アメリカ生活のリアル:役所の手続きは戦いなのだ
いわゆる「お役所仕事」のことを英語では「Red Tape」という。そういう言葉があるくらいだから、当然役所の手続きというのはアメリカでもご多分にもれず手強い。アメリカに移り住むにあたって、様々なお役所のお役人と格闘してきたが、「最強の相手は誰だったか?」と聞かれたら、迷わず税務署(IRS)と答える。アメリカで生活して10年以上たち、色々「お祭りわっしょい」の状況になったことはあるが、その中でも一番フィーバーした経験を共有したい。
「一回しか言わないからよく聞けよ」
アメリカのお役所の待合室というのは人種の坩堝だ。白人、黒人、ヒスパニック系、アジア系と本当に色々な人がいる。アメリカの全人口3億人に対して、外国人人口が4千万人ほどいるというのだから、それもうなずける。言語の壁がある人が少なくないのだから、お役所で何か案内する時にゆっくり、はっきり話してくれると有り難いのだが、残念ながらそんな容赦はない。その代わり、係の人がきて注意事項などを待合室で連絡する際は、必ずお決まりの文句から始まる。
政府の方針でもでているんじゃないかってくらい、どのお役所でも案内の出だしはこれだ。
おいおい、何様のつもりだよ国民の血税で雇われているくせに、なんて難しいことは英語で言えないので、聞き逃さないようにただただ一生懸命聞くしかない。お前ら覚えてろよ、と心の中でつぶやくくらいの、ごくごくささやかな抵抗しかできないのが何とも口惜しい。
「午前中の業務終わったってよ」
詳細は割愛するが、二人の子どもの納税者番号(ITIN)というものを取得しなければならなくなった。いくつかの方法があったが、本人たちを税務署に連れて行って手続きするというのが一番よさそうだったのでそうすることに。もちろん平日しかやっていないので、子どもは学校を午前中お休み。少し出遅れてしまい、11時頃に税務署に到着。受付のカウンターで納税者番号をとりたい旨を伝えると、
という感じで、とにかく午後にまた来いの一点張り。とりつくしまなし。
「えぇ、子どもは午前中だけ学校を休ませる予定だったのにぃ」、と思っても打つ手なし。仕方ないので、「今日は学校にいかなくていい!」と喜ぶ子どもを連れて、早めの昼食をとり午後に備えることにした。
「今週は一人休暇で、一人研修」
午後の業務は13時開始なので、少し早めの12時45分くらいに税務署にいくと、そこには既に7-8名の列が。きっかり13時に受付が開始し、ようやく整理券を取得。そこから待つこと30分ほど、子どもも流石に飽きてきて手がかかり始めた頃に、係の人がやってきて、いつもの枕詞で案内を開始する。
おい、態度がでかい上に聞き捨てならないことを最後に聞くじゃないか。嫌な予感を抱えつつ、14-15名が待つ待合室で私だけが恐る恐ると手をあげる。そして、こういう時の悪い予感というのは大体あたるものだ。私は大勢の前で係の人間と下記のやりとりをすることになる(英語は割愛)。
一切悪びれることなく待合室の人数を減らすのが私の仕事だと言わんばかり。。。小さい子どもを二人連れて途方にくれる私に対して周囲の方の哀れみの視線がつきささる。
怒りと徒労感で立ちすくむ私に待っている方たちの一人が「場所と電話番号わかる?もしわからなければこれをもっていきなさい」と別の市の税務署の住所がのっている紙を渡してくれた。見ず知らずの人に対する優しさで溢れているのがアメリカの良いところ、心が少しだけ癒される。その人に「ありがとう」と言って仕方ないので急いでダーラムという別の市にある税務署に行くことに。
やっぱり「今週は一人休暇、一人研修」
車を走らせること40分ほどのところにある別の税務署に14時30分くらいにようやく到着。調べたところ16時30分までやっているということなので、何とか間に合うかと一縷ののぞみをかけて受付に行っていざ手続き開始。
がーん。秒殺。おいおい、16時30分までのオフィスアワーで14時30分で受付もしてくれないってありえないでしょう。
むむむ、許せねぇ、この怒りをどうしてくれようか。アメリカは縦割り社会なので仕方ないのだが、大体この一切悪びれずに言う態度も気に入らいないし、2日連続で子どもを休ませるのも困る。
おいおい、お役所の手続きがいつからギャンブルになったんだ。ダメだこいつでは話にならない。と、怒り心頭のところに、受付のおにいちゃんではなく、背広をばりっと来た署長風の女性が通りかかったので、受付を無視して、その人にチャレンジをすることに。
おそるべきこの一貫性。しつこいアジア人よ、わかったか!、という受付のお兄ちゃんのあきれ気味の視線がつきささる。今日はもうダメだ、、、とにかく明日につなげようと。
わからんやつだ、、、と肩をすくめる二人。子どももさすがにただならぬ雰囲気を察し、「つまらない」、「帰りたい」などの文句も言わない。
私がいよいよあきらめて帰ろうとする時に、税務署の入り口から一人の女性が入ってきた。きっと彼女も何かの手続きがあるのだろう。どうせ無理なのに可哀想に、、、と思いながら、耳にはいったやりとりが、
えっ!?そんな軽くあきらめるの??何というおおらかさ。おまけにお礼まで言っている。食い下がる私の方が間違っているのかと錯覚するくらいのあっさり風味、、、。こういうお役所の対応に皆さん慣れているんですね、、、。と2連敗をきっしたショックをかかえ帰路につくことに。
3度目の正直なるか!?
