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日本式ピラミッド型組織は、「持続的イノベーション」に強かった(後編)

次の2つの論考に触発された投稿の後編です。
*GAVIさんの組織とイノベーションに関するノート記事(2022.4.10)
*清水洋『野生化するイノベーション』(新潮選書)

前回はこちらです⇒

4.清水洋『野生化するイノベーション』の論点

 
 清水洋『野生化するイノベーション』イノベーションの本質とその社会的影響を広く考究したもので、イノベーション研究で最も権威ある賞の一つ「シュンペーター賞」(イノベーション研究の国際学会 The Inter-national Schumpeter Society が主催)を受賞しています。
  


 『野生化するイノベーション』は、日本企業は「累積的イノベーション」を続けて技術の高い水準を達成する傾向が強いと指摘しています。次の図のようなイメージです(同書に掲載の図を基に楠瀬が作成)前編で触れたブラウン管テレビは、日本企業のこの傾向を体現した製品です。

日本メーカーは「持続的イノベーション」に強い


 一方、米国企業に見られる傾向を示したのが青色のカーブです。技術がまだ未成熟な段階で、その技術を持って社員が会社を出て独立してしまうことを示しています。

 そういう社員が狙うのは、未成熟の技術を応用できる別の市場です。その市場が将来拡大していくことを見込んで、早期に参入して先行者利益を得ようとするのです。

 このことに関連して、清水洋『野生化するイノベーション』は、次のように指摘しています。「ラディカルなイノベーション」は、「破壊的イノベーション」の言い換え、「累積的な改良」は「持続的イノベーション」の言い換えです。

ラディカルなイノベーションのオリジナルは欧米が多く、その後、日本企業が累積的な改良を重ねていったケースが多いのです。
清水洋『野生化するイノベーション』(新潮選書)P155 

 つまり、日米の間には、新技術の育て方について、次のような違いがあるのです。

新技術の育て方の日米比較

 日本とアメリカの新技術の育て方については、上記の他にも、基礎研究への投資と基礎研究の商業化についても大きな違いがありますが、これについては、この論考では割愛します。


5.「メンバーシップ型雇用」と「持続的イノベーション」の親和性


 メンバーシップ型雇用の特徴として、次の4点を挙げることができます。

メンバーシップ型雇用の特徴

 これらの特徴は、「持続的イノベーション」と極めて親和性が高いものです。
 
 長期雇用のもとで、技術者は若くして配属された技術分野ひと筋で幹部社員まで昇り詰めることが可能です。

 企業は社員の担当職務を自由に決められるので、優秀な技術者を特定の技術分野に囲い込むことができます。それに対して、

 異なる職務についている社員の間で協力関係が生まれやすいことは、技術の分野では、開発・設計・製造の技術者がお互いの仕事を擦り合わせて技術改良を進めやすいことを意味します。

 以上のことから、日本企業のピラミッド型組織が社員同士の自発的な協力関係に期待した柔構造であることが分かります。

日本式ピラミッド型組織正

 アメリカ企業のピラミッド型組織は職務記述書が個々の社員の業務範囲を明確に線引きしていて、境界線を越えた横の連携には期待しない剛構造をしています。

剛構造のピラミッド型組織

 日本メーカーの製造現場では、組織図の上では職務が異なるが同一の工程の各部分を担う社員たちが集まって工程の改善に取り組む「小集団活動」(別名QCサークル)が活発でした。

 この「小集団活動」が日本の製造現場のアメリカの製造現場に対する優位性につながっていたと言われています。

 「小集団活動」は、日本メーカーのピラミッド型組織が社員同士の横の連携を許す柔構造をしていたからこそ、可能だった活動であると考えます。

6.日本企業の新たな課題

 現在、日本企業は、「持続的イノベーション」だけでは、グローバル競争で優位に立てない状況に直面しています。

 日本企業は、欧米発の新技術に「持続的イノベーション」を加え続けることで競争優位を獲得していました。ただし、「持続的イノベーション」が高い技術水準を達成するには一定の時間が必要です。

 しかし、産業のデジタル化、特にIoTが進んだことで、新技術が登場するスピードが過去に比べて格段に速くなっています。そのため、日本企業がコツコツと「持続的イノベーション」を積み重ねている間に、その技術にとって代わる技術が次々と登場してくるため、「持続的イノベーション」で競争優位を獲得する時間の余裕がない状況が生まれてきたのです。

 したがって、日本企業の課題は短期間で連続的に「破壊的イノベーション」を産み出す能力を高めることです。

 私は、日本メーカーの製造現場は、これからも柔構造のピラミッド型組織を維持することが望ましいと考えています。製造現場が安定性、効率性、高い品質を維持するうえで、縦方向の統制は避けて通れないと考えるからです。

 しかし、営業・開発・設計においては、ピラミッド型組織からネットワーク型組織に移行する、ないしは、ネットワーク型組織の性格を強めていくことが必要だと考えています。「破壊的イノベーション」を産み出すためには縦の統制に縛られずに横の連携が自発的・創発的に変化を起こしていくことが不可欠だと考えるからです。

 これを簡略なイメージにして示すと、次の図のようになります。

ネットワーク型組織/日本企業の新しい課題

 これからの日本企業は、柔構造のピラミッド型組織とネットワーク型組織のハイブリッド型組織を目指していくべきだと考えます。

 ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。


《日本式ピラミッド型組織は持続的イノベーションに強かった(後編)》
おわり



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