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札幌ラーメン誕生の経緯を書いた七冊の本をレビュー 読むべき本は『「竹家食堂」ものがたり』
1.著書ごとに異なる札幌ラーメン誕生の経緯
札幌ラーメンのルーツは、かつて存在した竹家食堂にあるといわれています。その歴史を扱った本は複数出版されています。
ところが、札幌ラーメン誕生の経緯はそれぞれの本において異なっているのです。
一例をあげますと、それぞれの本における札幌ラーメンのルーツは以下のようなものです。
『さっぽろラーメン物語』(富岡木之介)1977年
・山東人の王文彩がもちこんだ拉麺
『さっぽろラーメンの本』(北海道新聞社編、著者は富岡木之介)1986年
・山東人の王文彩がもちこんだ拉麺
『これが札幌ラーメンだ』(北海道新聞社編、著者は富岡木之介)1994年
・山東人の王文彩がもちこんだ肉絲麺
『にっぽんラーメン物語(駸々堂出版)』(小菅桂子)1987年
・横浜から広東料理のコックを雇い、王文彩とともに現在のラーメンを開発(小菅は竹家食堂が開発したのではなく、横浜のラーメンがそのまま持ち込まれたものと判断)
『にっぽんラーメン物語(講談社α文庫)』(小菅桂子)1999年
・山東人の李宏業と李絵堂が、王文彩の肉絲麺を改良し現在のラーメンを開発(小菅は竹家食堂が開発したのではなく、横浜のラーメンがそのまま持ち込まれたものと判断)
『文化麺類学・ラーメン編』(奥山忠政)2003年
・『にっぽんラーメン物語(講談社α文庫)』に同じ
『「竹家食堂」ものがたり』(大久昌巳 杉野邦彦)2004年
・2つの異なる説が混在
・(大久のぼるの説明)李繪堂が王文彩の肉絲麺を改良し現在のラーメンを開発、その後横浜から来た広東料理人が焼豚とメンマを導入
・(大久昌巳の小説)横浜から来た広東料理人徐徳東が横浜の支那そばを導入
札幌ラーメン誕生の経緯だけでなく、様々な情報においてこれらの著書の内容は異なります。
その違いをスプレッドシートにまとめて公開しますが、ご覧の通り見事にバラバラです。
竹家食堂の歴史は書かれた本ごとに異なるという、混沌と混乱の中にあるのです。
2.それぞれの著書の評価
それぞれの著書についての私の評価です。
まず富岡木之介が書いた三冊の図書ですが、誰の証言なのか、どんな資料からの引用なのか、そのソースがほとんど示されていません。
また、竹家食堂創業者の長男大久のぼるの証言(『にっぽんラーメン物語』、『「竹家食堂」ものがたり』)や、創業者の四男大久昌巳の著述内容(『「竹家食堂」ものがたり』)と、富岡木之介が書いた内容が大きく異なります。
さらに、同じ著者が書いたにもかかわらず、書くたびに内容が大きく変わっていきます(スプレッドシート参照)。変更自体はあってもよいと思うのですが、その変更理由についての説明がありません。
これではとても、信頼のおける資料とは言えません。
次に『文化麺類学・ラーメン編』(奥山忠政)ですが、これも誰の証言なのか、どんな資料からの引用なのか、そのソースがほとんど示されていません。
ある程度情報源が明確になっている著書となると、竹家食堂創業者の長男大久のぼるの証言をベースに書かれた『にっぽんラーメン物語』と、大久のぼるへのヒアリング内容およびその弟である四男大久昌巳本人の書き下ろし小説が収録されている『「竹家食堂」ものがたり』になります。
ところが困ったことに、『にっぽんラーメン物語』はハードカバー版(駸々堂出版)と文庫版(講談社α文庫)で内容が異なっているのです。
3.『にっぽんラーメン物語』の内容について
『にっぽんラーメン物語』のハードカバー版(駸々堂出版)と文庫版(講談社α文庫)では、札幌ラーメンの起源に関する記述が異なっています。
ハードカバー版では、大久のぼるの証言として、横浜から広東料理のコックを雇い、王文彩とともに現在のラーメンを開発したとあります。
文庫版では大久のぼるの証言のうち上記部分が削除され、李宏業と李絵堂が王文彩の肉絲麺を改良したという別のストーリーで上書きされています。
文庫版執筆にあたり、小菅桂子は当時の従業員小川一輝にインタビューするなど、竹家食堂について再取材していたようです。再取材の経緯で、大久のぼるの証言が(原因は小菅の聞き間違いにあるかもしれませんが)間違いだと判断し、新しいストーリーに書き換えたのでしょう。
ともあれ、何の説明もなくハードカバー版と文庫版でストーリーを書き換えるという行為は、信頼性を損なう行為であるといえます。
以上に述べた理由により、7冊の本のうち最も信頼性が高い資料は『「竹家食堂」ものがたり』であると判断します。これから竹家食堂について調べる人は、まずは『「竹家食堂」ものがたり』から読まれることをおすすめします。
4.『「竹家食堂」ものがたり』の内容について
『「竹家食堂」ものがたり』には、二つの異なった竹家食堂の歴史が綴られています。
1つ目は、創業者の長男で、竹家食堂の支店芳蘭で働いていた大久のぼるの証言。杉野邦彦が本人からヒアリングした竹家食堂の歴史が、冒頭の「はじめに」において書かれています。
2つ目は創業者の四男大久昌巳が書いた小説「竹家食堂物語」。
ところが、兄弟であるにも関わらず、「はじめに」における長男大久のぼるの証言と、四男大久昌巳が書いた小説における竹家食堂の歴史が、大きく異なるのです。
最も信頼性が高い『「竹家食堂」ものがたり』においても、竹家食堂の歴史は混乱の中にあるのです。
次回は札幌ラーメンの誕生に関する『「竹家食堂」ものがたり』の二つの記述を比較します。