見出し画像

初心者には明確な答えを、上級者には多彩な選択肢を

僕は普段ツイッターでゲームデザインについてあれこれ語っているのだけど、随分前にとあるツイートが一気に拡散されて話題になったことがあった。今でも時折いいねをもらったりするので印象に残っている。

こうして自分の考えを整理するのはいつもの習慣みたいなもので、特にこれらのツイートが僕にとって特別という訳ではなかった。それ故に唐突なバズりに驚いたし、実を言うとこの発言がなぜそんなに共感を呼んだのか分かっていないところがある。
 多くの人が一斉に反応するような情報には、何か人間の鋭い本能に訴える価値があるものだと僕は思う。ゲーム以外の学習や指導にも当てはまる部分が多いようだ。ツイートを改めて掘り下げることで、何か得られる知見があるかもしれないと考えた。
 そこで、様々なゲームを例に出して上記の理屈に照らし合わせ、プレイヤーの学習や攻略のあり方を具体的に分析してみたい。初心者と上級者、双方と上手に付き合うにはどのようなゲームデザインが望ましいのだろうか?

トレーディングカードゲーム

事前に構築したデッキからカードを引きつつ、手札からカードを場に出して戦う、といったルールがトレーディングカードゲームでは一般的だ。トランプのような昔ながらのカードゲームと違い、デッキ構築の高い自由度が魅力と言える。
 この手のカードゲームの強みは、手札の数が限られていて思考を単純化しやすい点だ。ゲームの複雑度にもよるが、数枚のカードからどれを出せば最適かは初心者でもだいたい分かるもの。程よい数の選択肢が提示されることで、プレイヤーは「自分で答えを導き出した」と感じやすい。

上級者はデッキ全体を先読みした手を打つかもしれないが、少なくとも初心者は目の前の情報だけ注視すればいい。大抵は初心者用のデッキも事前に用意されている。
 「カードを集めてデッキを組む」という大きく複雑な遊びと、「数枚の手札から最適なカードを選ぶ」という小さく単純な遊びが組み合わさることで、幅広いプレイヤーに対応している。

探索型アクションゲーム

メトロイドなどに代表される、枝分かれした広大なマップを探索するゲームにはしばしば一定の流れがある。最初は主人公の持つ能力は最小限で、進める道も制限されているが、徐々に新しい能力や武器を獲得することで行動範囲が広がっていく...といった具合だ。
 スタート時は使えるアクションが限られているので初心者でも操作が容易で、かつ道に迷いにくい。そこから段階的に機能を解放していくことで、じっくり操作に慣れさせつつ探索の自由度を上げていく。

継続的に探索へのご褒美が与えられ、徐々に自分がパワーアップしていく充足感が探索型ゲームの魅力。その上で、ごく自然に初心者が上級者へと成長していく流れが設計されている訳だ。
 非常に合理的なゲームデザインではあるが、初期装備では絶対壊せない壁が露骨に設置されていたり、自由に見えて意外と不自由なところがある。ゲーム側に進行を管理されることを楽しめるかどうかで評価が変わるかもしれない。

公平な対戦ゲーム

少し視点を変え、初心者を取り込みにくいゲームデザインについても考えてみたい。昔の格闘ゲームや将棋など、お互いにほぼ互角の条件で戦う実力重視の対戦ゲームだ。
 この手のゲームはしばしば上級者のための奥深く公平な駆け引きを大事にする。取り得る選択肢が最初から非常に多いし、どれが強い行動なのか絞れないようなるべく丁寧にバランス調整されている。
 このため初心者は何をしていいか分からず困惑しがち。競技として公平かつ多彩であるほど、必然的に初心者が置いてきぼりにされてしまう傾向がある。

昔ながらの対戦ゲームは現代ではなかなか売れにくい。近年は運要素を強く含むバトルロイヤルなど、あえて公平さにこだわらない対戦ゲームの方が主流になっている印象だ。
 1つの解決法として、スプラトゥーンのように「初心者はまず塗っておけばいい」と分かりやすい目的を提示するのは効果的だろう。奥深い対戦の駆け引きはさておき、とりあえず熱中できる単純な目標があった方がいい。

ブレスオブザワイルド

ゼルダシリーズは伝統的に、ダンジョン攻略などを通して装備が段階的に充実していくのが基本だった。徐々に出来るアクション・行ける場所が増えていくのが魅力ではあるが、何かパターン化され過ぎていてシリーズ経験者には窮屈に感じる部分もあったように思う。
 そういった停滞を打ち破ったのが最新作のブレスオブザワイルドだった。序盤から必要な装備がほとんど手に入り、広大なマップを自由な順序で攻略できる。ゲーム側に一定の流れを強いられる場面が大幅に減った。

その上で、初心者向けの誘導が比較的はっきりした作品でもある。例えばマップ上に散在する祠やタワーは攻略上重要なランドマークだが、独特の光を放っていて遠くからでも非常に目立つ。絶えず緩やかに次の目的地をプレイヤーに提示している。
 祠の謎解きも全体的に1つの答えを示唆しているものが多く、かつそれを無視して強引な手順でクリアできることも。幅広い層にゼルダを遊んでもらうため模索を続けてきた任天堂の工夫が詰まっている。

ターゲットを絞らないゲーム開発

映画や小説といった他の娯楽と違い、ゲームは難易度調整を間違えるとプレイヤーが完全に行き詰まってしまう恐れがある。誰でも遊べるようひたすら平易に設計する開発者もいれば、そもそもゲームが苦手な客層を意識できない開発者もいる。
 序盤はゲームに詳しくないプレイヤーでもクリアできるステージを作り、後半に向けて徐々に難易度を上げていくのも1つのやり方ではある。しかし初心者用の簡単すぎる課題に、ゲーム慣れした上級者が付き合わされるのは合理的なゲームデザインと言えるだろうか。

難易度の高低ではなく、プレイヤーから見える「選択肢の数」でゲームを捉えると、特定のターゲットに縛られないゲームデザインに一歩近づく。様々なスキルのプレイヤーを受け入れる重層的な遊びを設計したい。


※本文は以上となりますが、有料部分にちょっとしたオマケを付けています。もし今回の内容が面白いと感じたら、応援としてお支払いをいただけると嬉しいです。
 今回のオマケでは、ゼルダシリーズの停滞とブレスオブザワイルドが示した解決策について、もう少し掘り下げています。

ここから先は

821字

¥ 250

記事の価値を金額で評価していただけたら、と考えています。有料記事は価格を少し低めに設定してありますので、もし気に入った記事があればサポートをお願いします!