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好きになるシリーズ 立ち上げ話など

講談社サイエンティフィクには医療系向けの入門書「好きになるシリーズ」があります。
2001年11月に最初の2冊『好きになる免疫学』と『好きになる生物学』を刊行し、その後、生理学、解剖学、病理学…と、ラインナップを揃えてきました。現在は改訂版を出したりしながら、23点が流通しています。
https://www.kspub.co.jp/book/series/S070.html

最初の2冊

好きになるシリーズとは

「ヒトとからだ」というテーマで、医療系の学生に向けて「ぶ厚い成書を読む前に、まずはこの1冊を読んで、その教科を好きになってほしい、その教科の面白さをわかってほしい」という願いをもって編集されています。キャッチフレーズは「わかるから好きになる、面白いから好きになる、旬の話題で好きになる」です。

 シリーズ初期のコンセプトを箇条書きにすると

  • 著者はなるべく一人にお願いし、その先生の個性を出していただく

  • なぜその科目が嫌われるのかを考え、好きにさせるような工夫をする

  • 生きている自分と、その教科とのつながりを感じさせる内容にする

  • 暗記重視ではなく、概念を理解させる

  • レベルはその教科を初めて学ぶ人を対象とする

  • 学校の授業やテストで「わかった」と実感できるよう学習上のポイントも明示する

さまざまなキャラクター

 好きになってもらう工夫として、書籍ごとに特徴的なキャラクターに登場してもらっています。
たとえば、

  • 好きになる生物学⇒「くま」(医者を目指して、森から街にやってきた)

  • 好きになる免疫学⇒マクロファージやB細胞、T細胞をマンガ化

  • 好きになる生理学⇒著者の家族をまねた「田中家」のメンバーと4コマ漫画

  • 好きになる解剖学⇒解剖学教室の助手としての「カエル」

  • 好きになる救急医学⇒著者の先生の愛犬「ベルちゃん」

  • 好きになる精神医学⇒人工知能の「脳太郎」

などです。

2022年にフェア企画をたてた時の手作りPOP。
今は創刊21周年。

注目されて、シリーズ化へ

さて、最初の2冊を刊行した当時(約20年前)は、「からだに関する科目」をわかりやすく解説した本というのは、ほとんどなかったので、注目されて多くの方々に読んでいただくことができました。表紙のデザインも斬新だったと思います。
発売直後、ジュンク堂池袋店の1階で2冊が面陳されるという夢のような出来事もありました。

著者探しは恩師から

さて、このシリーズの、最初の企画立案は『好きになる生物学』から始まりました。(ちなみに現在は、改訂されて『好きになる生物学 第2版』となっています)
 講談社サイエンティフィクは理系出身の編集者がほとんどで、私も大学入試は理系で入ったのですが、高校時代は完全なる文系でした。理系の同級生が「ベンゼン環が……」と頻繁に言っていたのを聞いては、「ベンゼン環」を試験管の一種だと思っていました。

ベンゼン環と試験管


 そんな私が、浪人生活を送ることになり、共通一次(当時)の点数をあげるには、理系科目を強化することが必要だと思い、駿台予備校の理系コースに入学しました。そして、場違いな雰囲気のなかで、唯一「すんなり理解できる」と思えたのが、当時駿台予備校生物科主任でいらした吉田邦久先生の生物の授業でした。
 生物は暗記だ!と言っている人がいますが、そうでもないように思います。確かに覚えるべき用語は多いですが、それは生物や生命の世界を考えるために必要な言葉であって、用語を覚えることが目的ではないと思っています。
 さて、入社して(私は中途入社でした)、本の「企画」立案に励んでいく中で、「医学部入学者が高校で生物を履修していないケースが多く、授業の進行に支障をきたしている」というニュースが目に留まりました。医療系を目指す学生がなぜ生物学を選択してこないのか、不思議でなりませんでした。生物学は、自分の体や命を知るための基礎となる学問だと思っていたからです。「医療系の学生のために、生物学の面白さを伝える本」、そんな企画コンセプトを考えました。そして著者として真っ先に思い浮かんだのが、予備校時代の恩師、吉田先生でした。
 まずは、『好きになる生物学』の誕生秘話から始めていこうと思います。 
 先生と打ち合わせでよく利用したのが、お茶の水の「談話室滝沢」でした。
(以下、続く。不定期掲載)。


『好きになる生物学』編集中の校正紙。
今思うと、5月に「花粉症」のタイトルを付けたのは、ズレている気がする。


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