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不当表示を行うアフィリエイターやインフルエンサーの罰則適用について(2023年5月公布の改正景品表示法)

 2023年10月1日施行の景品表示法の改正事項では、ステルスマーケティングが禁止行為に指定されました。
 これにより事業者が広告であることを隠して、自ら行う自作自演のなりすまし投稿や第三者に依頼して行う投稿などが不当表示にあたるとして禁止されました。この禁止行為に違反した事業者は措置命令や課徴金納付命令の対象になります。

<参考>
景品表示法のステルスマーケティング禁止の告示追加による広告主の注意事項|遠山桂ブログ(2023年09月22日)

 インターネットを広報ツールとして利用する事業者がステルスマーケティング禁止に対応するには、自社運営のウェブサイトに広告を表示する以外の方法で商品・サービスの告知を行う際には、それが「広告である旨」を適正に表示する必要があります。

 具体的には、InstagramやX(Twitter)等のSNSに商品・サービスの告知をするには「広告」「PR」といった表記をしなくてはなりません。
 この「広告」表記ルールはアフィリエイターやインフルエンサーが行う投稿にも適用されます。

 ただし、アフィリエイターやインフルエンサーが行った投稿の内容に優良誤認・有利誤認やステマ規制ルールの違反があった場合、措置命令や課徴金納付命令の対象になるのは広告主(スポンサー)であり、アフィリエイターやインフルエンサーには直接的な罰則の適用はありません。

 2023年3月28日に東京都生活文化スポーツ局が行った「アフィリエイト広告等により不当な広告を行っていた通信販売事業者2社に対する景品表示法に基づく措置命令」についても、健康食品や医薬部外品のアフィリエイト広告の不当表示について広告主である通信販売事業者に措置命令が下されましたが、広告代理店やアフィリエイターについては処分はされていません。

 このようにアフィリエイターやインフルエンサーが不当表示のお咎めなしとされるのは、景品表示法の適用対象が実際に販売を行う広告主に限定されているためです。

 景品表示法第5条の不当表示の禁止規定では、「事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない」とされ、優良誤認(1号)、有利誤認(2号)、総理大臣が指定する表示(3号)を禁止することが定められています。(ステルスマーケティングは、この第3号に該当します)。

 このように景品表示法の禁止規定の対象となるのは「自己の供給する商品又は役務」を販売する事業者(広告主)という要件が定められており、自分では商品等の取り扱いは行わず、広告主の商品等の広告のみを行うアフィリエイターやインフルエンサーは同法の規律の対象外ということになっています。

 そのためアフィリエイターやインフルエンサーが不当表示を行った場合は、広告主が責任を問われて措置命令や課徴金納付命令の対象となりますが、アフィリエイターやインフルエンサーには法的な罰則適用はありません。

 もちろんアフィリエイターやインフルエンサーが独断で不当表示の広告を行うことがあれば、広告代理店や広告主に罰則適用がされるので、そのような悪質な不当表示をするアフィリエイターやインフルエンサーは信用を失い、広告主からは敬遠されて広告の依頼は無くなるためネット広告市場からは消えていくという作用が期待されています。
 それでも不当表示を行った当事者のアフィリエイターやインフルエンサーにお咎めが無いというのは釈然としないものはあるでしょう。

 ただし、ネット広告の内容が医薬品等であった場合は事情が異なります。

 医薬品等の広告については、景品表示法よりも薬機法の規定の方が優先適用されます。
 薬機法第66条の誇大広告禁止規定では、「何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない」と定められています。

 景品表示法が「自己の供給する商品又は役務」という要件を付しているのに対し、薬機法では「何人も」医薬品等にについて誇大広告をしてはならないと定めています。
 これに違反した者については措置命令(薬機法第72条の5)の対象になり、二年以下の懲役もしくは二百万円以下の罰金またはこの併科(薬機法第85条)とされています。

つまり医薬品等の広告については、不当表示があった場合にはアフィリエイターやインフルエンサーであっても直接的な罰則の対象となりうるものです。これは景品表示法よりも厳格な罰則適用となります。
そうした事情はアフィリエイターやインフルエンサーには周知されおり、医薬品等の効果効能を標ぼうする派手な不当表示の広告はあまり見かけるものではありません。

 景品表示法の不当表示の罰則については、薬機法ほどの厳格さはないため、アフィリエイターやインフルエンサーも不当表示についての慎重さが欠けるという面もあるかもしれません。

 そこで景品表示法についてもアフィリエイターやインフルエンサーの不当表示について対策しようという動きにはなっています。
 前述のアフィリエイト広告等により不当な広告を行っていた通信販売事業者への措置命令もアフィリエイト広告の違反事実を認定しており、アフィリエイターやインフルエンサーの行う不当表示に歯止めをかけようという狙いはうかがわれます。

 2023年5月17日に公布された景品表示法の改正事項では、不当表示をした事業者が是正措置計画を申請し、内閣総理大臣から認定を受けたときは、措置命令や課徴金納付命令の適用が免除され、迅速に問題を改善する制度(確約手続)の導入が注目点となっています。

この改正事項では、優良誤認表示・有利誤認表示をした事業者に対し、直罰(100万円以下の罰金)の規定を設けること等についても定められています。
 これらの改正事項の施行日は公布日から1年6カ月以内とされています。

 優良誤認表示・有利誤認表示をした事業者に対する直罰規定(第48条)についても、その条文には「自己の供給する商品又は役務」という要件が付されています。
これを文言通りに受け取ればアフィリエイターやインフルエンサーが行う不当表示については従来と同様に罰則の対象外になります。

 ただし、刑法第60条の共同正犯規定に基づいて、不当表示を行ったアフィリエイターやインフルエンサーも共犯として直罰の対象となりうるという解釈もあるようです。消費者庁がそうした解釈によって不当表示を行ったアフィリエイターやインフルエンサーに直罰を適用することがあるかは注目されるところです。

 この直罰規定についても罰金が100万円以下ということですから、ネット広告による巨大な収益と比べれば微々たる金額となり、実効性は疑わしいところもありますが、それでも違反者に対して直罰を適用できるかどうかは影響の大きなところです。

 優良誤認表示・有利誤認表示をした事業者に対する直罰規定の導入について、消費者行政の解釈がアフィリエイターやインフルエンサーまで及ぶものかどうか、今後の動きが注目されます。


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