輪廻の風 3-12



ジェイドと交戦中のノヴァとエラルドは、苦戦を強いられていた。

全身を鋼鉄に硬化したエラルドと黒豹化したノヴァを同時に相手にしても、ジェイドはピンピンしていた。

ラベスタは早々に地に伏しており、ノヴァはチラチラとラベスタの安否を確認しながら戦っていた。

「アヒャヒャヒャヒャ!血祭りだぜワッショイ!話にならねえなあてめえら!!」

ジェイドは、冥花軍(ノワールアルメ)の正装である漆黒のローブが多少埃被っている程度で、傷一つ付いていなかった。

ジェイドは花言葉にちなんだ能力を一切使用しておらず、あくまで個人の基本的な戦闘能力の範疇で、3人を相手に対等以上に渡り合っていたのだ。

「ノヴァ!こうなったら仕方ねえ…"あれ"を使うぞ!」エラルドが叫んだ。

「何だよ、"あれ"って?」

「決まってんだろ…隔世憑依だよ!てめえも会得済みなんだろ??2人で隔世憑依して、一気にこいつを叩くぞ!もうそれしかねぇ!!」
エラルドは功を焦っている様だった。

「そうだな…分かった。一時的にお前と手を組んでやるよ。まあ、残りの魔族どもは全員俺が片付けるけどな?」
ノヴァはニヤリと余裕のある笑みを浮かべながら言った。

ジェイドは、隔世憑依という単語にピクリと強い反応を示した。

「隔世憑依…だとぉ?おいおいまじかよ!そんなデータは無かったぜ!?この2年の間に、てめぇらも会得しやがったのか!」

「おい…データってのは何だ?俺たちのことも色々知ってるみたいだしよ、いつの間に情報収集なんてしたんだ?」ノヴァが尋ねた。

「教えるわけねえだろ。んなもんてめぇらで勝手に想像しろや。それよりもよぉ…隔世憑依を匂わす発言なんかされちゃあ…俺もボチボチ本気出さなきゃいけねえなぁ!?遊びはここまでだ…一気に殺るぜ??」
ジェイドは殺意を全面に剥き出しにしている様な表情で言った。

その姿は、まるで天生士(オンジュソルダ)の隔世憑依を警戒し、恐れているかの様だった。

すると、ジェイドの両眼が突如、ピカッと黒光りした。

ジェイドと視線の合っていたノヴァは、生命の危険を察知し、すぐさまジェイドの視線が向けられていない方向へと高速移動した。

それは英断だった。

ジェイドの視線が向けられていた場所に、広範囲に渡って黒い炎の様なものが放たれ、瞬時に焼け野原と化した。

ノヴァとエラルドはゾッとした。

「俺の司る花は"ジャーマンアイリス"!花言葉は"炎"だ!俺の視界に入った万物は、闇の力を配合した黒い炎で焼き尽くされる!!」
ジェイドが得意げにそう言い放つと、ノヴァは急いで気絶しているラベスタの元へと高速移動し、片手で抱えた。

そしてもう一方の腕で、次はエラルドを強引に抱えた。

「ノヴァ!てめえなにしやがる!?」
エラルドは、ノヴァの咄嗟の行動に対し、理解に苦しむ様な顔で言った。

「一旦退くぞ!」
ノヴァはジェイドの能力が危険と判断し、ひとまずその場を退いて態勢を整え直すべきだと判断したのだ。

ノヴァは2人を抱えたまま、凄まじい速度でその場を立ち去ろうとした。

「おいおい逃げてんじゃねえよ!つうか逃げられねぇよ!?遠くへ逃げようとすればする程に…破壊領域は広くなるんだからよぉ!!俺の視界に入ってる時点で、てめぇらもう詰んでるんだよ!」

ジェイドはノヴァ達に向けて、先ほどよりも強大な黒炎を放った。

これにより、王都には広大な焼け野原が出来てしまった。

ノヴァ達は跡形もなく灰と化してしまったのか、それとも間一髪のところで回避できたのか。
ジェイドにそれを確認する術は無かった。

一方その頃、モスキーノとルキフェル閣下の闘いの決着がついていた。

勝敗は、ルキフェル閣下の圧勝だった。

モスキーノは全身血塗れで白目を剥いた状態で横たわり、文字通り虫の息だった。

「先程…貴方を要警戒人物の1人に指定した私の判断は正しかったと言いましたが、撤回致します。どうやら私は、貴方を随分と買い被っていた様です。」

ルキフェル閣下のそんな言葉も、モスキーノの耳には入っていなかった。

「ヴァンパイアの皆さん、仕上げの時間ですよ。」

ルキフェル閣下がそう唱えると、空から総勢100体の黒褐色の肌をした集団が、コウモリの様な羽をパタパタとさせながら「キィーーッ!」と奇跡を発し、勢いよく王都に舞い降りてきた。

そして、剥き出しになっている2本の真っ白い牙で、バレラルクの兵士や市民の人体を見境なく噛み、血を吸い始めた。

「うわあぁぁ!!何だこいつら!?」
「やめてくれーー!!」
「痛え!!痛えよぉぉぉ!!」

複数の断末魔が木霊した。

ヴァンパイア達は、とても美味しそうに血を啜っていた。

「まさか、こんなにもあっさりと制圧出来てしまうとは…。いつの時代も、人間とは本当に愚かで醜く、弱い生き物ですね。」
ルキフェル閣下は悲しげな表情を浮かべながら、静かにそう呟いた。 

すると、突如上空から爆音が轟いた。

ルキフェル閣下は空を仰ぐと、一機のジェット機が此方に向かって低空飛行のまま猛スピードで着陸態勢に入っているのを確認した。

ジェット機はルキフェル閣下の前方30メートル先に、緊急着陸をした。

着陸と同時に、1人の男が機内から勢いよく飛び出してきて、瞬く間にルキフェル閣下の眼前へと立ち尽くした。


エンディだった。

「貴方は…エンディさんですね?」
ルキフェル閣下は不遜な笑みを浮かべていた。

エンディは怒りに満ち溢れた表情で、真っ直ぐルキフェル閣下を直視していた。







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