見出し画像

競技かるた、しよっさ!

ここで言う"かるた"は、小倉百人一首を元にした百枚の札取りゲームのことです。

日本の古典文学が競技かるたとして各地で老若男女の心身を鍛え、礼節を養い、スポーツの一つとして発展したといえる現在、改めてその背景をまとめてみたいと思います。

札を取る百人一首との出会い

百人一首といえば、絵札を使った”坊主めくり”が手軽に遊べて誰でも一度は経験があるかと思います。私が初めて触れた百人一首もそうでした。

小学生のとき、それまで暮らしていた古くて狭い平屋建ての借家から、新築2階建て家に引っ越しました。
そして広くなったリビングの絨毯の上で初めて、両親に教えられて下の句の札を並べて読まれた札を取る”かるた形式”の遊び方を知りました。

競技かるたのルールではなく、100枚すべて並べて、送り札もなく最終的な取り札の数で勝敗を決める方法でした。(源平っていうのかな?)

最初は当然、父と母の圧勝。
それが一ヶ月もすると、あっという間に両親を超えて私たち兄弟は負け知らずとなりました。子どもの成長は本当に早い!

百人一首の暗記で一番練習になったのは、対戦そのものや本などではなく、交代で読み手をした経験でした。
百首すべて頭からほぼ丸暗記。
「むらさめ」で始まったら「きり」みたいに経験から覚えることはあっても、決まり字という概念は当時ほぼありませんでした。

中学に上がると校内の百人一首大会でも一位。成績に直接関係ないとはいえ、学校行事で自分が頂点に立つ貴重な経験となりました。

ちなみに私は理系なんですが国語も得意科目で、中でも古文は点数稼ぎ科目でした。
たとえ意味が分からなくとも子どもの頃から百人一首に親しんだおかげで、古来の言葉の表現が自然と体に染みついたのかなと、振り返って思います。

競技かるたを描く名作『ちはやふる』

文化系な印象の残る「百人一首」から、「競技かるた」になると一気にスポーツ競技の世界へと転換します。

その認知を全国に広めた最大の功績は、やはり末次由紀さんによる漫画『ちはやふる』!

熱い競技かるたブームが全国に巻き起きる社会現象になって、おそらく子どもの頃に百人一首を経験したことある大人たちも一気に加わったんじゃないでしょうか。

かるた競技を知るには圧倒的にオススメの作品です。

もちろん私も夢中になりました。
そして、それまで知らなかった競技かるたのルール、特に「決まり字」という概念に触れて、札の取り方も変わりました。あまりに有名な一字決まり「むすめふさほせ」も、認識したのはこの頃からです。

それでも頭から覚えて意味を覚えた身にとっては、なかなか癖が抜けません。「はなさ」ではなく「花さそう」なんですよね。

多分に漏れず、私も対戦相手を求めてかるた会に時々顔を出していた時期もありました。もしかしたらD級くらいはいけるかもしれないと考えたものの、入会や大会出場には今のところ至っていません。

競技を支える運営の力

スポーツの主役はもちろん選手と言えるでしょう。
頂点を目指して訓練を重ね、ライバルと切磋琢磨して時に挫折を味わい、技術を磨いてより高みを目指す。
その真摯な姿と勝利のシーンに私たちは心を打たれます。

一方で、競技として成り立つためには、運営するスタッフが必ず必要です。

環境を整えて、ルールに則って進行し、会場の手配から選手の管理、公平性を保つための審判、そして若手を育てる指導者、サポートする保護者、などなど、数え上げたらきりがありません。

漫画『ちはやふる』で、村尾さんという登場人物がいます。

主要人物の一人、綿谷新(あらた)を幼いころから知る兄貴分的な存在で、彼自身も名人を目指す選手であり、強すぎる強敵に挫折して一度はかるたから離れたものの後に立ち直ります。
そして社会人になってからは運営委員として、競技かるたの参加者をサポートし後進を見守る姿を見せてくれます。

画像5

(『ちはやふる』12巻より)

