輪廻の風 3-22



ヴェルヴァルト大王。
それは魔族の始祖にして、魔族の長。
破壊神、魔神、大魔王、魔帝…多種の通り名を持つ絶対無敵にして究極の生命体。

彼が何処でどの様にして出生し、何処から現れたのか、それは神のみぞ知る永遠の謎である。

500年前の天生士(オンジュソルダ)と冥花軍(ノワールアルメ)の大決戦は、世界を破滅させかねない程の凄まじさだった。

初代天生士達は、神に仕える神官とは名ばかりの殺伐とした集団であり、恐るべき戦士達であった。

10日間繰り広げられた激闘の最中、天生士の猛攻により冥花軍は劣勢を強いられていた。

しかし、ヴェルヴァルト大王が加勢をすると、瞬く間に形勢は逆転した。

窮地に追い詰められ戦闘続行は不可能となった冥花軍に代わり、ヴェルヴァルト大王はまた1人、また1人と、次々に天生士を葬っていったという。

この際、天生士は誰1人として、ヴェルヴァルト大王にかすり傷の一つもつけることができなかった。

それは、最後まで生き残った初代風の天生士も然り。

初代風の天生士の男の命が今にも消え入りそうになり、いよいよ全滅してしまうというところで、ラーミアと同じ能力を持つ当時の天生士により、ヴェルヴァルト大王と冥花軍、その他大勢の魔族の軍勢は封印された。

その後間も無く、風の天生士と封印術を施した天生士は絶命し、終戦を迎えて世界は光を取り戻したのだ。


そんな大逆無道の徒輩の首領ヴェルヴァルト大王が、ついに現天生士であるエンディ達の前にその姿を現した。

ヴェルヴァルト大王は、不遜な面持ちでエンディ、カイン、イヴァンカの3名を上空から見下ろしていた。

3人は、その視線が自分たちに向けられていることに気づいていた。

エンディとカインはヴェルヴァルト大王の醸し出すあまりにも禍々しい邪悪なオーラに圧倒され、無意識に2歩後退りしてしまった。

イヴァンカは平常心を保ちながら、同じく不遜な態度でヴェルヴァルト大王を見上げていた。

「礼を言う。2年前、お前達3人が絶大な力を解き放ち激闘を繰り広げてくれたおかげで、余は復活を遂げることが出来た。」
ヴェルヴァルト大王は、腹の底にまで響く野太い声で言った。

2年前のユドラ帝国での決戦で、覚醒憑依をしたエンディとカイン、そしてそれと拮抗した戦いぶりをみせたイヴァンカ。

やはり魔族復活の要因は、この3人の強大な力の奔流により封印が弱まった事にあった。

「この2年間で、余と子供達は緩やかに理知を取り戻し、力を研ぎ澄まし、そして虎視眈々とお前達を葬り去る準備を整えていた。そして今、機は熟した。ささやかな褒美をくれてやる。」
ヴェルヴァルト大王はそう言い終えると、大きな右手の掌を地上に向けて翳した。

掌には、凄まじい魔力を秘めた力が勢いよくかき集められた。

やがて、とてつもない闇の力が凝縮された巨大な黒い球体が出来上がった。

その大きさは、ヴェルヴァルト大王の片手には収まりきらないほどのものだった。

「さあ…興じろ!」

ヴェルヴァルト大王のこの台詞を合図にする様に、黒い球体は地上へと急速に落下していった。

あたりは騒然とした。

「おい!これはやべえぞ!!」
「嘘だろ…?こんなもん直撃したらディルゼンはあっという間に荒野になっちまうぞ!」
エンディとロゼは恐れ慄いていた。

「おいエンディ!ぼさっとしてんじゃねえよ!何が何でも食い止めるぞ!」

カインは果敢に前に出た。
エンディもカインに続いた。

「うおーーー!!!」

エンディとカインは大声を張り上げ、闇の球体に向けて全身から力を放出させた。

上空から放たれたすべてを無に帰す闇の力、地上からはまるで災害の様な豪風と豪火。

3つの力が衝突した。

空と大地の中間で衝突した3つの力は、凄まじい爆風を放ちながら拮抗していた。

まるで大気には亀裂が生じ、大地はグラグラと揺れている様だった。

「踏ん張れ!もっと力を上げろぉ!」
「うるせえ!偉そうに指図してんじゃねえよ!」

命令口調のエンディに、カインは憤りを感じて怒鳴りつけた。

2人は押され気味だった。
そのため心に余裕を無くし、隠し切れないほどに動揺していた。

「おいカイン!隔世憑依するぞ!もうそれしかねえ!」
「黙れ!言われなくても分かってる!」


「隔世憑依 風の使者(ノトスアポステル)」

「隔世憑依 太陽の化身(アラヌウス)」

2人は隔世憑依の形態に入り、先程とは比べ物にならないほどの強大な力を放出した。

「いつ見てもすげえ…!」
「フフフ…まるで天変地異だねえ。」
ノヴァとバレンティノは感心していた。

しかしそれ以上に、何も出来ず蚊帳の外にいる自分たちの無力さを嘆いていた。


「おおおおおおお!!」
「はああああああ!!」
エンディとカインは最大出力の力を解き放ち、体力は限界を突破しそうだったが、何とか気力で持ち堪えた。

ヴェルヴァルト大王は徐々に劣勢を強いられ、黒い球体は緩やかに消滅していった。

「よし!打ち消したぞ!」
エスタは歓喜の声を上げた。

激しい粉塵により、上空に浮遊するヴェルヴァルト大王の姿は見えなくなっていた。

しかし、エンディとカインは何やら嫌な胸騒ぎがしていた。

そして粉塵が晴れるのを待つ様に、怪訝な表情を浮かべながら上空を見上げていた。

2人の雰囲気に触発され、辺りは不気味な静寂に包まれた。

しばらくすると粉塵が徐々に晴れていき、再びヴェルヴァルト大王の姿が見え始めた。

その姿を見たエンディ達は、絶望した。


「終わりだ…。」
ロゼは膝からガクンと崩れ落ち、血の気の引いた表情でそう言った。

横並びになり立っていたノヴァとラベスタは、真っ青な表情で上空を見上げながら、絶句していた。

「フフフ…今日は…地球最期の日かもしれないねえ…。」
バレンティノは全身に冷や汗をかきながら、苦笑いをしてそう言った。


「冗談…だよな??」
「ははは…そうであって…欲しかったぜ。」
目を丸くしながら上空を見上げそう言ったエンディとカインの視線の先には、信じられない光景が広がっていた。

いや、信じたくないと言った方が正しいのかもしれない。

なんと、ヴェルヴァルト大王が地上に向けて翳す右手の掌には、先程の100倍程の大きさの闇の球体があったのだ。

「眠れ。くるしゅうないぞ。」
ヴェルヴァルト大王の邪悪な声色が地上に響き渡り木霊した。

巨大隕石と見紛うほどの闇の球体は、地上へと急降下していった。








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