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欧州スポーツ紀行 #4 「チェコ×野球:#WBC2023 “Malá Země, Velké Sny”」

こんにちは!チェコ留学中の加藤です。

今月8日より、野球世界一を決める最高峰の大会であるワールド・ベースボール・クラシックがついに開幕!ということで、チェコにおける野球を特集していきます!
ご存じの方も多いかと思いますが、野球チェコ代表(ナショナルチーム)は今回のWBC本戦出場権を史上初めて獲得しており、日本代表と同組のPool Bで予選を戦います。WBCが近づくにつれて、日本でもチェコ代表について取り上げられることが多くなっていると推察しますが、今回はさらにチェコの野球について知っていただければと思います!

チェコ野球の歴史
戦前から中欧に野球は存在していたようですが、本格的に発展の一途をたどり始めたのは第二次大戦後でした。1947年、アメリカ人のJaroslav Firstが野球のルールをチェコ語に翻訳し、YMCAの活動の延長として作られた野球チームが活動を始めました。
1968年の「プラハの春」以降は共産主義と対立するアメリカ発祥のスポーツであることから、一時的な停滞を見せるようになりますが、民主化後はジュニアチームを中心とした育成に力を入れ、今のような欧州における野球の強豪国ができあがったのです。
また、国内野球リーグ「チェコ・エクストラリーガ(Česká baseballová extraliga)」も1993年に設立され、プロリーグではないながらも多くの選手が活躍しています。

チェコでの野球
チェコ代表のWBSC世界ランキングの順位は昨年末で15位。野球強豪国の中では下位につけていますが、18位のドイツや19位のスペインなどを差し置いて欧州圏では堂々の1位です。
チェコでは日本とは異なり、日常的に野球に接する機会はほとんどありません。前回記事にもあったように、こちらではサッカーやアイスホッケーが日本で言うところの野球の立ち位置に相当するため、まだまだポピュラースポーツの権利を得られていないというのがリアルな感想です。
ただ、今回のWBC本戦初出場が決まってからはじわじわとその話題が広がり、ついにはČeská televize(チェコテレビ、国営放送)のスポーツチャンネルが国内放送権を買い取りました。チェコ代表の試合を中心に、WBC本戦に関してはおそらく初めての全国中継が予定されています。
もしチェコ代表が下馬評を超える結果を残せば、こちらでもさらなる野球の発展が大いに期待できます。

チェコ代表の強み・特徴
一番の特徴は「チーム内の国籍の単一性」ではないでしょうか。
以前にもWBCに出場した強豪のチームを見ると、欧州を中心として自国の海外領土出身者や自国にルーツを持つ選手を中心に招集している事例が多くなっています。
例を挙げると、NPB・ヤクルトで活躍したウラディミール・バレンティン外野手はオランダ代表として2013年・2017年のWBCに出場していますが、出身はオランダ領キュラソー島となっています。また、今年のWBCにも日本代表として日系二世のラーズ・ヌートバー外野手がメンバー入りを果たしています。
しかし、一方でチェコは海外領土もなく、比較的別国籍を持つ選手も少ないことから、海外戦力に頼ることなく、自国出身者が実力をつけて戦えるレベルまで育成に力を入れたようで、結果として今回のロースターでは3名のアメリカにルーツのある選手以外は残りすべてがチェコ出身者(チェコスロヴァキア分離前も含む)となっています。

▼チェコ代表のメンバー名簿。その特徴は他の出場国と見比べていただければ一目瞭然です

▼日本到着後、東京ドームで撮影されたチェコ代表の集合写真

“Malá Země, Velké Sny”
チェコ代表がWBC本戦出場権を獲得するまでの道のりは、決して平坦なものではありませんでした。2021年、イタリア・ピエモンテで行われた欧州選手権。欧州No.1を決めるこの大会で、チェコ代表は予選リーグを2位通過したものの、準々決勝でイスラエルに敗北を喫し敗退。代表を引退する選手や指導者が多くいる中で、パヴェル・チャディム氏が新監督に就任しました。彼は2014年のU-23世界選手権で代表チームを率いて過去最高の5位に導くなど、若年層への指導で結果を残してきた監督です。若返りを見せ、さらに団結力の増した代表チームは昨年9月にドイツのレーゲンスブルクで開催されたWBC予選に参加します。

