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好きになるシリーズ 立ち上げ話 2


講談社サイエンティフィクには医療系向けの入門書「好きになるシリーズ」があります。シリーズ誕生のきっかけは、担当編集者の「生物学」は面白い!という気持ちからでした。
https://note.com/kspub/n/nd71c90d04faf

引き続き、『好きになる生物学』の話をしていきたいと思います。

『くまにもわかる生物学』

ご執筆をお願いした吉田邦久先生から、はじめてお原稿を受け取ったとき、「あれ…?」という違和感がありました。
 「あまり面白さが伝わってこない……」それが第一印象でした。どうすればいいのか、考えて、先生と相談して「まえがき」に書いていただいたように「くまにもわかる生物学」というコンセプトが生まれました。

まえがき

 この本を書くにあたって、どんな人に読んでもらうかについて考えました。まず頭に浮かんだのは、昨今、医学部に入学した学生の多くが高校で生物を学んできていないので、先生方がお困りだということでした。医学部では、そのような学生にも生物学の基礎を教えるようなのですが、どうしても「後遺症」が残るということです。そこで、先生方の考える「基礎」と学生が必要としている「基礎」との間に大きなギャップがあるのではないか、そこを橋渡しするのが、この本の役割ではないかと考えました。
 でも、ぼくは、生物学は理系の学生だけでなく、文系の学生にも学んでおいてほしい科目だと常日頃思っていました。というのは、たとえば、セクハラの問題を考えるときにも、異文化を考えるときにも、生物学の知識があるのとないのとでは大違いだと思うからです。だから、医学部学生だけでなく、すべての大学生や一般市民も対象にすることにしました。
 次にどのように説明すれば好きになってもらえるかを考えました。ぼくは童話が好きです。自分の子どもが大人になった今でも、童話を買ってしまうことがあります。したがって、童話風にというのが一つのヒントでした。しかし、生物学の多くの内容を、レベルをあまり下げずに、童話風にといっても、それは至難の業です。書き始めたのですがどうもうまく行きません。そんなとき、編集の国友さんから、「くま(熊)を登場させましょう。それと、各章を月として一年で終わるという設定にしましょう」という提案がありました。突拍子もない提案に思えて、最初はまごついたのですが、これで構想がはっきりしました。『くまにもわかる生物学』を書くのだと。くまと対話しながら物語風にということで書き直してみましたら、ずいぶん書きやすく、わかりやすくなりました。そして、書き進めながら、ぼく自身十分楽しませていただきました。
 この機会を与えていただいた講談社サイエンティフィクの国友奈緒美さんとスタッフのみなさんに謝意を表したいと思います。また、教え子の一人で、今回もくまになった気持ちでいろいろ質問していただき、十数枚のイラストまで描いていただいた浜島央さんにも深く感謝いたします。
2001年10月
吉田 邦久

『好きになる生物学』(2001年)まえがきより

12か月の講義形式の構成

『くまにもわかる生物学』のコンセプトが決まったら、次は『くま』と『先生』をどう活かした構成にしていくかということでした。
そこで、アイデアのきっかけとなったのが以下の2冊です。

各章を月として、一年で終わる設定というのは、
『園芸家12カ月』(カレル チャペック (著), Karel Capek (原名), 小松 太郎 (翻訳))を参考に思いついたように覚えています。
https://www.amazon.co.jp/dp/4122069300

講義形式という設定には、
『ゆかいな生物学―ファーンズワース教授の講義ノート』(フランク・H. ヘプナー (著),  黒田 玲子 (翻訳)、朝倉書店)が参考になりました。https://www.amazon.co.jp/dp/4254170939

この『ゆかいな生物学』は、臨場感あふれる講義形式で、読んでいてわくわくしました。この本以上の生物学の入門書を作りたいと思った記憶があります。
参考にしたといっても、実際『好きになる生物学』は、くまを大学の教室に座らせるようなことはしないで、くまが先生の家に居候するという設定で、日々の暮らしの中で生物学を教えるという筋書きにしました。

1月 初夢――――――――目で見えるもの、見えないもの
2月 節分――――――――細胞から個体へ
3月 焼き芋―――――――変わらずに変わる
4月 桜の開花――――――情報を伝達する
5月 花粉症―――――――免疫 からだの防衛のしくみ
6月 ジューンブライド―――性と生殖
7月 アイスクリーム――――生命の旅立ち
8月 花火大会――――――遺伝のしくみ
9月 台風――――――――遺伝子の正体
10月 大地の恵み――――植物の生きかた
11月 紅葉―――――――地球生物圏は存続し得るか
12月 クリスマス―――――生物の多様性と進化

『好きになる生物学』(2001年)目次より

月ごとに、章の内容と合わせながら季節に合わせた章タイトルを付けたのですが、うまく合っていたのか、微妙な月もあります。3月に焼き芋はおかしいという指摘も受けました。
章扉にも季節感のあるイラストを入れました。

1章(1月)の章扉

次回は、『好きになる生物学』の締めとして、打ち合わせによく使ったお茶の水の「談話室 滝沢」について、お話していきたいと思います。




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