見出し画像

長谷川さんがご紹介の創薬事例は、本当にすごいことです!

長谷川 一英 さんが『常識にとらわれることなくチャレンジすることで生まれる画期的新薬』で、バイオテクノロジーで作った抗体と合成化学で作った抗がん剤を結合させた「抗体薬物複合体(ADC)」の創薬事例を紹介していらっしゃいます。これは、近年の創薬トレンドを考えると、もの凄い賭けに出て成功を収めた事例であると考えます

日本の医薬品メーカーは合成化学で新薬を創り出す(創薬する)技術に秀でていました。合成化学による医薬品は、低分子医薬品と呼ばれています。
ところが、2010年代以降はバイオテクノロジーで創薬する技術が本格化してきました。バイオテクノロジーによる医薬品はバイオ医薬品と呼ばれています。

バイオ医薬品の台頭

長谷川さんがご指摘のように、今でも合成化学は創薬の主流技術であり続けています。

合成化学は、創薬技術としては最も古いものです。一方、最近は、バイオテクノロジーを使った抗体医薬などの新しいタイプの医薬品が開発され、がんなどの疾患に効果をあげています。そのため、「レトロ」という表現になっていると思います。しかし、2020年時点で世界で開発されていた医薬品の50%以上は、合成化学で作られる低分子化合物であって(鍵井英之「次世代創薬基盤技術の導入と構築に関する研究」)、まだまだ現役と言っていいと思います。〔長谷川さんの『常識にとらわれることなくチャレンジすることで生まれる画期的新薬』から引用、太字部は楠瀬が太字化〕

しかし、売上高では、バイオ医薬品が上位を独占するようになってきました。次の図表はデータが少し古いのですが、1990年代には世界売り上げ上位10品目中にバイオ医薬品は2品目しかなかったのが、2010年には上位10品目にうち8品目をバイオ医薬品が占めるようになりました。

バイオ医薬品の席巻

製薬業界では、全世界での年間売上高が1,000億円または10億円を超える医薬品をブロックバスターと呼びます。日本でも小野薬品工業がバイオテクノロジーで創薬した、がん免疫治療薬の「オプジーボ」がブロックバスターの仲間入りをしています。

バイオ医薬品が世界の医薬品市場を席巻するのを見て、日本の製薬業界でも、一部で「バイオでなければ、もう駄目だ」というような雰囲気も生まれてきました。巨額を投じてバイオ医薬品に強い海外の医薬品メーカーを買収した企業もあります。

このような流れの中で、第一三共は「伝家の宝刀」である合成化学の技術と新しいバイオテクノロジーを組み合わせて画期的な新薬を創薬することに成功したのです。

当時は、がん免疫治療薬の開発に多くの興味が集まっており、そんな状況でADCの研究を行うことを疑問に思った人も多かったようです。「人の行く裏に道あり花の山」とADC研究を推進し、ワーキングチームは正式な組織になりました。〔長谷川さんの『常識にとらわれることなくチャレンジすることで生まれる画期的新薬』から引用、太字部は楠瀬が太字化〕

「人の行く裏に道あり花の山」とは、実に言いえて妙だと思います。
しかし、この裏道は茨の道でした。

2013年に最初の候補(後のエンハーツ)ができたものの、今度は、製造コストがかかりすぎるのではといった反対意見がでました。抗体医薬単体でもかなりの製造コストがかかります。そこに別の物質をつけるとなると、このような意見が出るのもしかたないことでしょう。
また、通常、がん治療薬の臨床試験は、インフラ整備が整っている米国で先行していました。しかし、米国のメンバーは、以前ADCの開発に失敗しており前向きではありませんでした。
〔長谷川さんの『常識にとらわれることなくチャレンジすることで生まれる画期的新薬』から引用〕

しかし、開発チームはこの茨の道を粘り強く歩み通して花の山に到達します。

これら逆風が吹き荒れる中でも、チームのメンバーは、常識にとらわれることなく取り組み、臨床試験も日本で先行させることにしました。
〔長谷川さんの『常識にとらわれることなくチャレンジすることで生まれる画期的新薬』から引用、太字部は楠瀬が太字化〕

常識にとらわれなかっただけでも大変革なのに、その上吹き荒れる逆風に負けずに創薬を達成したことは偉業であると考えます。

長谷川さんは、次のようにおっしゃっています。

創薬技術が多様化する中で、どの技術に注力するかは、それぞれの製薬企業の腕のみせどころです。しかし大事なことは、このコンセプトはうまくいかないといった常識にとらわれないこと。そして、自分達の研究のデータや、臨床現場でのニーズをよく観察して、最も適した治療法を選ぶ直観力と果敢に挑戦する覚悟だと思います。〔長谷川さんの『常識にとらわれることなくチャレンジすることで生まれる画期的新薬』から引用、太字部は楠瀬が太字化〕

これからも日本発の画期的な新薬が次々と登場することを、私は楽しみにしています。


ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。


『長谷川さんがご紹介の創薬事例は、本当にすごいことです!』おわり



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?