『スミレ』商店街シリーズ番外編3
歩道の隙間に咲く小さな青い花を見つけて僕は立ち止まった。渋谷を行き交う人の中で危うく転びそうになった僕を、誰かの手が支えた。
「大丈夫かい」大きなリュックを背負ったお兄さんが言った。「あの花が」と指さすと、お兄さんは僕の肩を抱いて「よし、一緒に行こう」と励ました。
ふと周囲に空間ができた。「さあ君たち、行って」スーツ姿の太ったおじさんが、迷惑そうな視線や体当たりを一人で受けとめながら立ちはだかっていた。
僕たちは根っこごと小さな花を救い出した。
「ボク、これを使って」オレンジの服を着たお姉さんが、小さな紙袋を差し出してくれた。これなら大事に持ち帰れそうだ。
そのとき僕を呼ぶお母さんの声がした。
お礼を言おうと見上げると、リュックのお兄さんも、太ったおじさんも、オレンジのお姉さんも、渋谷の人混みに消えていた。
庭の片隅に植えたスミレは、あの日の優しさのように種がこぼれて今も増え続けている。
終(392文字)
【あとがき】
ショートショートガーデン(SSG)に公開した400字の作品です。
2019年に開催された渋谷ショートショートコンテストで優秀賞に選んでいただきました。
商店街シリーズの番外編としてまとめました。
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