怖いレンズと臆病な撮影者
私には、「怖いレンズ」があります。
それは、明るく撮れて、短く持ち運びしやすいレンズです。
便利そうですよね。でも怖いんです、使うの。
怖いものってどういうわけか、思いもよらないタイミングで「やってやろう」って気にさせてきますよね。ホラー映画とか、ギャンブルとか、ジェットコースターとか。
普段は35-105mmのズームレンズを使っていて、だいたい80mmあたりの繰り出しで撮影することが多いです。今日は、その、「やってやろう」を食らってしまい、単焦点50mmレンズでスナップに出かけました。
不思議なことに、その怖さが写真に滲み出たのか、撮る写真撮る写真が意図せず陰気な雰囲気になっていました。
もともと暗めな写真を撮りたがる節もあって、カメラ設定は適正露光を数段下回るよう調整していますが、それにしても陰気だ…
焦点距離の短いレンズだと、ピントを合わせるにはどうしても被写物体に近づく必要があります。ましてマニュアルフォーカスのオールドレンズとなると、ピントを合わせるには被写物体を凝視しなくてはいけません。
それも1秒にも満たない時間ですが、その瞬間に、ファインダーを介して対象がギョッとこちらを睨んできやしないか、と怯えてしまうのです。
想像するに、一番落ち着く撮影というのは、高いところからの撮影でしょうか。
誰もかもが私の存在に注意を払わず、そもそも気づきすらしない。もしもそれができたのなら、市中を我がものかのように切り取ることができ、この上ない心地良いさを感じることでしょう。
要するに私は、とびっきりに「臆病な撮影者」なのかもしれません。
臆病なりに、地上から50mmで切り取った世界は、歪んで黒ずんで、希望や友情など明るいものは何一つ写し出しませんでした。「明るいレンズ」というのは、臆病者にとっては無関係なことなのでしょう。
怖いもの見たさに使った50mm単焦点レンズですが、この文自体にも暗澹たる雰囲気が滲んでしまうほど、沈んでしまったスナップになりました。
まあ、こんな日もある。
明日は、いつものレンズで出かけることにしましょう。今日の写真は今日しか撮れないし、明日の写真は明日にしか撮れないのですから。
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