ゲームにしかできない音楽表現を模索する

 世界の広がりをイメージさせる情感豊かな音色、戦闘を盛り上げる賑やかなリズムなど...音楽は主役となるゲームの雰囲気を補強し、基本的には背景として存在感を発揮する。多くの場合、ゲーム開発がある程度進んでから音が追加されていく。
 昨今ではプログラムと連携して動的に変化する音楽、いわゆるインタラクティブミュージックも多用される。プレイヤーの行動に応じて1つの音楽にいろいろなアレンジが加わったり、滑らかに複数の音声ファイルを繋いで1つの曲のように聴かせる技術もある。ゲーム音楽は必ずしも一様に再生されない。

 僕は個人でゲームを開発・販売していて、音素材も自力で用意する必要がある。一般的に個人開発者はBGMを外注するか、素材集などから引っ張ってくるケースが多い。プログラムもグラフィックもサウンドも全て一人でこなすのは並大抵ではないからだ。
 一応いくらか作曲を学んではいるが、僕の音楽は商業で使えるレベルではない。しかし自分のゲームに最適化された音は自分にしか作れないとも思っていた。技術的な限界は承知の上で、むしろ制約を生かした個性的な音楽を生み出せないか...そうして至った結論が「なるべく作曲しない」ことだった。

プレイヤーにぴったり寄り添う音

 プシュプは対戦型の落ちものパズルゲームだ。プレイヤーが消したブロックの量や連鎖などに応じて、あらかじめ用意した断片的なドラムフレーズを並べていき、動的にBGMを生成する処理を作った。打楽器だけならコード進行などの複雑な音楽理論と向き合わずに済むし、自分の得意なプログラミングを生かせる算段もあった。
 細かく音を切り替えられるのでプレイヤーのリズムに合わせた制御が利き、自在に抑揚が付けられる。音楽的には強引な進行になる時もあるが、曲の展開を計算することはあえてしなかった。作曲へのこだわりが薄いからこそ、逆に徹底して音楽をゲームに追従させる方向性を見出だしたのである。

 効果音にもメロディーのように音程を付けたり、ゲームを構成するSEとドラム音をまとめて1つの音楽のように認識していた。あらかじめ用意した楽曲を提示するのではなく、プレイヤーの行動全てが自然と音楽を形作ったら面白いだろうと。
 まだまだ荒っぽい作りだったのでいまいち音楽とは呼びづらい代物になったが、少なくともプレイヤーを鼓舞する楽しい音は作れたと思う。上手くなればなるほどサウンドがより派手になる仕組みで、プレイヤーの成長に寄り添って努力を促す効果も生まれた。

音楽と効果音の境目を無くす

 僕はもともと最小化された創作を好んでいて、BGMやSEについてもできるだけコンパクトにまとめたいと考えていた。効果音を全て楽器の音で構成し、そのまま音楽のように聴かせたらBGMは要らないかもしれない...むしろ、音が少なくなるぶん個々の音が際立つ。そんな発想が次に開発したゲームに個性を与えた。

 感染バクハツは指でなぞるだけのシンプルな誘爆ゲームだ。スワイプで色を付けていく音をピアノで、花火のように破裂する音を打楽器で表現している。抽象的でシンプルなグラフィックを用いていたため、絵的なモチーフに囚われず自由に音をつけることができた。
 ピアノ音は一定のスケール(ドレミファソラシ、といった音の並び)からランダムに音を鳴らしている。爆発が起きているときはスケールが変わり、雰囲気が変化するなどの工夫も。適当に触っているだけで様々なメロディを作り出せる。

 基本的には効果音として楽器の音色を使いつつ、偶然の連なりで断片的に音楽のように聴こえてくる仕組みだ。ランダム性の高いゲームシステムと連動し、何度も繰り返し楽しめる独特の音を生み出した。
 ゲームとは、画面の中に触って手応えを楽しむオモチャでもある。そこに音遊びを組み込むことで、楽器のように自分で音を奏でる魅力が足し算された。音楽をゲームの背景にするのではなく、核となるゲーム性と融合させ前面に押し出す試みとも言える。

ゲーム主導で音楽をデザインする

 音楽は基本的には固定的な表現だ。作曲者の意図する一連の流れがあり、ここでこう盛り上げてこういう感情になってほしい...という計算がしばしば含まれる。聴き手はそれに従うことで受動的にその価値を享受する。
 能動的に見えるインタラクティブミュージックにもその系譜が見て取れる。例えばシーンの変化に合わせて滑らかに音楽が切り替わっていく仕組みは、変化するタイミングこそプレイヤーに左右されるが、どのような順番で音を鳴らすかについては作り手の意図が明確なものが多い。
 コード進行などから分かるように、音楽とはある意味で「心地よく響く順番を決める技術」だと言える。そこをプレイヤーに書き換えさせるゲームはあまり見たことがない。音楽性を大事にすれば自然とそうなるのだろう。

 僕はプログラマーかつゲームデザイナーの視点で考えてきたため、プレイヤーに合わせた能動的で変化の細かい音を自然と志向することになった。開発側が意図する音楽の形をなるべく固定せず、プレイヤー自ら無意識に作曲するようなゲームが生み出せないものかと。
 まだまだ音楽そのものへの理解が浅いため、僕が研究しているゲームサウンドは音楽性を犠牲にしている部分がある。作曲や音楽理論などをかじって、少しずつゲームとの妥協点を見出だせればと思う。それをプログラムと深く一体化させ、ゲームでしか体験できない「変化し続ける音楽」を追求していきたい。

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