輪廻の風 3-6



ペルムズ王国は、"砂漠の国"と名高い軍事大国だ。

今回紛争が勃発している土地は、バンホイテン砂漠と呼ばれる、世界最大規模の砂漠地帯である。


ペルムズ王国では急遽、討伐部隊が編成された。

総勢100名を超える討伐部隊が、旧ユドラ軍と謎の軍勢の小競り合いを沈静化すべく、バンホイテン砂漠を巡回していた。

すると、討伐部隊の部隊長が、砂丘に座り込む30数名から連なる集団を発見した。

その集団は旧ユドラ軍であった。
彼らは、何やら絶望感に打ちひしがれている様な様子だった。

「コラー!貴様らユドラ人だな!?他所の国で随分と好き勝手やってくれたもんだな!?神妙にしやがれ!!」

部隊長は怒鳴り声をあげ、部隊を率いて旧ユドラ軍の元へと駆けつけた。

すると、それに気がついた旧ユドラ軍の面々はスッと立ち上がり、ペルムズ王国の討伐部隊の元へと血相を変えて走り出した。


「た、助けてくれえ〜〜!!」

「あんたらペルムズ王国の軍人さんか!?頼む、俺たちを匿ってくれ!」

何と、旧ユドラ軍の戦闘員たちは、自分たちを捕らえにきた討伐部隊に助けを求めて来たのだ。

あまりの予想外の出来事に、討伐部隊の者たちはポカーンとしてしまっている。

「待て!お前ら何を企んでいる?助けてくれとはどういう意味だ??」
部隊長は、これはもしかしたら罠ではないかと勘繰っていた。

「俺たち魔族の奴らに狙われてるんだ…!」

「仲間もほとんどやられちまった!」

「あんたらも早く逃げたほうがいいぞ!」

旧ユドラ軍は皆、ひどく怯えた様子で激しく取り乱していた。

「魔族…だと…!?」
ペルムズ王国の討伐部隊の面々も、どよどよとし始めた。

「お前ら!旧ユドラ軍を1人残らず拘束しろ!」

部隊長が咄嗟に命令を下すと、隊員たちは「はっ!」と返事をし、結束バンドで旧ユドラ軍の戦闘員たちを拘束し始めた。

「おい!こんなことしてる場合じゃねえぞ!早く逃げろ!」
1人のユドラ人が言った。

「話は後で聞く。とりあえずお前たちは、大人しく投降しろ。」部隊長は冷静な口で言った。

しかし、事態は急変した。

「おい…なんだこいつら…??」

何やら隊員達が空を見上げ、慄いていた。

それに釣られて部隊長が恐る恐る空を見上げると、上空には複数の真っ黒な浮遊物が無造作に飛び交っていたのだ。

「う…うわあぁぁぁ!!」

ユドラ人達は恐怖のあまり絶叫していた。

「何だ…あれは…!?」部隊長が言った。

黒い浮遊物は、よくよく見てみると、真っ黒いマントを身に纏った人型の生命体だった。

空中を舞っている際、全身から黒い蒸気を放出しているようだった。

その黒い集団は、ペルムズ王国が"謎の軍勢"と呼称していたものだった。

そう、"謎の軍勢"の正体は"魔族"だったのだ。


「死ねぇーー!!」

「ぶっ殺してやるぜオラーーッ!」

魔族達はケラケラと下品な高笑いをしながら、旧ユドラ軍とペルムズ王国の部隊に、死雨をこれでもかという程放った。

両軍、為す術もなくあっという間に壊滅してしまった。

魔族達は地上に降り立ち、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら死体の山を眺めていた。


「伯爵!こいつらどうしますか??」
魔族の1人が尋ねた。

伯爵と呼ばれる男の名はセスタヌート。
上品な老紳士の様な見た目で、首には黄色い下さがりの花のタトゥーの様なものが刻まれていた。

「ほっほっ。生存者が数名いますね。些かツメが甘いのでは?」セスタヌート伯爵がそう言うと、魔族の者達に緊張感が走った。

「も、申し訳ございません!直ちにトドメをさします!」

「ほっほっ…待ちなさい。そう逸ってはいけませんよ。生存者は連れ帰り、闇の力を与えてこちらの手駒にしましょう。」
セスタヌート伯爵は落ち着いた口調で言った。

「承知致しました!そして伯爵、報告が御座います。どうやらこの旧ユドラ軍の頭目は、木の天生士、アズバールのようです!」
魔族の1人がそう言うと、セスタヌート伯爵の眉がピクリと動いた。

「ほっほっ、それはまた予期せぬ幸運だ。行き場を失ったユドラ人を取り込み戦力増強を図った此度の遠征で、よもや天生士とあいまみえるとは!我輩にツキがまわってきているな!アズバールの首を献上すれば、大王様はさぞお喜びになるに違いない!」
セスタヌートは意気揚々としていた。

すると、傷だらけの部隊長の男がゆっくりと立ち上がり、セスタヌートを睨みつけていた。

「この国から…出て行け…。」
部隊長の男は、満身創痍で立っているのもやっとだった。
にも関わらず、魔族を前に一歩も引かなかった。

「ほっほっ、勇ましいね。ペルムズ王国にもイキの良い戦士がいるんだね。君、我輩の仲間にならないか?歓迎するよ。」
セスタヌート伯爵は部隊長の男に手を差し伸べた。

「ふざけるなぁーっ!!」
部隊長の男は剣を抜き、セスタヌート伯爵に斬りかかった。
しかし、その刃はセスタヌート伯爵には届かなかった。

セスタヌート伯爵の放った死雨により、部隊長の男の肉体は影も形も無くなってしまった。
その死雨は、他の魔族の者達が放つそれとは比較にならないほどに強大だった。

「ほっほっ、残念だ。弱き者は強き者に従う他生きる術が無いというのは自然の摂理であり普遍の原理であるというのに。それすら知らぬ愚か者には安らかなる死を与えよう。」
サスタヌート伯爵は残忍な顔つきで言った。

「伯爵、これからどうしますか?もう骨のある奴は居なそうですが…。」
この質問をした魔族は、質問をした直後にセスタヌート伯爵の死雨をその身に受けて絶命した。

それを見ていた他の魔族達は、須くゾッとした表情をしている。

「これからアズバールの首を持ち帰るという話をしていたばかりでしょう。我輩の話を聞き捨てる者は死あるのみ。さあ皆の衆!これよりアズバールの捜索に入るぞ!」
セスタヌート伯爵が両手をパンパンと叩きながらそう言うと、配下の魔族の者達は慌ただしく動き始めた。

しかし、突如上空から大きなエンジン音が鳴り響き、皆その音に気を取られて動きを止めてしまった。

エンジン音の正体はジェット機だった。

ジェット機は低空飛行のまま着陸態勢に入っていた。

すると、魔族の者達の立ち位置目掛けて機内から飛び降りる1つの人影が見えた。

「おい、飛び降りやがったぞ!」

「何者だ!?」

魔族の面々はざわざわとし始めた。

その人影は、セスタヌート伯爵の眼前に華麗に着地した。

「よう。あんたら魔族か?」
人影の正体は、エンディだった。


「こ…こいつは…ウルメイト・エンディ…!!」
セスタヌート伯爵は、エンディを見るや否や激しく動揺していた。










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