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ごちそうさまでした

高森美由紀 著『山のふもとのブレイクタイム』(中央公論新社)

電子化の流れは着実に広がってきているとは思いますが、本屋さんに行くと、いまだにどんどん新しい本が出ていているなと感じます。
目的なくふらっと立ち寄って「おっ」となったものを手に取るのも好きなんですけど、そういう時間も取れないという時には毎月購読している「ダヴィンチ」さんにお世話になっています。
テーマに沿った本を紹介していたり、編集者さんのおすすめが紹介されたりと面白そうな本にたくさん出会えます。今回の一冊も「ダヴィンチ」で紹介されていたものです。

~簡単なあらすじ~
青森県のとある山のふもとにあるレストラン。料理に自信のあるイケメンシェフ登磨がお客さんやスタッフなどと、おいしい料理を通して関わっていく。

春夏秋冬それぞれの季節で章立てされていて、それぞれの章のはじめには、季節ごとに変わっていくレストランのメニューが書かれています。
各章で登磨が登場人物たちに料理をふるまっていくんですが、どれもとてもおいしそうで、作家さんの表現力の高さに感動しました。

「食べる」という行為も時代の変化とともに随分と変わっていったんだなとこの本を読んで思いました。
「生きる」ために「食べる」のは当たり前な所があるとして、それ以上をどこまで感じられているか…。あまり意識できてなかったような気がします。
この本の中では料理は常に対面で提供されます。料理を出す相手に合わせて味付けや具材を変える様子が描かれていて、とても暖かい雰囲気が漂います。
大量生産・大量消費の時代になって、作る人・食べる人がお互いに見えない状態が多くなりました。作る人は食べる人がどんな人かわからないので、不特定多数にうけるような均質的な味になり、食べる人も食べなれた味を安く早く求めるようになってきている時代なのかなと思います。
次第に「食べる」ことが目的になっていて、「何のために食べる」かが見えにくくなっているような状況で、この本を読むと何とも言えない「憧れ」のようなものが溢れてきます。

昔オープンキッチンのお店でアルバイトしてたことがあるので、その時のことを少し懐かしく思いながら、自分でも作ってみようかなーと想像を巧みな表現で彩られた料理の想像を膨らませながら読ませていただきました。

登場人物の背景が少し見え隠れする点があって、「これは続編があるな。」と思っていたら、実は今作が「山のふもとのランチタイム」という作品の続編であることが巻末で判明…低くなった分と同じ高さの標高に積読の山は成長していきそうです。


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