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2022年 UIデザイナーが読んで良かった本 9冊

UIデザイナーのkassyです。今回も自分が2022年に読んで良かったデザイン関連の本を中心に紹介したいと思います。気になる本があったら、ぜひどうぞ!

前回書いた記事もよかったらぜひご覧ください。


1.『ザ・ダークパターン』

デザインの力を悪用したダークパターンの事例を体系的に整理した本。

皆さんもECサイトで購入したらいつのまにかメルマガ登録も許可してしまっていたとか、宿泊予約サイトで「あと何人見てます」という表示に焦って慌てて予約してしまった…なんて経験があるんじゃないでしょうか??

そのような人を騙して通常ではとらない行動をさせるUIをこの本ではダークパターンと呼んでいます。

人間の行動メカニズムを悪用したダークパターンは近年UIデザイン界隈でも言及されるようになってきたのですが、一冊の本としてメインで取り上げられたのは初めてだと思います(これまでは行動経済学の知見をデザインにも活用しようというポジティブな文脈が多かった)

サクッと読んで明日から使おうというよりは、チームで輪読会をしたり、戒めとして折に触れて読み返すのが良さそうな一冊です。

▼ おすすめポイント
・ダークパターンの事例を網羅的に把握できる
・人間の行動メカニズムについても理解できる
・関連図書として『悲劇的なデザイン』もおすすめ

2.『秒で伝わる文章術』

文章術に関する本。その手の本は古今東西いろいろありますが、この本がユニークなのはその切り口です。コピーライターからキャリアをスタートし、現在はIT企業でUXライティングに携わるバックボーンを持つ著者による本書は、いわゆる「広告代理店の世界」にも「デジタルの世界」にも偏らずに伝わる文章とはなにか?を解説してくれています。

個人的に参考になったのはコピーライティングとUXライティングの違いについて解説している箇所です。それによると、

コピーライティング
・プロダクトを"利用前"の人に向けて記憶に残るような文章を書く

UXライティング
・プロダクトを"利用中"の人に向けて記憶に残らない文章を書く

という違いがあるそうです。詳しくはぜひ本を手にとっていただければと思いますが、この違いを明快に言語化できるのも両方のポジションで働いてきた経験があるからなんだろうなと思います。文章に関わる人すべてにオススメの一冊です。

▼ おすすめポイント
・伝わる文章のテクニックがわかる
・コピーとUXライティングの違いも分かる
・プライベートで書く文章の参考にもなる

3.『ファンダメンタルズ×テクニカル マーケティング Webマーケティングの成果を最大化する83の方法』

Webマーケティングとはなにか?について解説した骨太な本。学者やコンサル的なポジションの人ではなく、北の達人という事業を実際に展開している著者が書いていることもあり、経験則に裏打ちされた実践的な内容でした。

本書ではWebにおけるマーケティングプロセスを下記の2つに分け、それぞれごとに深堀りしていく流れとなっています。

ファンダメンタルズマーケティング
商品、競合、ユーザー情報から仮説や戦略を"立案していく"プロセス

テクニカルマーケティング
ファンダメンタルズで立てた仮説や戦略を"検証していく"プロセス

具体的なノウハウはぜひ本書を読んでいただきたいのですが、この本に書いてあることを実践する場合、それこそ『ダークパターン』で取り上げられたようなダークサイドに落ちないように注意が必要です。実際、本の中でも "マーケティングは、使い方によっては人の人生を狂わす手段にもなり得るのだ。消費者として、経済人として、そこのバランスを忘れてはいけない" と警告しています。

▼ おすすめポイント
・Webマーケティングに関する具体的なノウハウを得ることができる
・A/Bテストの進め方についても知見が得られる

4.『銀行とデザイン デザインを企業文化に浸透させるために』

三井住友銀行(以下、SMBC)のインハウスデザインチームが書いた本。自分も口座を持つユーザーの1人として興味深く読みました。

タイトルからは銀行という特定の業界の話のように感じますが、デザインを企業内に浸透させるためにはどう立ち回るとよいか?という視点で見ると銀行だけに限らず示唆を得られる本となっています。

また、SMBCのデザインシステムについてもページを割いて解説しているため、その文脈の参考図書としてもオススメです。

▼ おすすめポイント
・インハウスデザイナーの立ち回り方について示唆を得られる
・外部の制作会社との連携体制も参考になる
・デザインシステムの推進事例としても活用できる

5.『解像度を上げる』

解像度についてのスライドがSNSなどで大きな話題をよんだ著者の本。ビジネスでよくいわれる「解像度が高い」とはどういうことなのか?どうすれば高められるのか?について詳細に解説しています。自分も転職したてだったこともあり、とても参考になりました。

簡単に内容にも触れると、解像度を高めるためには「深さ」「広さ」「構造」「時間」の4つが大事であると著者はいいます。そしてまずは情報を深く知ることから勧めています。

