえ!てめえ昔色々面倒見てやった恩を忘れたんか!?黙って俺様に金を出せ!」

こいつは元インダス艦の乗組員。
今はディルゼンで職人として働いている。

ドアル軍の残党はロゼから恩赦を貰って今は皆んなバレラルクで心を入れ替えて働いている。

ほとんどはノヴァとラベスタが仕切ってるバレラルク兵団に入団したが、中にはもう2度と武器を手に取りたくないって奴もいる。
そういう奴らは大工になったり漁師になったり農家になったり…みんなそれぞれ手に職つけて真面目に働いている。

だがよ、元は俺の部下だ。
いまだに俺に逆らえない奴らは何人もいるぜ?
俺はそういう奴らから金を恐喝して今日も生きている。

弱者の生き血を啜るのはやめられねえな。
世の中弱肉強食だからよ、弱い奴が悪いんだ。
奪われたくなけりゃ、奪われないくらいてめえが強くなるか、奪う側にまわるしかねえんだよ。

卑怯?卑怯で何が悪いんだ?

最低?おう、もっと言ってくれ。

クズ人間?ありがとよ、それ最高の褒め言葉だぜ!


だけどよ、俺だって別にこんな人間になりたくてなったわけじゃねえんだよ。
成るべくして成ったんだ。

何も最初からこんな人間だったわけじゃねえぜ?

世の中には性善説とか性悪説とか説いてる野郎がいるけどよ、そんなもんクソ喰らえだ。

確かに生まれ持った資質ってもんもあるかもしれねえけどよ、人間の性格なんて生まれ育った環境で全て決まると思ってる。

俺は今から40年前、ドアル王国の王都レイノンで産まれた。

レイノンは世界最先端の科学技術略を誇るドアル王国の王都ってだけあって、そりゃすげえ大都会だったぜ?

だけど俺の生まれ育った地域は、そんな煌びやかな世界の影に隠れたスラム街だった。

当時のドアル王国は貧富の格差がすごかったんだ。レイノンもまた都会な分、そのひずみも大きくてよ。

まあ汚ねえ街でよ、気性の荒い酔っ払い共が毎日喧嘩してたな。殺人事件なんて日常茶飯事だった。国もそれを見て見ぬふりをしていた。

ちょっと街を出れば、金持ち共にはまるでゴミを見るような目で見られてたな。

生まれた国は同じなのに、生きてる世界はまるで違う。

俺は紛れもなく負け組だった。

俺の親父はスラム街の小せえ窃盗団のリーダーでな、ろくでもねえ男だった。

母親は貧乏人相手の売春婦だ。


家に帰れば親父が窃盗団の仲間達と安酒かっくらってたよ。
親父は酒乱でな、俺は毎日のように虐待されてたぜ?

だから俺はあまり家にいなかったんだ。

こいつらと同じ空気を吸ってたら、俺もこいつらみてえにクソみてえな大人になっちまう。
そう考えると怖くて怖くて仕方がなかったんだ。

まあ、ガキの頃からそんな劣悪な環境で汚ねえ大人たちに囲まれてたらよ、俺の性格が歪むのも無理はねえだろ?


とにかく俺は絶対にこんな大人にはならねえ。
絶対にこの理不尽な世界で強く生きてやる。
その気持ちを常に持ち続けてたよ。

身体が人一倍でかかったからよ、同世代の奴らは誰も俺に逆らわなかった。

でも、実はそんなに喧嘩は強くない。
臆病で小心者で思いっきり弱い。

周りにそれがバレたくなくて必死だったな。
スラム街のガキ共の中では、しょうもねえお山の大将だったぜ。

ある日な、ふいに海を眺めて黄昏たい気分になったんだ。

そんで一人で港町の方にいったんだよ。

そしたらインダス艦が何隻も巡回しててよ。
カッケェなあって思ったんだ。

俺もいつかこのデケエ黒船に乗って、大海原を自由に駆け巡るデケエ男になりてえって思ったよ。

スラム街生まれの負け組のガキの分際でよ、デケエ夢をもっちまったんだ。

身の程知らずなのは百も承知だった。

俺は産まれからして大失敗だったからよ、人の何百倍も頑張らなきゃなって思ったよ。

16の時に見習いとしてインダス艦の乗組員になった。

上官にはゴマスリまくって気に入られて、気に入らねえ奴は卑怯な手を使って蹴落として…。

強きに媚びて弱きを挫く。
俺はそんな生き方を覚えちまった。
それが賢い生き方だと、今でもそう思ってるぜ?

そして30になった時、ついにインダス艦隊の提督の座に就いたんだ。

あの時の喜びといったらもう…言葉じゃ言い表せねえぜ?

だけどよ、ガキの頃の憧れなんて虚しいだけで、夢に見た景色は何も無かった。

そりゃあよ、今まで俺様を見下してきたボンボン共を顎で使うのは堪らねえ快感だったよ。
それなりの権力も手に出来たしな。

だけど俺は人の上に立てる器は持ち合わせていなかったんだ。

提督としての重圧に耐えられなくて、毎日胃が痛かったぜ?

何も無い自分を部下共にバレたくなくて、必死に自分を取り繕ってた。

戦時中、敵国の軍艦に襲撃されることは何度もあった。

その度に俺は船長室に篭ってガタガタ震えてたぜ?

命の危険を感じたことも何度もあった。
その度に俺は部下の命を盾にしてきた。
だから今、俺は生きているんだ。

罪悪感なんてねえよ。
俺は敵だろうが味方だろうが、利する者は全て利用して、何がなんでも生き延びてやる。

部下の命なんざ知ったこっちゃねえぜ?

前にも言ったろ。
民衆は血の海に浮かぶ屍の山を大地と呼び、その上に立って平和を謳歌してるんだぜ?

あーあ…いつの間にか俺は、ガキの頃大嫌いだった大人よりも汚ねえ大人に成り下がっちまったぜ。

改心するつもりはねえよ。
今更善人になれるわけもねえしな。
この生き方を変えるつもりもねえ。
死ぬまで小悪党一直線だぜ。

ん?なんだ?汚ねえドブネズミが俺のことジーッと見てやがる。

この野郎、人間が怖くねえのか?
それとも俺様を舐めてんのか?

いいねえ、その怯えた目。俺様にソックリじゃねえかよ。


さてと、タバコでも吸うか。

あ?なんだよこのライター、オイル切れてんじゃねえかよ!クソが、イラつかせんなよ!


「誰か…ずっと消えない火を、俺の心に点けてくれよ。」

柄にもないこと言って悪いな。
寂しいかって?
馬鹿野郎、俺みてえな人間は寂しいに決まってんじゃねえかよ。なんか文句あんのか?


おう、俺の名前はダルマイン。
ムルア大陸一の嫌われ者だぜ。

どうせなら、世界一の嫌われ者に成ってやるよ。



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