これこそ、スポーツ競技が維持、発展するために不可欠な要素です。
かるたを愛し、かるたに取り組む選手たちを応援する多くの関係者の存在が、スポーツとしてのかるたには必要不可欠なのです。

また、主人公と同じ高校のかるた部に所属する大江奏(かなちゃん)は高校生かるた選手として頑張る一方、古典オタクというほどの知識の深さから、歌としての百人一首の魅力と美しさを愛し、専任読手を目指す様子が描かれます。

画像6

(『ちはやふる』9巻より)

このように、いくつもの競技かるたへの関わり方があり、極めた先の目標があります。

競技かるたに限らず、スポーツを経験することによってルールや知識が身に付き、スポーツに対する愛着と想いが裾野を広げて競技の発展を支えることになるのです。

実践!競技かるた

今回この記事を書くにあたり、数々の戦歴を超えてきた思い出深い実家の百人一首の写真を掲載しようと考えました。

早速、母に連絡。

私「シミが付いたり曲がったりした札の写真を撮って送って」
母「はーい」(まかせて、のスタンプ)

数日後。

母「明日19時以降指定で送ったよ。タオルも入れておいたから」
私「送ったって、そっち!?

段ボールの隙間を埋めるように同梱された新品タオルや缶詰類と一緒に、古びた箱の百人一首が届きました。

画像1

シミが特徴の「ぬれにそ」、人気札ゆえに色が濃くなってしまった「かけしや」、激戦のため真ん中で折れ曲がった「むかしは」、様々な記憶がセットされている札たち。手にすると感慨深いです。

早速、かるた会所属経験のある、香さん(仮名)を招いて対戦。

画像3

裏返した札を5枚1山にして、10山つくります。
一人5山とって、それぞれ25枚。

漫画『ちはやふる』を読んでかるた会の体験練習に参加した程度の私は定位置なんてものは当然なくて、何となく得意札を右手側と左の上下隅に寄せるくらいの配置。

画像2

読手は読み上げアプリ。ほんと便利な時代になりましたよね。

競技かるたのルールに則って進行します。

香「札の置き場所を考えている間は片手を上げて」
私「は、はい」

香「札を手前にさげるときは「下げます」って言うの」
私「は、はいっ」

私は決まり字が頭に入っていないので、下の句の札を見て上の句を思い出すのは苦手。「な」で始まる札(計8枚ある)が何枚読まれてあと何枚残っているかといった分析も苦手。
頭から丸暗記しているので、読みが始まったら即座に頭の中で下の句まで流して取る方式です。

結果。

画像4

愛着札「なつ」を最後に送って、勝利!

スマホを向けると香さんに「どうせ「勝ったーうぇーい」って人に見せるんでしょ」と拒否られたので、「しないしない、ただの記念だから」って言い張って撮影。

ごめん、見せる用でした!勝ったーうぇーい!!

競技かるたに触れてみてください

競技かるたのメリットとして以下のものがあります。

・体幹を鍛えて、体力づくり
・集中力。シーンと静まり返った緊張感
・交流、スポーツマンシップにのっとった礼儀作法
・室内競技なので天候に左右されにくい
・古典文学への慣れ親しみ

文武両道にもつながるメリットばかり!

『ちはやふる』でも、部活動の一環としてランニングやストレッチをする様子が描かれています。かるた強豪校ともなれば、登山や過酷な筋トレなども特訓メニューに加わります。

競技かるたに触れる機会を、以下に紹介します。

■ 地域のかるた会

ちはやふるブームも後押しして、いまや各地域で盛んに活動しているかるた会。

公式戦に参加するためにも、全日本かるた協会系列のかるた会所属は必須となるので、まずは近くにあるかるた会を調べて覗いてみるのが一番の近道です。
かるた会はとても門戸が広く、問い合わせれば多くの会が体験を受け入れてくれると思います。

