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『台湾の本音』 美食の裏にある政治的事情

台湾との出会い:居酒屋でのバイト

私は学生の時に中華系居酒屋でバイトをしていた。そこのシェフが作る料理は絶品で、蒸し鶏は口の中でとろけるような柔らかさだし、チャーハンは旨味と香りが口の中で爆発するような衝撃の味で、料理とはかくも奥深いものか、と料理に興味を持つきっかけとなった。シェフは職人気質の無愛想な方だったが、まかないの料理を「旨いっす~(涙)」とかきこむ私を見ては、「そりゃ、旨いさ」とぼそっと呟くようないかにもプロの料理人という雰囲気を醸していた。その方は台湾で料理修行を数年して、日本に戻ってきたとのこと。大学生の私は台湾についての知識は当時あまりなく、その居酒屋の原体験から「台湾=美食の国=いつか行ってみたい国」という等式が形作られた。

日本が学ぶべき国、台湾

料理を除いたとしても台湾は魅力的な国だ。日本と同様に資源の制約の多い島国であるにも関わらず、世界の半導体産業を牽引するという経済的な大成功を収めつつ、コロナウィルス対策ではITを活用した革新的な取り組みで卓越した成果を収めたことも記憶に新しい。が、私の台湾に対する知識はその興味に反して非常に浅いものだった。「中国との兼ね合いで日本やアメリカと国交を結んでいなく、国連にも加入していない」という知識はおぼろげながらあったが、その歴史的背景などは勉強不足で把握をしていなかった。そこで『台湾の本音~“隣国”を基礎から理解する~』を手にとってみた。

『台湾の本音~“隣国”を基礎から理解する~』

筆者は野嶋剛氏。朝日新聞の台北支局長を務め、2016年よりフリーとなって、わかりやすくも造詣が深い台湾・中国論を発信している台湾に専門性の高いジャーナリスト。私のような台湾について勉強不足の人も、特に事前知識なく基本的な内容を抑えることができるようわかりやすい解説がなされ、台湾とその歴史、そして現状と未来への展望が明快に描かれている。台湾の入門書としては解説の面で優れているだけでなく、さらに深く勉強をしたいと思わせるような内容となっている。

台湾の首都はどこか?

さて、ここで私から皆さんにまたまた質問をしたいと思います。
「台湾の首都はどこですか?」
・・・はい。答えは出たでしょうか。正解は「ない」でした。
「え?台北じゃないの?」と言われる方も多いでしょう。残念ながら不正解です。

台湾の本音~“隣国”を基礎から理解する~

この質問は、台湾の政治の理解をはかる上で絶好のものだ。
私は筆者の期待を裏切らず「台湾の首都は台北」だとすっかり思い込んでいた。本書を通して、私は下記のことを学んだ。

  • 「中国と台湾は一体である」というのは中国側のみの政治的スタンスではなく、台湾も原則的には「自分たちは中華民国であり、自分たちが中国大陸を統治すべき」というスタンスをとっている。

  • とは言いながらも、現在の台湾の世論の大多数は、中国との統一を望んでおらず、その代わりに、台湾を事実上独立した主権国家として位置づける方向に流れている。

  • が、現実路線として「台湾独立」や「中国との統一」という明確な選択肢を避け、中国との間の微妙な距離を今後も保ち続けるというリアリズムに徹する意向が主流である。

  • 台湾理解には、複雑な政治的背景と、中国の立ち位置も含めたリアリズムをもってみることが大事であり、「台湾の首都はどこか?」という問いに答えるにも基本的な政治理解が求められる。

まとめ

台湾を学び初めて気づくのは、料理の旨さや半導体企業の強さにしても、そこに必然的な歴史的背景があるということだ。台湾の魅力をどの部分から紐解いても、その歴史的な複雑性にゆきつくというのは、歴史を学ぶことの魅力を表している。台湾有事は決して他人事ではないという論調も日本では高まっている。不思議な魅力的な国「台湾」についての理解をもう少し深めたいという方に、『台湾の本音~“隣国”を基礎から理解する~』を強くおすすめしたい。


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