輪廻の風 3-18




「おっとぉ〜、てめえらは…エンディちゃんにカインちゃんじゃねぇかよぉ!!」
ジェイドは2人を見るや否や、異常にハイテンションになり、地上へと急降下した。

ジェイドとほぼ同時にルキフェル閣下も庭園内へと華麗に着地した。

「ジェイドさん、今私ごと王宮を消し去ろうとしましたね?」ルキフェル閣下はクスリと笑いながら冗談まじりに言った。

「ヒャヒャ、閣下〜ご冗談を!俺の放つ黒炎程度で、閣下が火傷するわけないじゃないですかあ〜!それよりも…要警戒人物のエンディちゃんとカインちゃんが目の前に!閣下〜、こいつらの首は俺が貰いますよぉ!」
ジェイドの顔つきは狂気じみていた。

「はっ、てめえら2人とも俺が軽く捻り潰してやるよ。」
カインは余裕のある表情でそう言い放ち、即座に臨戦態勢へと入った。

「カインちゃ〜ん、生意気な口聞いてくれるじゃねえかよ。据えちゃうぞ〜?お灸!」

カインとジェイドは互いに睨み合い、まさに一触即発の状態だった。

しかしエンディは何を思ったのか、そんな状況下で待ったをかけた。

「ちょっと待ったー!ストップ!」

「なんだよいきなり!?」
「あーーっ!?」
カインとジェイドは苛立った様子で言った。

緊張感高まる殺伐としたムードを、エンディの一言でぶち壊されてしまったからだ。


「ごめんごめん…ちょっと一旦落ち着いて話し合わないか!?」
エンディは懸命にその場を宥めようと試みた。

「おいエンディ!何言ってやがる?こいつらに話し合いなんか通じるわけねえだろ!?」
ロゼは呆れ返った口調でいった。


「いや…だってさ、納得できねえんだよ!どうして俺たちは戦わなくちゃいけないんだ!?おい魔族ども、お前らはどうして俺たち天生士を狙うんだ?いやそもそも、天生士って何なんだ!?魔族って何なんだ!?」
エンディの脳内はクエスションマークが飛び交い、こんがらがっていた。

そしてその疑問は、その場にいたカインもロゼも、バレンティノもエスタも薄々感じていた。

しかし、何の前触れもなくバレラルク王国を蹂躙しては残虐非道な行為を行う魔族に対し、そのような疑問など深く考える余地も無く、国や民衆を護る為にただ能動的に闘っていたに過ぎなかったのだ。

カインは、そう言われてみれば確かにそうだな、と言わんばかりの表情を浮かべていた。

「フフフ…こんな卑劣な徒輩共相手に、闘う理由なんて考える必要ないでしょ。先に襲撃してきたのはこいつらなんだから、俺たちはそれを迎え撃って、徹底的に殲滅する事だけ考えればいいよねえ。」バレンティノが言った。

それでもエンディは腑に落ちない様子で、何かを深く考え込んでいた。

そして、真っ直ぐな眼差しでルキフェル閣下を見つめた。

それは、魔族側としっかり向き合いたいという姿勢だった。
そして、話し合えば分かり合えるかもしれないという淡い期待まで抱いていた。

「なあ、あんたらどうして俺たちを殺したいんだ?500年前に天生士に封印された復讐か?仮に復讐を果たせたとして、その先に何を見ているんだ?」エンディは疑問を投げたけた。

すると、首に黒い花が刻まれた渋い男が、エンディとルキフェル閣下の間にしれっと乱入してきた。

男の名はメレディスク公爵。
ポナパルトを殺した魔族だ。

「そうか、やっぱお前たちは何も知らねえんだな。俺たちが前回上空から侵攻してきた事も、今回地底から侵攻して来た事も、誤算だっただろ?俺たちは闇の力で異空間を創り出すことができる。今回の侵攻では単純に、バレラルク王国の地底に異空間を創出し、そこから国土へと侵入したんだ。お前らはそれすら読むことが出来なかった。情報不足だぜ?それこそ致命的なくらいにな。」
メレディスク公爵は小馬鹿にする様な言い方をした。

「情報不足ねえ…それは仕方のない事だ、魔族に関する文献はもうこの世に存在してないんだからよ。まあ、意図的に処分されたって言った方が正しいか…イヴァンカの手によってな…!」カインは冷や汗をかきながら、意味深な事を言った。

