少年と餃子
「えー、めっちゃいい思い出だったのにー」「体験学習楽しかった」「もうないんや」「非常に残念です」
ネットに溢れるコメントを読んだ僕は、此れは由々しき事態である、帝國の危機である、どげんかせんといかん、國家有用の徒たる青少年の為に、立ち上がれ、令和維新じゃ、うおおおおお、国会議事堂にションベン、てな煮えたぎる熱い義憤に駆られた、かというと、全く逆であり、「ははは。全部潰れろ。馬鹿野郎」そんな軽い呪詛を心中唱えて一人北叟笑みながらニュースを読んだのである。
「やー!」
少年自然の家。クラスメートが掛け声を発した。福岡県民独特の掛け声だった。白く広い大会議室で、僕は、下半身丸出しになった。クラスメートが、立ったままの僕の背後から近づき、勢い良く体操服の白半ズボンをずり下ろしたのだ。ゴム部分にフルネームを記載した白ブリーフも一緒に足元まで脱げた。数秒の丸出しの後、僕は慌ててズボンを履き直した。振り返ると、クラスメートは意地汚く笑っていた。僕は何も言わなかった。言葉が出なかった。「ここでやるか。こいつ、正気か」そう唖然と立ち尽くしていた。担任の教師が近付いてきて小声でクラスメートに注意した。彼は当時30代前半位だったのだろうか。今の僕より若かっただろう。
「コラッ。女子も見よろうが…」
僕は、それを女子が聞いてるじゃねえか、聞こえないように注意しろよ、余計恥ずかしいじゃねえか、こいつも馬鹿か、そう呆れた。クラスメートもクソだが、教師も同じくクソだった。自然体験学習だったか、よく名称は覚えちゃいないが、一泊二日、小学校高学年時の恒例行事だった。晩飯食った後に催された、じゃんけん大会、僕は絶好調だった。壇上の代表者とじゃんけんして負けた者は座っていくシステム、残り数人になったところで、勝ち続けていた僕は、妬みなのか、単に揶揄いの積もりか知らねえが、狙われたのだ。みんなが見ている前で、下半身丸出しの標的にされた訳である。少年自然の家で僕が学んだのは、恥辱。僕は、健全たる大人、になれたのであろうか。
バウルーが届いた。老舗のホットサンドメーカーである。敬愛してやまないカリスマキャンプスター、ヒロシさんも愛用の逸品である。僕は餃子を焼いた。カリカリに。試し焼きだから自室のガスコンロで。早く、野に行きたい。焚き火に豪快にバウルーを突っ込みたい。そう。自然の家を恨む、僕の趣味は、ソロキャンプ。
それから、岐阜から電話があったのだ…。
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