ほんの微かな甘みと大半は酸味と苦み

社会人になってほとんど手をつけなくなってしまったけれど、学生の頃は一日中プレステ(初代)のコントローラーを握っていた。世界にのめり込んだ作品もあれば、人生そのものに影響を与えたほどの作品もある。

でもぼくが、プレステに関する思い出、と聞いて思い起こされるのはソフトに関することじゃない。ある日の晩、プレステをやってた時に起こった出来事だ。

ちなみに、ことが起こったそのときにやっていたのはシミュレーションRPGの「アークザラット3」だ。忘れもしない。話としては終盤に差し掛かっていたところくらいでテレビ画面もよく覚えている。好きだったシリーズの三作目ということで、一人暮らしの部屋でいつも通りぼくはただゲームをしていた。

そんな時に携帯電話がなった。知らない番号だった。

え、誰? ていうかゲームしてる時に電話なんかしてくんなよ、けしからんやつだな、などと思いTVの音声を消して電話に出ると、相手は同じサークルで親しくしている女友達だった。

ぼくは基本的に親しいかどうかは関係なく、電話を掛ける要件がない人とは番号を交換したりしないので、かかわりが深くても電話でやり取りをしない人の番号を知らなかった。その時彼女は共通の知り合いからぼくの番号を教えてもらって電話をかけてきたらしい。

彼女とは学校で会って話はするけれど、それ以外でのやり取りは特にはなかった。当時はSNSなんかなくて、携帯メールはあったけれど同じキャリア同士でしかやり取りできなくて、確か彼女とはキャリアが違ってやり取りしてなかったし、そもそもぼくは親しい友達であっても用がなければ電話したりしない。当然彼女とも電話で話をしたことなどなかった(だから番号を知らなかったのだけれど)。

彼女は人見知りするぼくの中でそれほど数が多くない「仲の良い女子」の一人だった。異性としてどうこう、というのではなく、「異性なのだけれど気兼ねなく楽しく付き合える」、ぼくとしてレアな種類の友人だった。

慣れた人であればある程度コミュニケーションをとれるが基本的に根暗で内にこもる性格のぼくとは反対で、彼女はさっぱりした明るい人で友好関係も広い、ぼくとは違う世界で生活をしている人だ、と思っていた。完全にコミュ障の消極的妄想として、ぼくとも仲良くはしているけれど大勢いる友人の中の一人なんだろうなあ、と思っていた。

そんな彼女からいきなり電話がかかってきた。何の前触れもなく唐突に。

なんだろう、とすっごくドキドキした。甘酸っぱいドギマギではなく、どちらかといえば警戒とかそういうニュアンスのドキドキである。

というのも、彼女は非常にサバけていて、結構自分の意見をズバズバというタイプ。その頃、彼女と親しくしている友人がその娘にから「あなたのこういうところはキライ」とかなんとかそのようなやり取りをした、という話を聞いたばかりだったので、電話に出たぼくは「なにか最近彼女に気に障るようなことしたか!!?? なんだ、何をした?? あれか、これか、いやそれとも……」みたいに、ひたすらドギマギしつつ、「ああ、どうしたの?」と虚勢に冷静を張ることに注力していた。

返ってきたのは「あなたに言いたいことがあって電話をした」との言葉だった。

Oh my GOD! 完全に詰みだ。ぼくとしてはまったくの無意識にやってしまったことがきっとよっぽど彼女の癪に障ったに違いない。そうでなければいきなり電話などしてこようはずもない。ぼくはこれから彼女の遠慮会釈ない歯に衣着せぬ物言いにばっさばっさと斬り刻まれるのだ、なんてことだ……!!

そんなことを精一杯虚勢で押し隠して、ぼくは

「ああ、どうしたの」

と聞き返した。そうしたら彼女は唐突に言った。

「私、あなたのことが好きかもしれない」

「……」

「……」

はい?

完全に頭が真っ白になった。その言葉は超完全無欠的に予想外の想定外だった。

え、なに。文句言いたいんじゃないの!? 違うの?

ていうか、え?? 好きってなに、どういうこと??

確かに親しくしてはいたけれど、好きだとかそういうのこっちからアピールしてたわけじゃないしそもそもそんな風に考えたことなかったし。ていうか、そっちも恋愛対象としてこっちを見てたとかそういうのは微塵も感じたことないし、え、それ俺めっちゃ鈍感で無神経だったってこと??

いや、そもそも当時から非モテ街道まっしぐらだったぼくにそんなことを言う人が実際に存在するとは! ドッキリとかそういうんじゃないよねこういう時は一体全体どのように対応すればいいんだ、どういう態度をとればいいんだ全然わからないよ!

というような感じで予想外の想定外の未経験のもうなにがなんだかぜんぜんどうしたらいいかわからない、ひたすら嵐、みたいな感情がぼくの頭と胸に吹き荒れまくっていて、けれど、そういうあたふたしたところは見せてはいけないと余計な(かなり余計だ)虚勢だけは残っていて、

「え……そんなこと始めて言われた」

とだけぼくは返した。

その時の彼女が言うには、友人(共通の女友達)の家に泊まっていて、なぜかぼくの話題になったらしくいろいろ話をしていたら、突然彼女が自分の気持ちに気づいてしまい気づいたらとにかく言いたくなった、ということらしい。

いや突然言いたくなったからってそんな大事なことは電話越しで言ってくるなよこっちへの配慮を少しは考えてほしい、とは思うものの、頭真っ白でそんな文句を言う余裕もなく、

「あ……そ、そうなんだ」

とかなんとか、そんなことしか言えなかった(彼女も彼女だが、当時のぼくもぼくだ。そうなんだじゃねーよ)。

その後は何を話したのかよく覚えていないけれど、最終的に「いきなり出てきたことだから、また改めて連絡する」と彼女が言って、それでその時は終話となった。

電話を切って、いきなりの告白に心も胸も頭もオーバーヒートだったから、終盤にさしかかって盛り上がっていたゲームをやって気分を変えよう、とは思ったものの、そんなことで切り替わる程度のものであろうはずもない。

結局そのあとはすぐにプレステの電源を切ってお風呂に入ってベッドに入るも、想定外の未体験経験に高鳴る鼓動が収まることなく、明け方までうまく眠ることができなかった。

ちなみに、後日改めてその彼女から告白を受けたけれど、そういう対象として考えたことがまったくなかったから断ってしまったしまったものの、改めて考えてみると、全然モテ要素ないぼくに(電話越しではあったけれど)初めて直接好きだと言ってくれたとか、実際に付き合っていたらそんなに気を遣わず楽しくやれたんじゃないか、など気にして結局異性として意識してしまうことになり、後々ぼくから改めて告白する羽目になってしまったのだけれど、なんだかんだで上手くいかなかった(ぼくが告白したのが事があってから一年経ったくらいなのだから当然である)。

このことを思い出すたび、当時のぼくに言いたいことはたくさんあるのだけれど、その筆頭は「変に虚勢張ってんじゃない!」ということだ。

あの頃のぼくは誰かであっても自分の弱みを見せてはいけないと思っていて、冷静に対応しなきゃいけないということを考えていた。

だけれど、「突然のことですごく戸惑っている」ことを隠す必要はなかったんじゃないかな。むしろそれはちゃんと伝えるというか、ことさらそういう話をしている時だったからこそ、ちゃんとさらすべきだったのかもしれない。

#プレステの思い出

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