カインの発言により、エンディたちの顔は一気に強張った。

「カイン、それは一体どういう意味なんだ?」ロゼは恐る恐る尋ねた。

すると、カインは重い口を開いた。

「ガキの頃、父親から聞いたことがある。大陸神話とは別で、500年前の天生士と魔族の闘いが記された歴史書が一冊だけ存在するってな。そこには天生士の成り立ち、魔族の隆盛、そして両者が世界を巻き込む巨大な闘いを始めた経緯とその結末が詳細に記されていたらしい。その世界最大の機密事項とも言える歴史書物は、代々レムソフィア家の当主へと継承されていったんだとよ。」
カインは淡々と言って退けた。

エンディ達は、興味深そうに話を聞いていた。

「6年前にイヴァンカがユドラ帝国の皇帝の座についたときに、その書物はイヴァンカの手によって処分されたんだ。俺は2年前、本人の口から確かにそう聞いたぜ?」
カインが言った。

「何で処分したんだ?」
ロゼは疑問を呈した。

「フフフ…あの男は本気で神になろうとしていたからねえ…ラーミアの能力で不老不死の肉体を手に入れて、世界の秘密を永久に独占してやろうとでも思っていたんじゃないの?」バレンティノは、イヴァンカの性格を鑑みた上で考察をした。

「そうか…じゃあ全てを知るにはイヴァンカを復活させて、本人に直接問いただすしかないってことか…。」
エンディはボソリと言った。

エンディは自身の発したこの発言に、特段深い意味を込めてはいなかったが、その発言はカインとロゼの逆鱗に触れてしまった。

「おい、お前何言ってやがる?」
「あの野郎を復活させるだと?エンディ…お前よ、自分が何言ってるか分かってんのか?」
カインとロゼは、ここぞとばかりにエンディを捲し立てるように言った。

「いやいや、例えばの話だよ!本気であいつを復活させようなんて考えてるわけないだろ!?」エンディはあたふたしながら弁明をした。

「どーーーでもよくね?500年前の話とか、闘う理由とか…怨恨とか復讐とか下らねえ!俺はてめえら天生士が昔っから気に食わねえからよぉ!ぶっ殺すだけだ!殺し合い理由なんてそれで充分だろ!?」
ジェイドは狂気じみた笑みを浮かべながら大声で言った。

どうやら魔族の者達は、話し合いや道理が一切通じないようだ。

エンディはそう悟り、僅かに希望を抱いていた和解の道を諦めた。

「さあ…参りますよ。どうか、御覚悟を。」
ルキフェル閣下は剣を抜いた。

ルキフェル閣下の身体の周囲には、まるで殺意の波動が意志を持ち纏わり付いている様に見えた。

エンディ達は腹を括り、命がけの戦いを決意した。

一方その頃トロールは、一人で王宮内を肩で風を切りながら闊歩していた。

トロールの両腕は返り血で真っ赤に染まっていた。
迎撃に来た王室近衛騎士団員を数人返り討ちにし、殺害したのだ。

イル・ピケは、一人で王宮内を練り歩くトロールを不審に思い、こっそりと後をつけてボソッと声をかけた。

「トロール…貴方…何をしているの…?」

トロールはぎくりとした。

「なんだよイル・ピケかよ!驚かすんじゃねえよ!」

「何をしているのかと…聞いているんだけど…?外で閣下達が…エンディと…カインと…交戦してるわよ…?貴方…加勢しなくて…いいの…?」

「はっ!エンディとカインがどうしたって?外にゃ閣下とジェイド、メレディスクも居るんだろ?あんなガキ共秒殺だろ!俺がわざわざ出向くまでもねえよ!」
トロールは鼻で笑いながら言った。

「それも…そうね…。あと…いい加減…私の質問に…答えてくれる…?もう一度だけ聞くわよ…貴方…こんな所で…一人で…何をしているの…?」
自身の質問を何度もはぐらかされたイル・ピケは、気分がモヤモヤとしていた。

するとトロールは、悍ましい笑顔を浮かべながら、ようやく質問に答えた。

「ああ…実は俺よ、イヴァンカってのと一遍やり合ってみてえんだよ…!確か封印されてんだろ?この王宮のどこかによ…!?」

イヴァンカと闘いたくてウズウズしているトロールを、イル・ピケは呆れ返った表情で見つめていた。














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