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復刻ユニフォームはどこまで「再現」すべきか?問題

今年の阪神・巨人共同プロジェクト「伝統の一戦~THE CLASSIC SERIES ~」にて、両球団が着用する復刻ユニフォームが発表されました。

阪神対巨人戦が「伝統の一戦」と呼ばれるようになったルーツである、1936年の初代日本一決定戦(通称・「洲崎の決戦」)がイベントのテーマで、両チームが当時着用していたユニフォームを復刻するとのこと。

それについていくつか考えることがあったので書いていきます。

これを聞いて最初に思ったのが「セ・リーグで、両チームが年代を揃えた復刻ユニフォームを着て試合をするのって実は初めてじゃない?」ということ。
パ・リーグでは、オリックスとソフトバンクの「OSAKA(KANSAI)クラシック」や西武とソフトバンクの「ライオンズクラシック×福岡クラシック」などという例があるものの、そもそもセ・リーグでは「両チームが復刻ユニフォームを着用した試合」というもの自体がほとんどないという現状があります。

2011年、2012年に「GREAT  CENTRAL」と銘打って6球団がそれぞれ復刻ユニフォームを着用するイベントがありましたが、それくらい。そのイベントも各球団それぞれ年代がバラバラのユニフォームを着用していました。

過去の「伝統の一戦~THE CLASSIC SERIES ~」でも、阪神は2016〜2018年に渡って復刻ユニフォームを用意したのに対し、巨人はほぼスルー状態で通常のユニフォームを着用。
阪神ファンとしては、せっかくの共同イベントなのに…と少し寂しい気持ちでした。

今回の「伝統の一戦」や「OSAKA(KANSAI)クラシック」のように、「あの時」の再現ができる、というのがやはり復刻ユニフォームの醍醐味ではないでしょうか。
当時を知っているファン、史料でしか見たことがないファン、その日たまたま試合を目にした人、色んな人々を時を超えて一つにすることができるツールだと思うのです。

主催側のチームだけが一方的・ある意味「自己満足」的に復刻ユニフォームを着ているだけで、相手が普通のユニフォームでは盛り上がらない。
出来れば、明確なコンセプトを立てた上での両チームで申し合わせた共同イベントという形で開催してほしいなぁ、と。
リーグ全球団でやっても面白いですよね。「CLASSIC CENTRAL 〇〇's」みたいな。

それに、復刻ユニフォームとなると、気になるのはデザインや着こなし。当時のデザインや着こなしをどこまで再現するのか
この手の話で最も槍玉に挙がりがちなのが、ストッキングや広告でしょうか。

ストッキングを出していた時代の復刻なのに裾が長いパンツを履いていたり、現行の広告がそのまま付いていたり。
どちらも時代の移り変わりの中で大きく在り方が変わってきたものなので、一概に「再現」と言っても難しいのかもしれませんが、非難の声が上がることも理解できます。

私個人としては、ストッキングを出す出さないは選手個人の自由として、当時の意匠を再現したストッキングは最低限用意してほしい。
広告に関しても、無くすというのは難しいだろうから、出来ればユニフォームのデザインに同化するようなデザインに調整してほしい(これは通常のユニフォームでも言えることですが)。

ただ、当時のデザインを現代的に落とし込む=「リメイク」するというスタイルにも、言わば「ネオ・クラシック」的な試みとしての良さ・面白味もあると思っていて。
そうなると、正統な復刻ユニフォームというよりはイベントユニフォーム色が強いかもしれませんが、コンセプトがはっきりしている分そちらの方が違和感なく見られます。

要するに、忠実なら忠実、リメイクならリメイクとコンセプトをはっきりとさせてほしいということ。
中途半端に「昔のデザイン風でやってます」っていうのはやめて頂きたいいのが本音。

これなんか非常に分かりやすい例だと思います。どれも阪神が70年代に使用していた「輝流ライン」ユニフォームと呼ばれるユニフォームを復刻したものですが、どれも異なった特徴があります。

2010年交流戦版は、デザインを70年代風にしてはいますが、帽子やストッキングは通常のものをそのまま流用。細かい話ですが、当時シャツスリーブだったものを通常のラグランスリーブをそのまま流用。
これを「復刻版」と謳って使用しているわけですから、私の言葉で言えば、まさに「中途半端に『昔のデザイン風でやってます』」に当てはまる残念ユニフォームです。

2016年伝統の一戦版は、2010年交流戦版とはうってかわって、帽子のデザインやライン入りのレギュラーカットストッキング、シャツスリーブ仕様と、70年代当時の仕様をほとんどそっくりそのまま再現
これぞ「復刻ユニフォーム」と呼ぶにふさわしい、素晴らしいユニフォームと言えます。

2018年伝統の一戦は、70年代のビジターユニフォームをホームユニフォーム風にアレンジ。細かい仕様は通常ユニフォームから流用したものでしたが、「アレンジ」「リメイク」という方向性をはっきりと提示していたために、「そういうイベントユニフォーム」として受け入れることができます。

パッと見では分からないような細かい話ですが、やはり復刻ユニフォームを企画するには既に存在している「ストーリー」と否が応でも向き合う必要があって、細部に拘るということは球団が紡いできた歴史に対して真摯に向き合う姿勢を示すための一つの手段なのではないか、と思うのです。
そういう姿勢もなくただ形だけ真似しても、そんなのちっとも面白いとは思えない訳で。

そういう意味では、昇華プリントでの復刻ユニフォームに関しては、どんなにデザイン・コンセプトがしっかりしてようとも「論外だ」と言えます。
申し訳ありませんが、あり得ませんそれならやらない方がいいとすら思います(もちろん当時から昇華プリントだったユニフォームを復刻する場合はその限りではありませんが)。

駄話シリーズあるあるで、段々何の話をしてるのか分からなくなってきましたが、こういう時は文章を頭から読み返しましょう。

ここまでの話をまとめると、どこまで「再現」するとしても、とにかく明確なコンセプトを提示してほしい、という話になりますかね。
私個人の希望としては、既に書いている通りストッキングスタイルで統一、広告は目立たない仕様に、というところですが…

それ以上に、ユニフォームデザインの面でも、イベント企画の面でも、両方の面で歴史・ストーリーを大事にしてほしい、と。
そうすれば、どこまで「再現」すべきかはその都度都度で自ずと決まってるのではないでしょうか。

オリックスなんかはそういう歴史への目配せやその表現が巧いですよね。球団自体の成り立ちが成り立ちだけに、という部分も関わっているのかもしれませんが。

そんな感じで、今回の「伝統の一戦」に関しては、ようやく「伝統の一戦」らしいイベントになりそうな予感がする、という話でした。

※書きそびれたことがあったので追記

ちなみに、2021年の8月にMLBで1989年公開の映画「フィールド・オブ・ドリームス」をフィーチャーした「Field of Dreams Game」というイベントが開催されました。
これがどういうものかと言うと、作中に登場した「トウモロコシ畑を潰して作った野球場」を再現した球場を作り、そこで作中で再現されたユニフォームを再現したユニフォームを着た両チームが試合をする、というもの。

さすがアメリカ、やることがデカいし粋だなと思います。
さすがに球場作るところまでは求めないですが、日本のプロ野球もこれくらいの熱意を持って「ストーリー」を作ってほしいな、と思ったのでした。

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