Phil Birch教授から学ぶ。VALORANTにおける効果的なトレーニング方法考察(序章)

はじめに

こんばんは。
今、AfreecaTVで試合を見ながら書いてます。Sentinels強いですね。VCでのコミュニケーションや雰囲気もとてもよさそうです。

さて、この記事から見てくださる方もいらっしゃるかと思いますので簡単に自己紹介を。
現在(2023/12/9)、Xenesis e-sportsというチームでコーチを担っております。KTAです。KTA(けーてぃーえー)(@kta_vlrnt)さん / X (twitter.com)
e-sportsにおけるコーチの役割はまだまだ発展途中と思っており、様々なことを我武者羅に勉強しながら選手たちと日々奮闘しております。

本日は、自分が知りたかった情報をひたすらに集めたはいいものの、それらを包括的に取りまとめた教科書が欲しかったので、noteにまとめていこうと思います。

自分用なところもあるのでもしかしたら難しい言葉をそのまま使っているかと思いますし、自分自身もあまり分かっておらず、意訳している部分がありますので何卒ご容赦願います。

この度はDr Phil Birch - University of Chichesterから、多く引用・参考としております。是非原文もご一読ください。

本文の構成

  • 多くのアマチュアチームが抱えがちな問題(「グラインドカルチャー」「燃え尽き症候群」)

  • なぜグラインドカルチャーになるのか?e-sportsの世界における「トレーニング方法の構造的問題」

  • 結果(≒ランク)主義

  • 効果的なトレーニングとは何か?認知負荷理論に基づいて考察

  • プロも経験する、トレーニング中のストレス・試合中のストレス。そしてそのマネジメント方法

  • 「伸びるプレイヤー」「成長するプレイヤー」とは

この記事では、以上の事柄に関して皆様と共有出来たらなと思います。直観に反することは少ないと思いますので、改めて言語化した感じになっているかなと。
それでは早速、チェケラ。

文字を打ち込むモチベがなくなったので途中ですが投下しておきます。

多くのアマチュアチームが抱えがちな問題(「グラインドカルチャー」「燃え尽き症候群」)

グラインドカルチャーとは?

初めて聞いた方も多いかと思います。調べれば分かることですのでここではざっくりと。
グラインドカルチャーはハッスルカルチャーとも呼ばれ、趣味や睡眠時間などを削って仕事に没頭すること、それが美徳だとされる文化です。
代表的な人はイーロン・マスクでしょうか?

反対に、昨今ではQuiet Quittingという文化も生まれており、仕事よりも人生を豊かにする、自分らしく生きるということが重視されたワークライフバランスを求める価値観も広まってきています。(もちろん何がその人にとって人生を豊かにするかは人それぞれですので、あくまで天職に就けていない人が仕事以外を重要視する文化だと考えられます)

この僕も、現在では仕事はほどほどに、どちらかというとコーチングに情熱を捧げようとしているのでワークライフバランスを重視した生活と言えるでしょう。

話を戻して、グラインドカルチャーの側面がe-sportsの世界にはあるようです。
一日に何試合もソロキューを回し、食事や睡眠など生活に必要な時間以外はプレイに捧げる人が多いのは、プロプレイヤーの配信などを見ていても明らかです。
そしてそのプロを見て、憧れる人たちは同じ考え方を持つようになり、競技シーンでの成功を目指す人たちの間ではグラインドカルチャーが成立します。

なぜプレイしまくるのか?

少し持論となりますが、そもそもe-sportsも「ゲーム」です。ハマった人のプレイ時間が多くなるのは当然でしょう。またハマった人の技術が上昇していくのも当然だと考えられます。
(もちろんハマった人も「何が楽しいか」「成長効率の高いアプローチをとっているか」で上昇度合いやベクトルは異なると思います。)
これはゲームに限らず、音楽・美術・スポーツ・学問などどのようなジャンルに対しても言える事でしょう。ハマったんだからずっとやってますよねそりゃ。

しかし、現在ではe-sportsのトップチームの中でも上記のような文化・風習を無くし、よりアスリートに近いトレーニング手段を模索していく傾向にあるようで、未だに根強く残るのはアマチュア間であるようです。

燃え尽き症候群

そして、グラインドカルチャーが招く問題の一つが「バーンアウト(燃え尽き)」です。
ここも詳細は省きますが、燃え尽きが起きる要因としては、達成感の低下や疲労の蓄積です。精神的・肉体的な苦痛を断続的に伴う練習はいつかはその限界を迎えてしまいます。

過度なプレイは幸福度を下げ、燃え尽きを引き起こす。つまりせっかく練習したこともキャリアを終えることで無に帰してしまうということです。結果が出た・出ないに関わらずです。

しかし、例えばサッカーの世界で一日に12~15時間も練習するチームがあるでしょうか?答えはNoです。
e-sportsの世界も本来はそうであるべきはずなのですが、スポーツの世界のように、ケガなどの肉体的な部分はもちろんのこと精神的な健康リスクに対する認識や理解度・筋肉への負荷量の違いなどからなのか、長時間のプレイが許容されています。

以上から、e-sports全般的に抱える文化・風習がなんとなーく悪いもののように見えてきたと思います。特に競技の世界では。
実際、改善の余地が多くあると思われているからこそ、Birch氏も研究しているわけで。トップチームも優秀な選手・将来有望な選手が燃え尽きることなく選手生活を送れるように日々、試行錯誤しているわけであります。
「プロだから」「強くなりたいから」練習するのは当たり前なのですが、そのトレーニング方法はまだまだ発展すべきだよね、ということです。

