「不快のデザイン展」で心理効果を駆使した斬新なアイディアに触れるチャンス!
イントロダクション
先週末に東京のGOOD DESIGN Marunouchiで開催されている「世の中をよくする不快のデザイン展」に行ってきましたので、その紹介をしたいと思います。
「不快のデザイン展」では、意外性に満ちたデザインが展示されています。不快感を効果的に活用することで、注意喚起や行動変容を促すデザインが紹介されており、世界をより良い方向へ導くデザインの秘密に迫ることができます。
「不快のデザイン展」は、写真撮影・SNSシェアOKだったため、以下ではデザイン展で展示されていた内容の一部を掲載するとともに、所感を書きたいと思います。
不快で危険を伝える
筆者は任天堂Switchのゲームカードが誤飲を防ぐために苦く作られていることに気づかず、驚きました。確かに言われてみれば、ゲームカードはチロルチョコほどの大きさで、小さな子供が誤って飲み込んでしまう可能性は十分に考えられます。子供たちは好奇心旺盛であり、何でも口に入れてしまう傾向があるため、危険な物質や薬品の取り扱いに注意が必要です。
一方で、苦味は人間が本能的に避ける味であり、これは自然界で有毒な植物や動物が苦味を持つことが多いため、進化の過程で獲得された生存戦略と考えられます。任天堂が子供たちが不快な味わいを感じて直感的に口から出そうとする習性を活用して苦味を加えたことは、非常に賢明だと思います。
また、視界の不快に関しては、道路上に立体的に見えるような絵を描いておくことで、ドライバーが直感的にアクセルから足を離すような工夫がされているのも興味深い点です。最近運転しているとたまに見かけるこの現象も、人間の習性を巧みに利用していると感じました。
不快と快で学習する
ここでは、トレーニングパンツの紹介に加えて、「オペランド条件づけ」という心理学の行動プロセスが紹介されていました。
「オペラント条件づけ」は、端的にいうと、個体の行動が結果によって強化または弱化されるプロセスのことです。主な要素は正の強化、負の強化、正の罰、負の罰の4つで、報酬や罰を通じて行動の発生確率が変化します。
言葉でのコミュニケーションが難しい幼児期に、人間の習性を活用して、学習を促すことは、とても効果的に感じました。
不快で害を遠ざける
モスキート音とは、高周波数で通常人間には聞こえにくい音のことを指します。その周波数は約17,000 Hz以上になり、主に若年層が聞き取ることができます。年齢が上がるごとに高周波の聴覚能力が低下するため、成人や高齢者にはほとんど聞こえない特性があります。この特徴を活用して、若者だけに聞こえる音を作成したり、若者の集まりを遠ざける目的で使用されることもあるのです。
展示では、さまざまな年齢層の可聴域が掲示されており、設置されているつまみを操作して可聴域を変化させ、実際に音が聞こえなくなる体験ができました。筆者自身は30代であり、30代の音域は聞こえましたが、確かに高周波の領域は聞こえませんでした。自分の可聴域内の音が聞こえたことに安心感を抱く一方で、10代や20代の音域が聞こえないことに、少し歳を感じる思いもしました(笑)。
面倒で価値を高める
展示を観て納得できるポイントの一つが、人間は「簡単に手に入れたものよりも、何らかの対価や苦労をして手に入れたものを好む」という「コントラフリーローディング効果」と呼ばれる心理的バイアスが存在するという事実でした。確かに、苦労して作ったり組み立てたりしたものには愛着が湧き、その実際の価値以上の感慨が得られます。
画像にも記載されていましたが、筆者の自宅にはカラーボックスなどの組立家具がいくつかあります。これらの家具は、「イケア効果」という特徴的な名前が付けられていることを初めて知りました。この名称は、家具メーカーIKEAから由来しており、その意味を知ることが非常に興味深い体験でした。
筆者自身、エナジードリンクの特有の味に苦手意識を持ちながらも、先ほどの「コントラフリーローディング効果」の一種である「大きな報酬を得るためには、相応の不快感を受け入れなければならない」という錯覚が、その味に関与していることに気づくと驚きました。
眠気を吹き飛ばしたい時や集中力を高めたい時に、美味しくて量が多く飲めて値段が安いエナジードリンクAと、独特の味がして量が少なく値段が高いエナジードリンクBのどちらが効果的だと思うかと問われると、後者Bの方が効きそうだと感じます。
昔から言われている「良薬口に苦し」という言葉が示すように、我々は良い薬は不味いものだと考えがちです。このことから、エナジードリンクの独特の味は、意図的に消費者に効果があると感じさせるために利用されている可能性があることがわかります。
無駄で夢中にさせる
SNSのUXデザインにおいて、「断続的対価による行動強化」が効果的な手法として紹介されています。人間の心理は、連続して快感を与えられるよりも、快感と不快感がランダムに与えられる方が、その行動に熱中しやすい傾向があると言われています。
通知や「いいね」が存在する状態と存在しない状態、InstagramのリールやTikTokの面白い投稿や情報が表示される状態とされない状態、これらがランダムに切り替わることで、ユーザーはページを開く回数が増えたり、リールの閲覧時間が延びたりする効果が見られます。
また、最近のスマートフォンゲームでは、ガチャという仕組みがこの心理効果を利用していると考えられます。プレイヤーはランダムな確率でアイテムやキャラクターが手に入るガチャを引くことで、獲得できる喜びと失敗したときの悔しさを繰り返し経験し、ゲームへの没頭度が高まります。
このように、SNSやゲームのデザインでは、「断続的対価による行動強化」がユーザーのエンゲージメントを高める効果的な方法として活用されていることがわかります。
まとめ
不快感をデザインに活用することは、注意喚起や記憶への刻印、差別化と競争優位の面で非常に効果的です。心理学的な理由からも、このアプローチは効果的であることが明らかとなります。不快感をデザインに適切に取り入れることで、日々の生活はもちろん、ビジネスやプロジェクトに大きな成果をもたらすことができるでしょう。
不快のデザイン展は、入場無料で4月23日(金)まで開催されています。興味がある方はぜひ足を運んでみていただければと思います。
上記で紹介した展示は一部であり、他にもまだまだ興味深い内容の展示が盛りだくさんです。心理効果を利用した独創的なデザインが紹介されるこの展示会で、新たなアイディアやインスピレーションを得る絶好の機会です。おすすめです。