最初に用意するのは、Tシャツやジャージなど動きやすい服装。あとは汗を拭くタオルや飲み物といった簡単なもの。
特別な装備や専用の道具は必要ありません。

初心者指導を受けられるのも大きなメリットです。
同じ目標に向かう仲間と出会う場所にもなります。

■ 競技かるたONLINE

まずは一人で手軽に試してみたい場合や、人と接することが難しい場合は、iOS/Android版アプリとして公開されている「競技かるたONLINE」もあります。

もちろん姿勢も手の動きも実践とは全く違いますが、ソーシャルディスタンスでかるた競技がなかなかできないご時世、オンラインかるた対戦は競技かるたの一つの形として今後受け入れられていくのではないでしょうか。

私もゲストプレイヤーとして体験してみました。

画像7

札の位置を覚えて少しでも早く札を払うのみ。
成績やタイムが数値で出るところもアプリの利点ですね。

■ 漫画『ちはやふる』

初めて競技かるたの世界に触れるとき、ダントツでオススメなのはやっぱり漫画『ちはやふる』。

子ども時代から始まる1巻、すべてはここから始まります。
登場人物たちの成長物語でもあるので、読むならぜひ1巻から!

2020年6月現在、44巻まで発行されていますが、魅力あふれる登場人物たちの成長、挫折、人間模様、そしてかるたへの情熱。どんどん引き込まれて、次、次ってあっという間に読み進められます。

男子も女子もみんなよく泣きます。読者も泣きます。

■ TVアニメ『ちはやふる』

その『ちはやふる』アニメ化作品はこちら。

実はアニメ版は見たことがないのですが、漫画では表現しきれない美しい色彩と音の世界は素晴らしいこと間違いなしです。

■ 実写映画『ちはやふる』

そしてそして、実写版映画『ちはやふる』!

「上の句」「下の句」「結び」の3作が公開されています。

真剣友さん演じる新の爽やかさ!現在は苗字をつけて「新田真剣友」となりましたが、これはちはやふるの新(あらた)役が元になっているそうです。
若宮詩暢役の松岡茉優ちゃんが似合いすぎてて素敵。
大江奏(かなちゃん)役の上白石萌音ちゃんも可愛らしくて適役でした。
他にも語りつくせない豪華な実写役の皆さま。

汗と感動とともに、競技かるたの世界を映像でぜひ味わってください。

■ 小倉百人一首かるた札

1世帯に1セットくらいは百人一首を持っていても、日本人なら全然不思議じゃないです。
価格も2000円~とお手頃です。

友だちが来たら、ジェンガ感覚で坊主めくりで遊ぶこともできます。大人でも意外と楽しいですよ。和服や着物の絵柄っていうだけでも、なんだか盛り上がりますよね。

地域によっては、学校で五色百人一首を採用しているかもしれません。
これは100枚の札を5色20枚ずつ5色に分けたもので「今日は青をやろう」といった感じで手軽に20枚対戦ができるのです。

いきなり100枚だと敷居が高くなるけれど、入門編としてこの手軽さはすごくよくできた仕組みだと思いました。

■ 書籍

もちろん、知識としての百人一首も面白いので、書籍を手に取る機会があれば手に取ってみてください。

ご家族で一冊、お子さんとご一緒に、ご自身の教養に、ぜひお手元に。

■ 関連Twitterアカウント

『ちはやふる』作者の末次由紀さんのアカウントでは、競技かるたに関する話題はもちろん、「ちはやふる基金」や「競技かるたONLINE高校生大会」などの情報も知ることができます。

犬のアイコンでおなじみの編集者たらればさんのアカウントでは、時々連続投稿される百人一首や古典の知識と背景解説が素晴らしく面白いので超オススメ!

さいごに

日本人なら意外と身近にある百人一首。

屋内に滞在することの多いこの機会に、スポーツ性ありエンターテインメント性ありの競技かるたの世界にぜひ触れてみてください!

ラストは、ちはやふる綿谷新くん(福井弁)の言葉を借りて締めくくります。

「一緒に、かるたしよっさ!」

スキやシェア、コメントはとても励みになります。ありがとうございます。いただいたサポートは取材や書籍等に使用します。これからも様々な体験を通して知見を広めます。