次章からは、その問題部分に注目しながら、競技性の高いゲームにもかかわらず、競技的にするうえであるまじき欠陥について主にVALORANTを例に見ていきたいと思います。

なぜグラインドカルチャーになるのか?
e-sportsの世界における「結果主義」と「トレーニング方法の構造的問題」

主観的規範とロールモデルの行動に影響を受ける世界

VALORANTでのトレーニング方法はいくつか存在しますが、チームでのトレーニングの場合はスクリム・ソロキューが挙げられます。(ソロキューもトレーニングの一部として含まれているため)

Birch氏の研究ではLoLやcsgoが題材となっていますが、どちらもVALORANTと同じようなモードが実装されています。その研究結果では現在行われているトレーニング方法に至ったアプローチに一切の合理性が欠如しているということでした。

何故かというと、「試合を回すのが好き」「ゲームの量をこなすべき」という考え方が選手たちの根本にあり、そこから各々の目標や練習したいことに合わせて最適なモードを選んでいくという目標指向型のアプローチであったからです。

上記のような理由であればまだ幾分か合理性が伴ってそうですが、目標指向と思って選んだ練習方法もあくまでコミュニティ内で知名度が高かったり尊敬する人物の真似事。ネットで見たり、対戦したりしてそのやり方が効果的だと判断したためであるそうです。(「合理性がありそう」)


また、そのような材料を探す作業というのはチーム内で行われるのではなく、「個人」として(チームから離れている時間に)行われるというのも興味深いです。


さらにそのようなコミュニティ内でロールモデルとなる人物が「ゲームの量をこなすべき」「試合中はこうプレイするべき」「これが強い」と言えば、試合中・練習中にチームメイト同士でお互いが行う行動への期待が一元化されていきます。この主観的規範(他人の期待に応えて行動を変える/実行すること)も合理性の欠如といえるでしょう。

つまり個々人が思う「このプレイヤーが強い」から「この練習が強い」「この人がこう言っている」ということがチーム活動にも影響を与えているということです。
そしてそれに選手たちは一切の疑問を持たないのです。
何故か?選手たちの探してきた材料がほとんどにおいて一緒だからです。
(ロールモデルのカリスマ性、生存者バイアス)

このようなアプローチから設定されたトレーニングが現在の主流となっています。
ですので、コミュニティでカリスマ的な人物のトレーニング方法が変わることでシーン全体が変わるということも言えるかもしれません。

トレーニング方法の構造的問題

では次に、なぜロールモデルとなる人物を初めとして、チームはスクリムやソロキューが最善だと思うのかについてみていきたいと思います。

結論から言うと、「それしかない」からです。

まずスクリム/ソロキューに共通して言える事ですが、人と人が闘っている以上、同じシチュエーションというのは2度と訪れません。これは対戦相手がランダムである以上避けられない問題です。(ゲームの再現性/技術レベルの未知数さ)
本来であれば、想定されるシナリオ(敵の配置、行動、タイミングなど)を部分的に再現した練習が望ましいです(実際に選手やコーチへのインタビューでも「我々は特定のマッチアップでプレーしたいし、特定のものを求めてプレーしたい」と言われています)が、現在のVALORANTにおいてはそのような仕様のトレーニングモードは実装されておらず、他のゲームにおいても同様です。

他のスポーツのようにチーム内で抱える選手(2軍や3軍)が多ければ、シナリオ練習もある程度可能となります。
VALORANTにおいては同チーム内のGC部門やアカデミー部門とトレーニングを行うことでシナリオ練習が可能になるかもしれません。
しかし、注意したいのは前述のランダム性と技術的なレベルの違いから確実にデータが集められるとは限らない点です。

これらの問題に加えて、スクリム/ソロキューではフルゲームのプレーが要求されるため、選手への負担が大きく、時間も取られますし、シナリオを孤立させたり、意図的に練習する機会が限られてしまいます。

つまり、実践をよりよくシミュレートできる学習デザインが施されたトレーニング方法がVALORANTには備わっておらず、
・ゲームそれ自身の技術的制約(シナリオの再現/リハーサル)
・スクリム/ソロキューにおいて対戦の条件や要求をコントロールできないこと
・フルゲームに内在する複雑さと予測不可能性
がトレーニング方法における構造的な問題を引き起こしています。


※現在では、個人のAIMや撃ち合いに関連したトレーニングは外部ツールなどにより拡充されつつあります。(Aimlab/kovaak's)
拡充の理由としては、AIM/撃ち合いが備える単純性や技術的制約の少なさという性質に加えて、人々の関心の高さだと個人的には考えています。


さて、ここまでで
「『強い選手がやっている練習方法に倣え!』という文化」
と、
「『チームでのトレーニング方法が少なすぎる!』という問題」
が、絡まりながら現在の多くのチームが取り組んでいるトレーニング方法に非効率性・非合理性があることを主張してきました。

次回は恐らく(?)、ソロキューに焦点を当ててその問題点に着目していきながら、現在のe-sportsシーンにおいて結果主義が重視される理由や結果主義がもたらす悲劇について取り上げてみたいと思います。

それではまたいつか。


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