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ヒロシイズム10

「えーと、自己紹介は、最近行って良かった場所、ですね?私は趣味がソロキャンプ、でして、芸人のヒロシさん、に憧れてまして。はい。コスプレしてイベント行ったりしてて、御本人とも去年お話しさせて頂きまして、で、休みの日はキャンプばっかり、もう自分専用のキャンプサイトを佐賀のむおんきゃんぷ、って所に年間契約してて、まあ、休みはそこばっかり行ってます。だから行って良かった場所はむおんきゃんぷ、ですね。で、あの、自分キャンプのYouTubeやってまして、かけうどんチャンネル、って名前なんですけど、いえいえ、すごく無いです。全く人気ないんで。過疎チャンネルで全然金にはなって無いです。みなさん観て下されば嬉しいです。出来たらチャンネル登録も。それで本題っすけど、キャンプしてたらこの前、盗難に遭いまして、チョコオールドファッションを盗まれたんですよ。セブンイレブンの。朝起きたらクーラーボックスひっくり返されてて。犯人は誰だろう、と。サイトの周りは猪避けの防護柵が張り巡らされてるし、油断してました。管理人に相談したら、タヌキじゃない?って。そっかあ、タヌキかあ、と思って、ちょっと仕返ししたいな、と考えまして。またチョコオールドファッションをセブンイレブンで買いまして、わさびとカラシをふんだんに塗りまして、ビールケースと薪で罠、仕掛けを作って、タヌキを捕まえようと、もし捕まえられなくてもわさびとカラシで、タヌキに一泡吹かせてやろうと。で、結果、罠は簡単に破られてチョコオールドファッション、盗まれてまして、数百メートル離れた道路上に残骸が落ちてたんですけど、ちょっとだけしか食われて無かったんですよ!多分わさびとカラシの力で。盗まれてたけど、ちょっとしか食われなかった、と。引き分けかなと。まあ、でも、自分は何をやっているんだと。日本昔ばなし、みたいだなぁ。タヌキとの戦い的な。動画にしてバズるかなと思ったけど、はい、全然再生回数上がりませんでした。次は犯人の姿をカメラに収めたいと欲が出まして、チョコオールドフッション2個買って、わさびバージョンとカラシバージョン、カメラを固定して寝ました。朝起きたら、無事でした。なんにも映ってませんでした。自分で朝飯にわさびドーナツとカラシドーナツを食べる羽目に陥った訳です。悔しかった。それで先週かな、三度目の正直で、オールドファッション置いて、またカメラ設置して寝ました。朝起きたら無くなってたんですけど、遂に姿を捉えました。はい。犯人は、ネコ、でした。白に黒縁の、結構かわいい。タヌキじゃありませんでした。ネコかあー、と。管理棟の軒下にたまにいる野良猫のようでした。そこでネコが出てくる、悪いネコ、が出てくる小説てかエッセイですけど、梅崎春生先生の、猫と蟻と犬、を紹介したいと思います。怠惰の美徳、って文庫本に収録されてるんですけど、梅崎先生、福岡市出身なんですよ。知ってます?戦中、戦後の作家ですけど、軽妙な作品もあるんですけど戦争経験なさってるからか、こう、奥にずっと死の匂い、退廃的って言うのか、虚無感が漂ってて、そこが堪んないですよね。猫と蟻と犬、は笑える話っす。四代目カロ、ってネコが出てくるんですけど、とんでもない悪ネコなんですよ。火鉢に糞尿して、家中に悪臭を撒き散らしたり、子どもを襲ったり、ネズミを獲らずモグラを咥えて持ってきたり、家に迷惑が掛かること、人間が嫌がる事を率先してやるような。多分チョコオールドファッションも盗みますね、そんな悪猫カロは…」

と、まあ、そんな内容を俺は語ろうと思っていた。その読書会で。各々がお勧めの本を持ち寄り、紹介して語り合う、読書会の場で。しかし、それは叶わぬ夢だった。取らぬ狸の皮算用であり(猫だけに)、砂上の楼閣だった。何故なら、俺は読書会開催場所に辿り着けなかった、からである。より正確に言うなら、辿り着いたが、その輪に入る事が出来なかったのだ。時間は余裕があった。開催地の博多には一時間前に到着していた。以前デパートの上に北欧のアウトドアブランドが入っていたから、訪れると既に閉業していた。悲しかった。喫煙所で煙草を一本吸った。腹ごなしをしようと思った。うどんでも啜りたい。昼時はとうに過ぎていたが、どこも混んでいた。コンビニで一本満足と書かれたチョコバーを買い、エスカレーター脇に設えられた簡素なベンチに腰かけ、モゾモゾ食べた。パラパラと欠片が白い床に落ちた。隣に外国人カップルが座った。そろそろ読書会の時間だった。俺はバスターミナルにいた。開催地はここだと思っていたから。違った。ターミナルではなく、ステーション、だった。ノットバスターミナル、イエスバスステーション。バスステーションはどうやら出来て間もないようだ。俺は知らなかった。既に時間は過ぎていた。携帯の地図を頼りに俺はバスステーションに向かった。20分オーバー。多分、あれだ、と思った。あのテーブルだと。その距離推定20メートル。当然だが会は始まっているようだった。5名ほどが揃って語っていた。「すいません!読書会ですよね?遅れました!」9割の人間ならそう言うだろう。俺は言わなかった。俺は残り1割の人間だった。見ていない振りをしてその場から離れた。気まずかった。そして、猛烈に煙草を吸いたかった。近くの公園に逃げ込み、深く一本吸い込んで煙を吐いた。主催者に謝罪文を送った。「迷いました。途中から参加するとご迷惑だと思いますので今回は辞退させて頂きます。申し訳ありません」サンドウィッチマンのコント、宅配ピザで、「迷いました」「はあ?一本道だろうが」「いや、行くかどうかで迷ったんです!」「すっと来いや!」というようなやり取りがあったが、それに近い気がした。「そうなんですね。私の案内が悪かったです。すみません」主催者から謝られたが、どう考えても、悪いのは俺だろう。やることが無くなった俺は、バスに乗った。ミリタリーショップで穴が空いた米軍の頭陀袋を1650円で購入し、チェーンのうどん屋でかけうどん、かしわおにぎりを注文し、空いた店内でうどんパーティーだー!と騒ぐ後期高齢者三人組の喧しい声を背中で聞きながら、食い終わって700円支払い、駅前の昭和風な喫茶店でブレンドを頼み、ちびちび飲みながら、この文章を打ち込み、レジで代金600円を硬貨2枚で丁度払った。

土曜日、ずっと雨が降っていた。

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