「ロマンチックが足りない」
「じゃあ、あたしと別れるってこと」
カノジョはボクにそうたずねて、返事のないのを理解し口を閉ざした。
切っ掛けは些細な事だった。
カノジョの言動のひとつが、チクリと胸を刺したのだ。
「こんなんでロマンチックになれるなんて、馬鹿みたいだよね?」
ボクはこの月を、夜の匂いを、空に輝く星を、キミといるこの瞬間を何より愛おしいと思っていた。満ち足りていて、それ以上など無かった。
だのに、なんだってキミは、そんな顔をしているんだ。
ボクは深い悲しみの海に溺れて、やがては海面に上昇することすら出来なくなった。
「ぜんぶキミのせいだ。」
なんて、意味不明な言葉を投げつけてみる。これが最初で最後の、ボクのアタックだった。
「馬鹿みたい。」
カノジョは煙草のケムリをふーっ、と吐いて、月を見上げる。
「ほら、こんなんじゃ、ちっとも埋まらないや。」
end
2021/12/18 03:26 白樺ささみ
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