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【書評】Becoming (著)Michelle Obama (2018年11月13日発刊)

第44代アメリカ合衆国大統領バラク・オバマの奥様で、アメリカ合衆国史上初のアフリカ系アメリカ人のファーストレディである、ミシェル・オバマの著書。日本語版は「マイ・ストーリー」というタイトルが付いている。僕は英語版の原作+Audibleで読んだ。英語の文章は平易な表現が多くて読みやすく、Audibleはミシェル自身が朗読してくれて、その場面の感情が声にこもっていて楽しめる。

2018年11月13日に発刊された本書は、これまでAmazonで27,000件以上のレビュー、星4.8という世界的ベストセラーとなっている。タイトルの「Becoming」は、読む前は一体何になる話なのかと思っていたが、書籍内で「Becoming Me」「Becoming Us」「Becoming More」と彼女の半生が順を追って書かれており、その時に考えていることや情景が想像できてとても面白い。

本書を読了して印象に残ったことは三つある。

まず、何者かになるための向上心の大切さ。やはりアメリカ社会には根強い差別があり、本書の中にもミシェルが進学したプリンストン大学がほぼ白人で生活が楽しくなかったとか、子供の頃から差別が当たり前にあるような描写がある。だが、ミシェルは自分が置かれた状況に決して卑屈にならず、落ち込む度に周りの人に助けてもらったりしながら立ち上がり、向上心を持って前に進み続けていることが書籍全体を通して伝わってくる。本書では「Becoming More」で終わっているが、今後「Becoming More and More and...」と続いていくに違いないと思わせる力強さを感じる。

次に、ミシェルの家族への深い愛情。ハーバードのロースクールを卒業してからずーっと忙しそうなミシェルの人生だが、特に子供が小学校に行くような時期にファーストレディとしての役割を果たしていかなければならなかった日々は、相当忙しそうだった。それでもミシェルは家族との時間を意識してかなり優先して、娘の誕生日会をやったり娘の友人に会ったり、積極的にコミュニケーションをとっていた。子供も小さい頃からホワイトハウスに住んでシークレットサービスに囲まれた生活をしていると確実に浮世離れしそうなものだが、ミシェルもそれが分かっているのでできる限り「普通の子供」として親の愛情一杯に育てたかったのだろう。子育てが成功したのかは、本書の途中に当時の家族写真が何枚か挿入されていて、その写真を眺めていると伝わってくる。

最後に、人は何に突き動かされているか、目に見える行動はその人の深い価値観からくるものだと改めて知ることができる。ミシェルの価値観の原体験はまだ何者でもなく裕福でもない幼少期を過ごした自分の経験なのではないか。「生まれながらに悪い子供はいない、彼らは自分の置かれた状況をサバイブしようとしているだけだ」という言葉は、幼少期に彼女が見てきた光景なのだろう。ファーストレディになった後、ロンドンの貧困家庭が多い地区の学校を訪問した際に、女子生徒たちに希望について語っていた背景は、"They were me, as I'd once been."と書かれている。現在でも教育支援活動をしたりしているそうで、自分の人生のミッションとなっているのだと思う。

ほとんどの読者は、ミシェルのフラットな語り方や地に足のついた考え方やに共感するだろう。しかし悲しかな、そんな彼女が有名になればなるほど、彼女を差別的な言葉で攻撃する人が増え、彼女も壁を高くせざるを得なくなる。

オバマ大統領退任後は分断が進むと言われるアメリカ社会で、壁は再び高くなっていくのであろうか。アメリカの「今」と「これから」を考えることができる一冊だった。


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