輪廻の風 3-1



イヴァンカとの戦いから2年の歳月が経過した。

終戦後、エンディ達がバレラルク王国に帰国して直ぐ、盛大に戴冠式が執り行われ、ロゼは国王となった。

国王となったロゼが初めに行った公務は、生き残ったユドラ人達の選別だった。

滅亡したユドラ帝国の戦闘員や民間人は連合軍によって一斉に拘束された。

しかし彼らの多くが、イヴァンカに対する恐怖心で動いていた者がほとんどだった。

矯正の余地が有ると判断されたユドラ人は現在、バレラルク王国、またはバレラルク王国と軍事同盟を結んでいた国に国籍を移して生活をしている。

しかしユドラ人の思想が抜け切らず、反逆の意思や危険思想を有していると判断された者達は、各国の収容所や監獄にて現在は身柄を拘束されている。

連合軍から逃亡し、現在も行方をくらませているユドラ人も多数いる。

彼らは世界中に散り散りになり、中には徒党を組み物騒な動きをしている者達もいると世界各地で報告が挙がっている。

しかし、今のところは目立った活動をしている様子もなく、事件も起きていない。

元十戒の戦闘員は現在、皆バレラルク王国の王都ディルゼンでそれぞれ生活をしている。

マルジェラは皆の同意や推薦もあり、再び将帥の座に就いた。
イヴァンカに腕を斬られて隻腕となってしまったが、将帥の称号を名乗るには申し分ない戦闘能力を有していた。

エラルドは保育園で保父として働いていた。
幼い子供たちを護るという亡き戦友バスクの遺志を、無意識に受け継いでいるのだろう。

アベルはバレラルク兵団に入団し、組織ではナンバー3に位置する統括官の座を与えられていた。

アマレットはラーミアと共に王室で給仕として働いていたが、現在は産休のため長期休暇をとっている。

カインは無職。

そしてエンディはというと、個人農家になっていた。

終戦後、ロゼに40坪ほどの土地を買ってもらったエンディは、その土地を農地にして麦を育てていた。

生活は決して裕福とは言えないが、エンディはやりがいを感じながら楽しく働いていた。


今日もエンディは、泥だらけになりながら汗水流して労働をしていた。

すると、付近を巡回していたサイゾーとクマシスが声をかけてきた。

「お〜いエンディ、頑張ってるかあ?」
サイゾーが元気よくそう言うと、エンディはぴたりと手を止めた。

「あ!サイゾーさんにクマシスさん!お疲れ様です!」エンディは生き生きとした顔で挨拶をした。

「ご苦労さん、商売繁盛かい?」
クマシスが尋ねた。

「いやあ、まだまだ全然です。農業は競争が激しいですからね、俺みたいな個人農家が生き残るのは本当に厳しいですよ。」
一端の経営者のような口ぶりでそう言ったエンディを、サイゾーとクマシスはマジマジと見ていた。

「しかし…世界を救った男が今は農家だなんて…ギャップがすごいな。」
サイゾーが言った。

「はははっ、確かにそうですね。でもね…俺、毎日泥だらけになって働いてる今の自分が、結構好きなんですよ。世界中の人間が武器を捨てて、土を触って自然の恩恵に感謝をする…そしてほんの少しのご飯と綺麗な水と、心から分かり合える人達…これさえあれば、世の中から争いなんて無くなると思うんですよねえ…。」
エンディは空を見上げながら切実な想いを吐露した。

「悟りでも開いたんか?」クマシスが茶化す様に言った。

「エンディ、変わったなあ。今のお前、すごく良いよ。」サイゾーは感心していた。

エンディは2年前と比較して、心身ともに逞しなっていた。

記憶喪失になって後ろ向きで卑屈な少年だったあの頃のエンディは、もう微塵も面影が残っていなかった。

記憶を取り戻し、宿敵に勝利し、争いとは無縁のこの平和な2年間がエンディをそうさせたのだ。

「あ、そうだ。そういえばダルマインのやつ、最近やけに羽振りが良さそうなんだけど、何か知らないか?」
サイゾーが尋ねた。

「ああ、あいつは恐喝した金を軍資金にして海運会社を立ち上げて大成功したらしいですよ。金銀財宝身につけて毎晩飲み歩いてますね。」
エンディがサラッとそう答えると、サイゾーとクマシスは途端に苦り切った表情を浮かべた。

「ムカつくぜあの成金ブタ野郎!超法規的措置をとってぶっ殺しに行ってやる!!」

「よせクマシス、気持ちは分かるが。」

真っ赤な顔で銃の引き金を引き、ダルマインを探しに走り出そうとしたクマシスを、サイゾーは冷静に宥めていた。

すると、遠くからラーミアが血相を変えて大慌てで走ってきた。

「エンディー!」

ラーミアは息を切らせながら、エンディの前で立ち止まった。

「おおラーミア、どうしたんだよそんなに慌てて?」

ラーミアは慌てふためいていた。
エンディのすぐ横にいるサイゾーとクマシスの存在に気づけないほどに頭が真っ白になっていた。

「ラーミア、落ち着け。一体何があったんだ?」
何やら只事ではないと察したエンディが訝しげな顔で恐る恐るそう聞くと、ラーミアはゆっくりと口を開いた。

「産まれたの…アマレットが…アマレットの子供が産まれたの!!女の子だって!!」

ラーミアは嬉し涙を流しながら言った。

「えぇ〜〜!?!?」
聞いていた予定よりも少し早い出産に、エンディとサイゾーとクマシスは大声を張り上げて驚嘆していた。










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