2013年WBC本戦出場を果たしたこともある強豪・スペインとの対戦は、5回に12失点の猛攻を受け、初戦から21-7という屈辱的な敗北を喫しました。背水の陣となった中でも選手たちは突破口を探し続け、敗者復活1回戦のフランスに7-1で勝利。続く2回戦ではドイツに初回から先制点を許すも、その裏にペトル・ジーマの2ランホームランなどで同点とします。中盤には小刻みに得点を重ね、終わってみれば8-4と大勝を収めました。
敗者復活決勝戦へと駒を進めたチェコに立ちはだかる最後の相手は、初戦で大敗を喫したスペイン。残り1枠となったWBC本戦出場権を賭けた戦いは、両者一歩も譲らない緊張したゲームとなりました。チェコの先発投手のマーティン・シュナイダーは1回裏に1失点はするものの6回と1/3を完璧にスペイン打線をゼロで抑えます。打っては、2回表の攻撃でマーティン・ムジクが2ランホームランで逆転し好調の投手を援護。シュナイダーに代わって登板したマレク・ミナリクも無失点で相手を抑え込みました。チェコが初戦の屈辱を決勝戦で晴らし、3-1で見事勝利。決して大きい国でもなく、野球人口も少ないチェコが歴史的な一歩を刻んだ瞬間でした。
チェコ代表のスローガンは“Malá Země, Velké Sny(小さな国、大きな夢)”。
WBC優勝という大きな夢を掴み取るための切符は、とてもドラマチックな形で手に入ったのでした。

▼この快進撃は、チェコ野球連盟の公式YouTubeチャンネルでドキュメンタリー番組として公開されています。

優勝を狙う「欧州の獅子」たち

マレク・ミナリク投手は、米MLBでマイナーリーガーとしてプレーし、エクストラリーガのテンポ・プラハへ戻ってからは投打二刀流にチャレンジしており、2021年に奪三振数(139)、ホームラン数(14)でリーグ1位を獲得した、いわば「チェコの大谷翔平」。今回は投手として登録されていますが、打者目線に立った投球は相手打線を翻弄するに違いありません。

日本メディアでも注目されているマーティン・シュナイダー投手は日本の至宝・大谷翔平投手もびっくりの「三刀流」。普段はオロモウツ市で消防士として勤務している傍ら、投手・遊撃手もそつなくこなす名選手です。本職は「火消し」ですが、先発投手としてチームを支える投球を東京ドームで見せてくれます。

「チェコで一番メジャーに近い男」として知られるマーティン・セルベンカ捕手は、MLBのマイナーリーグで3Aまで昇格した実力者。WBC予選では4番に君臨し、打率は3割超えの活躍を見せました。チームの大黒柱として、打撃力を武器に相手チームを粉砕にかかります。


アメリカにルーツがある3名のうちの1人が、11年間MLBでプレーし昨年チェコ国籍を取得したエリック・ソガード内野手。MLB通算打率.246、26ホーマーのベテラン、通称”Nerd power(オタクパワー)”が、その一振りでチームに新鮮な風を吹かせてくれるでしょう。

本戦初出場とはいえ、目の前の試合を1つずつ勝ち抜いて“Velké Sny(大きな夢)”を掴み取る気持ちは、出場国の中でも抜きん出ているはず。チェコの国章には百獣の王ことライオンがあしらわれています。牙をむいた”Evropští Lvi(欧州の獅子たち)”が、世界を驚かせる活躍を見せることを期待しましょう!

チェコ代表チーム 今後の試合予定(3月11日現在)

First Round (Pool B) – 予選リーグ(グループB)@東京ドーム
3/10 チェコ共和国 VS. 中国 〇8-5 WIN!!
《WBCチェコ史上初の勝利!!》

3/11 チェコ共和国 VS. 日本(19:00~)
3/12 チェコ共和国 VS. 韓国(12:00~)
3/13 オーストラリアVS. チェコ共和国(12:00~)

Second Round: Quarterfinals – 準々決勝@東京ドーム
3/15 Pool Bの1位 VS. Pool Aの2位
3/16 Pool Aの1位 VS. Pool Bの2位

Championship Round: Semifinals – 準決勝@LoanDepot Park(マイアミ)
3/19 15日の勝者 VS. Pool C、Dの準々決勝(17日)の勝者
3/20 16日の勝者 VS. Pool C、Dの準々決勝(18日)の勝者

Championship Round: Finals – 決勝@LoanDepot Park(マイアミ)
3/21 19日の勝者 VS. 20日の勝者

※チェコ国内ではČeská televize(チェコテレビ、国営放送)のスポーツチャンネルでおそらく史上初めての全国中継予定

参考:https://extraliga.baseball.cz/
https://www.instagram.com/baseballczech/
https://twitter.com/BaseballCzech

https://www.mlb.com/gameday/czech-republic-vs-spain/2022/09/21/718884/final/box
https://www.wbsc.org/en/news/mlb-veteran-eric-sogard-acquires-czech-citizenship
https://www.mlb.com/news/featured/history-of-baseball-in-czech-republic
https://www.wbsc.org/en/news/federation-focus-world-no-14-czechia-has-one-of-the-top-baseball-programs-in-europe

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