朝8時30分受付開始ということなので、気合をいれて30分前に。秋にさしかかる頃で朝はなかなか冷える。本日も子どもを二人連れてやってきました、ダーラムの税務署に。私より気合のはいった人が一人いて、あえなく二番手になるも、さすがに二番目ともなれば、16時30分までには処理してくれるだろうと「淡い期待」を抱く。はい、前日の二連敗がきいて、覚えた期待感は大変「淡い」ものでした。
待つこと30分。合計7-8名の人が早朝の税務署に列をなす。時間通りに扉があいていざ受付へ。昨日のおにいちゃんが、「お、来たな」という感じで淡々と整理券を渡す。並んでいた全員が整理券をもらい、待合室で神妙な面持ちで鎮座する(神妙な面持ちは私だけだったかもしれないが、、、)。
そして、中に入って5分くらいたった頃に、昨日の署長風の女性が待合室にやってくる。待合室を見回し、朝の一番初めの案内を開始する。
一体今回何度聞いたであろうか、というお決まりの科白を聞いた後に、思わず緊張のあまり唾をごくりの飲み込む私。そして、署長風の女性が続けた衝撃の一言は、、、。
年のせいか最近穏やかになった私。腹がたつことはしばしばあるが、キレるなんてことはここ数年数えるくらいしかない。が、その女性の言葉を聞いた瞬間、はい、珍しくぷっちーんとキレました。
座っていた椅子が後ろに倒れそうになるくらいの勢いで、怒りで、がっ!と激しく立ち上がり、怒りで肩を震わせながら詰め寄ろうと前に進もうとする私。怒りで体が勝手に動くなんて本当に何年振りだろう。
烈火の如く怒れるアジア人に対し、落ち着き払い声をかける署長風の女性。
無言でうなずく私。
と言い放ち指で、まぁ落ち着いて座れと指示をする。所在なげに座る私。
幸いなことに、他に不幸な方はいらっしゃらなかった模様。しかし、どんだけ大変なんだよ、納税者番号、、、。
なお、私が、子ども二人分の納税者番号の処理が必要ということで、並んでいた3番手以降は「その整理券もって午後に来い、納税者番号を2つとるやつがいるからな」、と言い放たれる。。。「何だよ私が悪いのかよ?」という感じではあったが、何とか手続きをしてもらえることに。
プッシュ、プッシュ、そしてプッシュ
色々な手続きをしてきたが、納税者番号はとにかく手強かった。今書いていてもあの時の興奮と涙がよみがえる(泣かなかったけど)。
それにしても、前日税務署に行った際に、わあわあ騒がず、泣き寝入りしてすごすごと引き下がっていたら、一体どうなったのだろうかと考えずにはいられない。多分、もしそうしていたら、次の日も「2人分の納税者番号なんて無理だね」って一蹴されて終わりだったのではないだろうか、、、。そう考えると、「ただでは引き下がらない」、「プッシュして、プッシュしてプッシュしまくる」というのが、アメリカで生き抜くうえでは本当に大事なのだと思う。
大事な点なので繰り返すが、やはりアメリカはプッシュプッシュしまくって、自己主張しないと物事が進まない社会なのだ。正直、時として疲れるが、でなければこの社会では生き残れないのだ。在米日本人に幸あれ!
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