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対話が切り拓く共創の世界

山田 晃義 さん、長谷川 一英 さんの記事に触発されての投稿です。私が《事物を捉える見方と見えたものの解釈の仕方》は、私の経験に縛られている。同じことがあなたにも言える。このように見方と解釈の仕方が異なるあなたと私が対話することで、それぞれの縛りが解け、そこに新しい見方と解釈が生まれてくることが期待できます。

1.「建設的対話」と《第三の見方・解釈の仕方》

この記事の中で、山田さんは 能平 美香『リフレクション』から、対話の定義を引用しています。

自己を内省(リフレクション)し、評価判断を保留にして、他者と共感する聴き方と話し方である〔出典:『認知の4点セットを活用した対話から学ぶ建設的合意』、太字部は楠瀬が太字化〕

価値判断を保留して」とは、自分の経験という縛りのかかった解釈の仕方をいったん脇に置いてということです。これがないと、私とあなたが向き合う場はお互いの意見を戦わせ勝ち負けを競う「議論」の場になってしまい、そこから新しいものは生まれてきません。

山田さんは、『「建設的対話」とは何か?』では、対話を次のように定義しています。

もう少し詳しく対話というものを見に行くと、会話と対話の違いについて株式会社ソフィアの古川さんの記事では対話はお互いの立場や意見の違いを理解し、そのずれをすりあわせることを目的に行うものと定義されています。
〔出典:『太字部は、楠瀬が太字化〕

ソフィア古川さんの記事はこちら:

ここでのポイントは、「すり合わせる」という表現です。

つまり、対話は《あなたと私は違う人間》という前提の上で違いをすり合わせることで、《あなたの見方・解釈の仕方》でも《私の見方・解釈の仕方》でもない《第三の見方・解釈の仕方》を探索することなのです。

やや強引な結び付け方かもしれませんが、私が《第三の見方・解釈の仕方》を探索する対話と考えているものは、山田さんが「建設的対話」と言うものとほぼ同じであると考えています。

山田さんの「建設的対話」の定義を引用します。

互いの意見や価値観は異なることを前提とし、その違いを受け入れあいながら目的に照らして、Win-Winとなる合意形成を紡ぎだそうとするコミュニケーション〔出典:『建設的対話』とは何か?』、太字部は楠瀬が太字化〕

ここでのポイントは「目的に照らして」です。「対話」を重ねることで相互理解を深めることができますが、ビジネスでの「対話」は実務上の方向性を探索するものでもあります。方向性を探るためには、対話する人間の間で目的が共有されている必要があるのです。

ここまでは、山田 晃義 さんの意見を参照しつつ、人間と人間の対話について考えてきました。

では、対話が成立するのは、人間と人間の間だけなのでしょうか?
この問いに対する答えが 長谷川 一英 さんの記事『「Unexpected expectations(予期せぬ期待)」AIとの共創による新たな発見』の中にあります。

2.人間とAIの対話

長谷川さんは、2022年4月9日から5月8日にかけて京都市内各所で開催された「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2022」の「Ruinart Japan Award」受賞作が、人間とAIのコラボが生み出したものであることを紹介しています。

この作品が生まれた経緯を、受賞者の鷹巣 由佳 さん自身が次のように紹介しています。

世界各国で電話帳がイエローページと呼ばれ黄色の紙に印刷されていることに着目し、自身のGoogle Photos に格納した画像を検索する際に、画像の名前の代わりに「黄色」と検索した。するとGoogleが黄色と判断した画像が、自身では黄色とは思っていなかった色もヒットしたことから、Googleのロゴカラーである黄赤青緑白で写真を検索し、写真を色ごとに分類。辞書のように編纂し重厚なサイズの5冊の本に仕上げた作品が受賞作品となった。
〔出典:下記のサイト、太字部は楠瀬が太字化〕

長谷川さんは、鷹巣 さんの創作プロセスについて、次のように述べています。

人間が写真集を創ろうとすると、全体のストーリーを考えてキュレーションしてしまいますが、それだと網羅性が失われてしまいます。AIを介することで「Yellow Pages」のコンセプトが表現できるのです。
〔出典:『「Unexpected expectations(予期せぬ予期)」AIとの共創による新たな発見』、太字部は楠瀬が太字化〕

つまり、《人間の見方・解釈の仕方》と《AIの見方・解釈の仕方》がすり合わされることで、人間が予期した範囲を突き抜けた作品が生まれたということです。

これは、山田 晃義 さんの言葉を借りれば、人間とAIが「建設的対話」を行い、人間だけでもAIだけでも生み出すことのできなかった《第三の世界》を生み出したことであると、私は考えます。


3.「シンギュラリティ」後の人間とAIの共生


「シンギュラリティ」は、人工知能(AI)が人類の知能を超える転換点(技術的特異点)であり、それがいずれやってくることは確実視されています。

「シンギュラリティ」以降は、人間がこれまで行ってきたことは、すべてAIが行うことができるようになり、地球上に人間の居場所がなくなる。そのようなディストピアが語られることもあります。

しかし、長谷川さんは、作家ダン・ブラウンの言葉を借りて、「シンギュラリティ」以降も人間には人間の居場所があると言います。

AIはパワフルな技術で、人類の知能を上回るだろうと思います。私たちにとって未知のシンギュラリティ(技術的特異点)です。その時、私たちはAIの奴隷になってしまうのでしょうか? 人類はAIを制御できると、私は信じています。人間の創造力と愛する力を信頼し、画期的なテクノロジーが人類に豊かさをもたらすと。私はAIの未来において、楽観主義者なんです
〔出典:AIは人類を超える? ダン・ブラウンが語る最新作「オリジン」〕

長谷川さんは、自らの言葉で次のように続けます。

人間が判断しようとすると先入観に囚われたり、好き嫌いの感情が左右したりとバイアスがかかって、大事なことを見逃してしまうこともあります。AIを活用することで、鷹巣さんのように、新たな発見につなげられるようにしていきたいものです。〔出典:『「Unexpected expectations(予期せぬ予期)」AIとの共創による新たな発見』、太字部は楠瀬が太字化〕

ここで長谷川さんがバイアスといっているものは、《個人の見方・解釈の仕方に対する経験の縛り》であると、私は考えます。

そして、私は、AIが人間の他者と同じように、個人を経験の縛りから解き放ってくれるとも、考えています。

長谷川さんは、『「Unexpected expectations(予期せぬ予期)」 AIとの共創による新たな発見』 を次のように締めくくっています。

人間独自の力と、AIの先入観なく判断する力をうまく融合させて、Unexpected expectations、思いもよらぬ新しい発見がもたらされる、そんな共創の場を構築していければと思います。そして、鷹巣さんの作品のようなAIとの共創の事例が蓄積し、それらを集めた「Yellow Pages」が編纂されることを楽しみにしています。〔出典:『「Unexpected expectations(予期せぬ予期)」AIとの共創による新たな発見』、太字部は楠瀬が太字化〕

私も、長谷川さんと同じように人間とAIが共生し共創する未来を楽しみにしています。

対話についてさらに興味のある方は、対話についての  江頭 春可 さん、GAVIさん、石黒 太一  さんの論考を紹介したこちらの記事も是非ご一読ください。


ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

『対話と共創』おわり




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