#1短編 群青

私は春が嫌いだ。なぜなら出会いと別れの季節だし、身も凍えるほど寒い冬から夏になる直前の季節だからだ。もうこの国に生まれて、何年が経つだろうか。軽く四半世紀は超えている。まぁ。26年も生きれば、この世の中のこともだいたい理解してくるだろう。しかしながら、私は常に疑問を抱いているのだ。この日本という国には、もはや四季などないと。春と秋はどこにいったんだ。溶けそうなほど暑い夏が始まったと思ったら、すぐに寒い冬に切り替わる。もはや境目がわからないのだ。最近の日本はおかしい。

春が嫌いならば、四つある季節のうちで何が好きなのか、気になるだろう、私は、秋が好きだ。夏は雰囲気が好きだ。冬は気候が好きだ。春はなぜか、陽気なんだが、暗くもまぶしくも感じる。まるで光と闇のようだ。

二年前の夏、私の母である由紀子が死んだ。死因は心筋梗塞、まぁ、もう50代半ばだったし、しょうがない感じもあるが、非常に泣いた。やはり自分の母親が亡くなることは想定していた以上に悲しいものである。父親は普段泣くことなんかないのだが、その時だけ泣いていた。それは当たり前である。人生の最愛のパートナーが亡くなったことに悲しみを隠しきることはできなかったようであった。

夏といえば、私が大学2年生のとき、よく通っていた喫茶店「もるびぶ」が東京の三軒茶屋というところにある。そこにはいつもBOSEのスピーカーからヨルシカの曲が流れていた。それで私はヨルシカの曲が好きになった。ヨルシカの曲というものは、非常に夏にあっている。と思う。情景が思い浮かぶというか。基本的にストーリーが構成されているので、想像も容易である。その影響もあるかもしれない。

私は大学を卒業後、東京の中小メーカーの営業職に就職した。私には、結婚願望とかないので、大企業は狙っていなかった。そもそも私が入社することなどできないだろうから、視野にすら入れていなかったのである。今年で入社4年目になるが、仕事はまだ慣れない。というか、慣れてしまったら、気が抜けるような気がして、無理だ。

夏は雰囲気が好きなだけで、気候は嫌いだ。本当に。大学時代の友人の優作が、今日私の家に遊びに来ていた。なんの変哲もない、ただの休日。別にそんな接点もないのに、急に遊びに来やがった。私は、普段から部屋の掃除とかもしないので、マンションの一室は生活感丸出しである。

まぁ、変に綺麗より、いいか。と半ばあきらめたことは内緒である。優作とは、大学時代の弁論部の仲間であり、ゼミの同期である。とても仲良く…とまではいかないけど、まぁまぁ、付き合った気がする。うん。

優作とたわいもない話をしていると、彼女の話になった。「出たよ、俺には関係ない話。やめだ、やめだ。こんな意味のない中身のない話をしても無駄だ。」私はそう心のなかで唱えていたが、優作が語り始めた。実は、こいつ、結婚を前提に付き合っている女性がいるらしい。「やるじゃんか。俺は誰もいないよ!」と優作に言ってやった。

大変恥ずかしい話であるが、私には彼女がいたことすらないのだ。この先の人生でちゃんとできるかどうかすらも怪しい。本当に生きていけるのかな。ときどき心配になることもある。でも、生きていかないといけない。やだ。やだ。孤独だ。

その日、優作と別れた日の夜に、大学のゼミ担当だった教授から電話がかかってきた。9月21日。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?