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組織を作り込み過ぎないこと

「業務と組織と人材をフィットさせる」ことが組織の設計・構築の原点です。そこに立ち返ると、ピラミッド型組織もネットワーク型組織も、それぞれに有効な場面があると言えます。しかし、どちらを採用するにしても、決して忘れてはならない注意点があります。それは、《組織を作り込み過ぎないこと》です。

1.《作り込み過ぎ》とは?―製品を例に考える

 
 組織は大がかりで複雑なシステムです。ですから、はじめから組織を相手に「《作り込み過ぎ》とはなんぞや?」と考えると、厄介です。そこで、入り口として、製品の《作り込み過ぎ》の状態をみていきます。

 下の図は、製品の構造の2つの基本形を示したものです。

タイトと緩やか

 《タイトに作り込まれた製品》は、特定顧客の特定ニーズにぴたっとマッチするよう最適化されています。ですから、このニーズを満足させることにおいては、《ゆるやかな作りの製品》に勝ち目はありません。

 しかし、顧客が同じでも、そのニーズが変わると、それに合わせて個々の部品レベルから作り込み直す必要があるので、変化への対応が遅れます

 これに対して、《ゆるやかな作りの製品》は、モジュールを構成する部品を変えたり、場合によってはモジュールをまるごと入れ替えることで変化に素早く対応できます。また、性能を上げる必要があるときも、モジュールの追加で対応できてしまうことが多いのです。

 つまり、顧客とニーズが比較的固定している静的(スタティックな)環境では《タイトに作り込まれた製品》に軍配が上がるが、顧客の入れ替わりが激しくニーズも流動的な動的(ダイナミックな)環境では《ゆるやかな作りの製品》に軍配が上がることになります。

 ですから、製品をタイトに作り込み過ぎると、その製品を設計したと時点で存在したニーズにがんじがらめにされ身動きとれない結果になりがちなのです。

2.《作り込みすぎ》とはー企業組織の場合


 製品の場合の「製品」を「組織」に、「特定顧客の特定ニーズ」を「担当事業」に、そして「部品」を「職務」に置き換えると、組織にも《タイトに作り込まれた組織》と《ゆるやかな作りの組織》があることが見えてきます。

 ここで、《タイトに作り込まれた組織》の一例として、世界のファストファッション業界でトップランナーであり続けているZARAの組織をみてみましょう。

ZARAマジック

 ZARAは、多品種少量の製品を店頭に並べ、来店客に人気のある商品を作り足して素早く店舗に届けるビジネスをしています。また、店長が街をゆく人たちのファッションを観察して企画・デザイン部署に伝えてそのテイストの製品を製造ラインに追加させるシステムも備えています。

 ZARAは、このビジネススタイルに合わせて、組織を綿密に作り込んでいます。社内の各部署の連携は次のような円環状に描くこともでき、この円がつねに高速回転しているのがZARAの組織です。

ZARAの高速回転モデル

 自社のビジネススタイルに合わせてタイトに作り込まれたZARAの組織ですが、今までのところ、このタイトさがZARAの事業の足かせになったことはありません。この組織はZARAの強みとして機能し続けています。

 それには、次の2の理由があります。

 第1に、季節の変化に合わせながら、その時々の世の中の流行にマッチした服を着たいという人々のニーズが安定しているからです。

 第2に、ファッションの世界では電機・通信・コンピュータの世界で起こったようなドラスティックな技術革新が起きていないからです。

 もし世界中から季節の変化がなくなったら、もし人々がお洒落への関心をなくしたら、あるいは、技術革新の結果、生地を縫製しなくても3Dプリンターで衣類が作れるようになったら

 このような劇的変化に、従来のファッションの常識と衣料品の作り方に合わせて作り込まれたZARAの組織が対応していくことは、ほぼ不可能でしょう。(ZARAは季節変動の小さい地域でも事業展開していますが、事業の中心地は季節変動の大きいヨーロッパ市場です)

3.技術と社会の激変期における企業組織のあり方

 私たちは、今、社会と技術の激変期を生きています。

 IoTの進展がビジネスの形だけでなく、私たちの働き方まで変えようとしています。リモートワークや行政手続きの電子化など、コロナ禍を契機に一気に広まった変化は、実は、コロナ禍の前から道具立てがそろっていたものばかりです。

 変化を嫌う人間の性質(さが)から、人々が新しい道具を使うのをためらっていた。そこにコロナが襲ってきて、道具を使わざるを得なくなった。使ってみたら役に立つことが立証された。それが実態だと思っています。

 SDGsという人類の新しい課題が明確になったことも、私たちの暮らしとビジネスを大きく変えようとしています。脱炭素化のためにガソリン車から電気自動車への移行が加速していることも、その1つです。
 
 脱炭素化は、自動車にとどまらず、石油を燃料としてきた全ての輸送機械を変化させるだけでなく、エネルギー産業にも激変をもたらすに違いありません。

 このような激変期に、《いま、目の前》の事業に合わせて組織を作り込み過ぎると、組織が変化に取り残されるとい大きなリスクを産みます
 
《いま、目の前に事業》に十分に対処しつつ、起こりうる変化に柔軟に対応するための《ゆるさ》を残した組織づくりが今の時代には欠かせないのです。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

ZARAぼビジネススタイルとその組織については、こちらでも取り上げています。

『組織を作り込み過ぎないこと』終わり



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