ここでピンときた人もいるかもしれませんが、単なる自己啓発本ではなく、解像度を上げるリサーチはどのように進めればよいのか?というリサーチ文脈でも参考となる本になっています。そういう意味ではPdMやUXリサーチャーにもオススメだなと感じました。

残念なのが紙の本は本文の文字サイズが若干小さく、行間も詰まっていて読みづらい点。人によってはKindle版のほうが良いかもしれません。

▼ おすすめポイント
・解像度を上げるための具体的な進め方がわかる
・リサーチの進め方についても参考になる

6.『DMM.comを支えるデータ駆動戦略』

本自体は2020年に発売されたものです。タイトルにあまり惹かれず、このタイミングとなってしまったのですが、非常に有益な本でした。

DMMのビジネスモデルを具体例として、KPI設計、リーン・スタートアップ的な仮説検証、スクラム開発、A/Bテストによるデータ分析などの話が網羅的に展開されており、新規事業やスタートアップのPdMやデザイナーにはかなり参考になる一冊です。

元DMMのCTO(現在はLayerXのCTO)松本勇気さんがnoteで連載している『ソフトウェアと経営について』をベースに書かれている部分も多く、そちらの副読本として読むのにもオススメです。

▼ おすすめポイント
・データをどう活用して事業を推進させていけばいいかの知見が得られる
・アジャイルについて改めて考えることができる

・LayerX松本さんのマガジンを購入している人は副読本としておすすめ

7.『サイバースペースはなぜそう呼ばれるか』

こちらも本自体は2011年に発売されたものです。Web3.0の議論が盛り上がる中で改めてWebについて考えたいと思い、手にとった一冊になります。

この本ではまず、なぜ人々はWeb上に空間があると想像してしまうのか?という疑問から議論が始まります。物理的な場所なんて存在しないのに場所があるかのように喩えてしまう。それはなぜなのか、と。

この問いは"仮想空間"という言葉がメタバースなどの文脈でますます使われるようになってきている昨今、とても重要な問題提起だと思います。

そこを皮切りにウィリアム・ギブスン『ニューロマンサー』やラカン派精神分析などを遡上に載せつつ、核心に迫っていきます。書かれていることはけっして分かりやすくはありませんが、根源から考えたい人にはオススメです。

▼ おすすめポイント
・ポストモダン以降の情報環境について思想的な探索ができる
・この議論に興味がある人はゲンロンβ
21222735もおすすめ

8.『情報生産者になる』

元東京大学教授の上野千鶴子氏による本。パブリックイメージとしてフェミニズムの代表的な論者というイメージが強いですが、この本では情報を発信する側(すなわち情報生産者)にどうすればなれるか?を初歩から丁寧に解説してくれます。

個人的に参考になったのは定性調査について解説している箇所です。そこではインタビュー時の聞き方からKJ法を使った分類のやり方、さらには"うえの式質的分析法"という独自の分析方法についてのノウハウを惜しみなく披露してくれています。

これから研究者になろうとしている人に向けた記述も多いですが、それ以外の人が読んでも面白い一冊でした。

▼ おすすめポイント
・アカデミックな定性調査のやり方について知ることができる
・KJ法を発展させた"うえの式質的分析法"についても知ることができる

9.『新装版 Advertising is』

アートディレクター大貫卓也氏の過去の仕事をまとめた本。2017年に限定2,500部のみが出版され、以降長らく入手困難になっていましたが、内容を増補した新装版がついに出版されました。

2020年東京五輪のエンブレムのボツ案があったり、いまや伝説のとしまえんのポスターが収録されていたりと見どころは無数にありますが、個人的には各作品の間に挟み込まれる裏話的な解説が面白かったです(どれも長文で濃い!)。

大貫氏は今もなお第一線で活躍しているデザイナーであり、後続の佐藤可士和などにもたらした影響も計り知れません。そう考えると彼の活動の軌跡を追うことは、そのまま日本のコミュニケーションデザインの進化の歴史を追うことである、と言っても過言ではないと思います。値段も決して手に取りやすい価格ではないですが、オススメの一冊です。

▼ おすすめポイント
・大貫氏の膨大な過去の仕事をまとめて見られる
・ラフスケッチも大量に掲載されており、ラフの切り方など参考になる
・合間に語られるデザイン論や制作プロセスなどから刺激を受けられる

おわりに

以上、全9冊でした。

最後に取り上げた大貫氏の本ですが、実は時代ごとに3つに分かれる構成となっています。
・新しい表現を追い続けていた時代
・結果を出すことに徹していたビジネス時代
・表現に目的意識を強く求めた志の時代
という風に。

最後の志の時代を「ダークパターンに陥らずにデザインすること」と捉えるならば、実はこの変化は大貫氏個人の変化ではなく、もっと大きな時代の変化を先取りしているようにも思えてきます。

自分も引き続き真摯にデザインに向き合っていきたいと思います。

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