夏を悼む
降るようなとんぼの群れ
北向きの崖の下
ぼくらは水たまりにしゃがみこみ
お互いの井戸の中をのぞきこむ
魚たちは線となって ぼくらの影を水の中に織りこむ
水の記憶は はるか海まで連なる
夏と秋の間の居心地のいい陶皿のくぼみ
あなたが炎となって燃え上がると ぼくは碧玉に澄み
ぼくが炎となって燃え上がると あなたはひたすら深くなる
向かい合ったぼくらの間に 昇るひとすじの煙
チャンダンの薫と 昏い石畳の重いイメージの残滓が
滝の音に混じり
空の奥からやってくる 鈴のイメージとともに
とんぼの複眼のひとつひとつに
くだけ散る世界
2004年 第3詩集『祈りのかたち』所収
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